第三十四話 いざ校外実習へ
リーゼは自分の部屋で持ち物の確認をしていた。
「剣とあと携帯食に水筒、他には……」
「準備は順調かい」
ドアが開き中に入ってきたのはセイだ。
「はい。あの予備の剣とかって持っていった方がいいですか」
「持って行った方がいいと思うよ。森の中だと何が起こるか分からないしね」
リーゼは、学院の行事である校外実習で今日から二日間王都の近くにある森でサバイバルをする。今はその準備中だ。
リーゼはセイが部屋に入ってきた理由を尋ねる。
「そういえば、何かあったんですか」
「そうだった。家にアイナが来てるよ」
「え!もうそんな時間だったの」
リーゼは部屋に置いてある時計を確認する。するともうとっくにアイナとの集合時間を過ぎていた。
準備に気を取られていて時間を確かめていなかった。
「どうしよう。まだ準備が」
「安心して、アイナにはお茶を出しとくから焦らず準備をしなよ」
「ありがとうございます」
リーゼは、必要な物をカバンに詰めていく。その後、制服に着替え愛剣を腰に提げるとカバンを持ち急いで部屋から出た。
「ごめん、お待たせ」
「あらリーゼ準備は終わったの」
慌てて出てきたリーゼとは対照的に部屋では制服姿のアイナがソファに座り優雅に紅茶を飲んでいた。
「それじゃあセイさん、またお話聞かせてください」
「構わないよ。また遊びに来るといいさ」
「はい、ぜひ。それじゃあ行きましょう」
アイナがソファから立ち上がるとセイに一礼し、玄関へと向かった。
「あ、待ってよ。いってきます」
「いってらっしゃい。気を付けるんだよ」
慌ててリーゼがアイナの後についていく。セイはそんなリーゼを優しく見送った。
外に出たリーゼは急いでアイナに追いつく。
「ちょっと待ってよ」
「そんなに早く歩いてないと思うんだけど」
「ふぅ、追いついた」
リーゼはアイナの隣を歩く。
「そういえばセイと何を話してたの」
「気になるの?」
「それは気になるよ」
「ふふ、内緒よ」
アイナはいたずらっぽく微笑むとリーゼは少しムスッとした。
「ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃん」
「どうしようかしら?」
「ね~教えてよ」
リーゼは、アイナにくっつき頼むがアイナは微笑むだけで何も教えてくれない。
(リーゼのことを教えてもらったなんて言えないしね)
アイナは、先ほどセイからリーゼのことを色々と教えてもらっていたのだ。クロッサス村でのことリーゼの家族についてなど、アイナはリーゼのことを知ってもっと仲良くなりたいと思っていた。そんなこと本人に言えるわけもないため照れ隠しで微笑んでいるのだ。
そうこうしていると家を囲む結界である白い壁へと辿り着いた。
「ほらあなたが触れないとここから出られないんだから」
「あ、そうだね」
リーゼが白い壁に触れるとそこに扉が現れた。その扉を開け外に出ると王都の人々で大通りがにぎわっていた。
「入るときも思ったのだけど森から出てきたのに誰も私たちに気づかないわね。どうしてなの」
アイナの言う通りだ。300年間誰も入れなかった森から人が出てきたともなれば必ず騒ぎになるはずだ。それなのにもかかわらず大通りを行きかう人々はリーゼたちのことを気にも留めないのだ。
「セイが魔法で結界から出るときに私たちを認識?できないようにしてるらしいよ」
「…そんな魔法があったら警備なんていないようなものじゃない。まぁセイさんなら悪用しないだろうから心配はしてないけど」
アイナの言う通り悪用しようと思えば王城に侵入しても誰にも気づかれずに城の物を盗み出したり要人の暗殺なども簡単に行うことができるようになってしまう。
しかし、その魔法を使えるのはセイを含めてごく少数なのであまり悪用される心配はないのだ。
「そうだよ。それよりアイナ、持ち物はどうしたの」
アイナは、制服姿で特に持ち物を持っているようには見えない。
「それなら心配いらないわ。これがあるから」
そう言うと腰に提げている小袋を叩いた。
「何それ」
「これはマジックバックよ。家にあったのを持ってきたのよ」
マジックバックとは、魔道具の一種で中は空間魔法で別次元につながっている。そのため持ち物の重さを感じることなく運ぶことができるとても便利な魔道具なのだ。
「ずるいよ」
「そう思うならセイさんに作ってもらえばいいじゃない。これは300年前にセイさんが作った物らしいのよ」
そうアイナが持っているマジックバックはセイが300年前仲間たち専用に作り出したマジックバックだ。
「それなら私も帰ったら頼んでみよう」
「そうしなさい」
この二人は軽い感じでセイのマジックバックのことを話しているが実際はとんでもない代物なのだ。普通マジックバックには容量があり入る量に制限がある。だがセイが作り出したマジックバックは容量なくさらには時魔法により中の物の時間を止めるというでたらめな性能を持っているのだ。
300年前この話を聞いたライルたちは、このことを秘匿したのだ。あまりにも強力な魔道具のため他の誰かに知れ渡るとこのマジックバックをめぐって戦争が起こりえるほどだったのだ。
リーゼたちは楽しくお喋りしていると学院へと着いた。そのまま教室へ向かうのではなく今日はとても広いグラウンドへと向かった。そこにはたくさんの生徒達がすでに並んでおり教師たちも並んでいる。
「遅いわよ。早く並びなさい」
「ティファさん、なんでいるんですか」
リーゼたちの前にティファが現れた。
「私はこの学院の理事長よ。行事の時くらい来るわよ」
(いつもごろごろしてるからティファさんが『妖精姫』様だってこと完全に忘れてた)
そんな風にリーゼが素で失礼なことを考えているとティファに鋭く睨まれる。
「あんた今失礼なこと考えたでしょ」
「…考えてませんよ」
リーゼは小声で顔をそむける。完ぺきに考えてることが表情に出てしまっていた。それを見ていたアイナは笑いをこらえている。
「修行をもっと厳しくしようかしら」
「望むところです」
「…あんたほんと剣が好きね」
「?」
ティファは罰として言ったのだが逆にリーゼを喜ばせてしまった。
「はぁもういいわ。早く並びなさい」
「は~い」
二人は自分のクラスの最後尾へと並んだ。
「よぉ」
「あら速いわねゴミムシ」
「おはようアレン君」
最後尾にはアレンがいた。開口一番にゴミムシと言われてももうめげない。
「お前ら静かにしろ」
サイラが生徒たちにそう言うと全員が静かになった。
「それでは出発式を始めます。理事長ティファ・アロンテッド様よろしくお願いします」
生徒たちの前へティファが立った。
「私から言えることは三つよ。油断しないこと、作戦を練ること、死なないこと。この三つに気をつけなさい」
それだけ言うとティファは、校門へと向かい帰っていった。
「ティファさんどこ行くの」
「帰るんじゃない」
「一緒に実習に行くんじゃないの」
「行かないわよ。ティファ様は理事長だけど例年、行事で挨拶をすることしかしないわ」
「絶対さぼりたいだけだよね」
「そう思う学生は、あなたくらいよ」
失礼なことを普通に言うリーゼ。だがリーゼの言っていることはあっている。実際ティファが行事に参加しない理由は付き添いが面倒だから、それだけだ。
その後注意事項が説明され、高学年から歩いて実習場所へと向かう。
「俺らも移動するぞ」
サイラの合図とともにリーゼたちのクラスも移動を始める。
「ふんふふん」
他の生徒たちが気を引き締める中リーゼだけはまるでピクニックにでも行くかのように鼻歌をしながら歩いている
「なんでそんなに楽しそうにしてるのよ」
「だって私こうやって大人数で出かけることが無かったからさ」
「出かけるって今から魔物を狩りに行くのよ」
「そうだけど楽しいじゃん」
「はぁ、暢気ね」
アイナは呆れるがその笑みは暖かかった。リーゼは胸を高鳴らせながら実習へと向かうのだった。




