第三十八話 レッドドラゴン
リーゼたちが実習を行っている頃、王都はいつも通り活気に満ち溢れていた。そんな王都の中でも異端なセイの家ではいつも通りティファがゴロゴロしていた。
「そろそろかな」
「どうしたの」
セイはお茶を飲むのをやめ壁にかけていたローブを着た。
「今からエンネのところに行こうよ」
「別にいいけど唐突ね」
「うん。急用だからね」
「そう、準備するから待ってて」
ティファは自分の部屋へと着替えに行った。しばらく待つと、ティファが部屋から出てきた。腰にはセイが渡したマジックバックをつけている。
「準備できたわ」
「それじゃあ行こうか」
二人はエンネシアのいる大聖堂へと向かった。
「ん?なんだかあわただしいね」
「そうね。ちょっと聞いてくるわ」
二人が大聖堂に着くと修道女や神父たちがあわただしく走り回っていた。
「どうしたの」
「ああ、ティファ様やっと見つけました。急いでエンネシア様の下へ来てください」
教会の人たちはティファを探していた。今日の朝、神父が祈りをささげている時にエンネシアから急いでティファを連れてくるようにとお告げがあったのだ。すぐにティファの家へと信徒が向かったのだがティファはおらずこうして教会内があわただしくなっていたのだ。
「分かったわ。セイ行きましょ」
二人は急いで大聖堂に入るとティファが魔法を使った。
「我神の信徒なり・我神に忠誠を誓いし使徒なり・故に道を開かん、ロードサイン」
二人が目を開けると景色が変わり白い空間へとやってきていた。
「あ、やっと来てくれた」
エンネシアはこの前来た時とは違いきちんとした幻想的なドレス姿だった。
「あんたがちゃんとしてるってことは緊急事態ってことね」
「む~私はいつでもちゃんとしてるでしょ」
「ないな」
「ないわね」
二人から速攻で否定される女神様。
「て、こんなこと言ってる場合じゃなかったんだ。『魔王軍』が現れたの!」
エンネシアはとても慌てていた。
「やっぱり緊急事態じゃない」
「それで今どんな感じなんだい」
「セイ君は知ってるんだね」
「僕もさっき気づいたばっかだからね」
セイも『魔王軍』が現れたことには気づいていた。エンネシアは目の前で立体の地図を創り出す。
「ここって、実習場所の森じゃない⁉」
ティファは驚きで叫んだ。
映し出された地図は現在リーゼたちが実習を行っている森だった
「そうなの、それでこれが『魔王軍』」
浮かび上がった地図上のいたる所に赤い光が点灯した。
「その数約300、ほとんどがファントムアサシンだけど一体だけ大きな存在がいる」
地図に点灯している赤い光の中で一際輝いている光がある。この光はその者の魔力によって光り方が変わるためこの光の主は強力な魔力を持っていると分かる。
「大きさ的にドラゴンだと思うの」
「まずいね」
魔力的にレッサードラゴンのではない。上位のドラゴンだ。そうなると学生や教師たちでは手に余る。
「今すぐ行ってくるわ」
「ダメだよ」
「どうしてよ!」
ティファが森へと向かおうとするがセイはそれを止める。
「君が走っても間に合わないよ」
「ティファちゃん落ち着いて、それに一人で被害を出さないようにこの数を相手にするのは無理だよ」
「う…ごめんなさい。少し取り乱したわ」
ティファは生徒達とほとんど関りはないが大事な生徒であるのには変わりないのだ。
「たぶんある程度の時間の猶予はあると思うんだ」
「リーゼちゃんたちね」
「そう。リーゼたちならある程度はファントムアサシンを倒せると思う。最悪<神剣>を使えばあの数くらい何とかなるしね」
リーゼはまだ<神剣>を使っていない。そのためまだ時間の猶予はある。
「アイナちゃんもまだスキルを使ってないしね」
「今すぐ行ってもいいんだけどティファは準備できてるかい」
「もちろんよ。もう全部この中に入ってるわ」
そう言ってティファは腰につけているマジックバックを触った。
「さすがだね」
「あ、ファントムアサシンたちが減ってる」
エンネシアが次々に赤い光が消えていることに気が付いた。戦闘が始まったのだ。
光が何かを追いかけて一点に集まっている。
(やっぱり『魔王軍』はリーゼを狙っているのか。ドラゴンは動かないか……向こう的にも失いたくない戦力ってところか)
つまりはこのドラゴンは今『魔王軍』が出せる最大戦力ということが予測できる。
「動いた!」
ドラゴンと思われる光が動き出した。それと同時にこの空間が少し光った。
「…セイ君急いだほうがいいかも」
「分かってる。ティファ行こう」
「ええ」
ティファがセイの手をとった。
「それじゃあ行ってくる」
「気を付けてね」
セイとティファはこの空間から姿を消した。
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ファントムアサシンを倒し終えたリーゼたち
「はぁ、何とか倒せたね」
「これからどうするんだ」
「とりあえず戻ったら先生たちに報告ね」
実習の最中に『魔王軍』が現れたとなれば大問題となる。すぐに何かしらの対策をたてなければならない。
「グルァァァァ!!!」
「⁉」
不意に空間を揺らすほどの咆哮が森中に響き渡った。
「うそ、でしょ」
「……まじかよ」
森の木々をなぎ倒しながら目の前に現れた存在に言葉を失った。
その存在は鋭く光る眼光、凶暴な牙、赤いうろこで覆われた巨体に悠然と広げる大きな翼を持っている。リーゼはすぐに<鑑定>を使った。
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レッドドラゴン
体力 S
魔力 S
筋力 S
俊敏 S
称号 『魔王軍』
スキル <ブレスlv8>
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能力値オールS、リーゼが今まで見た魔物の中で最も強い。リーゼたちは疲弊しきっているのに対しレッドドラゴンは悠然と木々をなぎ倒しながら歩いている。
戦力差は絶望的だ。
その時ドラゴンがリーゼたちを見た。
(まずい⁉)
リーゼは咄嗟に叫ぶ。
「顕現せよ!神剣フラム!」
リーゼの目の前に白く輝く一振りの剣が現れた。
「はぁ!」
神剣を握り全力で振るう。白い炎が解き放たれレッドドラゴンを包み込んだ。
「グラァァァァ!」
レッドドラゴンは悲鳴を上げその場で転げまわる。そのたびに土煙がまい木々が倒れ、森が荒れていく。
「すげぇ」
「あれが神剣」
アイナとアレンは初めて見る神剣の力に見惚れていた。
「う…今のうちに逃げよう!」
魔力をかなり使ってしまいふらつくがすぐに体勢を立て直し、逃げる。二人も男性教師を肩に背負いこの場を離れようとするが、そんなことレッドドラゴンは許さない。
レッドドラゴンは口を広げるとそこに魔力が集中し一気に解き放った。
「グルァァァ!!!!」
その瞬間超高熱のブレスがリーゼたち目掛け放たれた。
「⁉」
リーゼは咄嗟に神剣を横なぎに振るった。すると神剣から放たれた白い炎がブレスとぶつかり爆発した。
「う……」
「リーゼ!」
リーゼは今の攻撃で全ての魔力を使い果たし最悪のタイミングで魔力欠乏を起こしてしまった。
神剣は消え、リーゼを守る物はもう何もない。アイナは魔力欠乏、アレンは男性教師を抱えているためすぐに動くことができない。
レッドドラゴンは怒りに燃えもう一度口を広げ魔力を集める。それはさっきの比ではないほど魔力量が尋常ではない。確実にリーゼたちを殺すつもりだ。
リーゼは何とか立ち上がり逃げようとするが間に合わない。
「アイスバインド」
誰かの声が響いた時レッドドラゴンが集めていた魔力ごと一瞬にして凍り付いた。
「君はいつも無茶をするね。もう少し自分の事を考えなよ」
リーゼにとって聞きなれた優しい声
その声を聴いた直後、リーゼの中で不思議な安心感が溢れてきた。
「頑張ったね。リーゼ」
「はい」
目の前に降り立ったのは黒髪の青年『魔道王』セイだった。




