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第三十二話 レッサードラゴン討伐戦

 セイは依頼書に書かれていた王都の近くにある小高い山へとやってきていた。

 依頼内容は、ここの山の近くに存在する辺境にある都市と王都をつなぐ交通路でレッサードラゴンを見かけたため被害が出る前に討伐しろとのことだ。


 レッサードラゴンは気性が荒く獲物をみつけるとすぐに食らいつくという習性がある。大体は野生の動物や自分より弱い魔物をくらうのだが空腹状態になると人も獲物としてみてしまうのだ。依頼者はそれを危惧したのだろう。

 

「探そうか」


 セイは、山の中を歩いてく。山の空気はとても澄んでいて心地いい。小さな動物たちが山の中を駆け回っている。

 しばらくの間、レッサードラゴンのいた痕跡を探すも見当たらない。それどころか他の魔物の痕跡も見当たらない。

 

「おかしいな?依頼書にはここに居るって書いてあったんだけどな」


 魔物がいないのはいいことなのだが、いないはいないで問題があるのだ。

 

「……力が制限されてなかったらな」


 セイはそうぼやく

 禁忌魔法を使うことができれば魔物の痕跡を探すことなど容易にできるのだが今は力が制限されているため禁忌魔法を一回も使用できない。

 

「嫌な予感がするな」


 300年前もセイが冒険者として活動していた時こんな風に魔物が見つからないことがあった。その時にはその数日後に大量の魔物による王都襲撃が行われた。また同じようなことが起こる気がしてならない。

 

「ワォォォン!!」


 そんなことを考えていると遠くの方から遠吠えが聞こえてきた。

 

「レッサーウルフか」

 

 セイはすぐに遠吠えの聞こえた方へと向かった。どんどん山の奥へと入っていく。やがて複数の魔物の気配を感じ取れた。

 

「へぇ、こんなところにいたとはね」


 セイが止まった先にはレッサーウルフが数体で大きな魔物を取り囲んでいた。

 

「グルァァァァァ!!!」


 そこには体長およそ6mほどの巨大なトカゲがいた。体は緑色のうろこで覆われ、黒く鋭い瞳に口元から凶悪な牙をのぞかせている。

 

 レッサードラゴンだ。


 レッサードラゴンはレッサーウルフたちに取り囲まれ臨戦態勢だ。どちらかが動けば戦いが始まる。

 セイは確認のため<鑑定>を使いレッサードラゴンを視る。


~~~~~~


レッサードラゴン

体力 S

魔力 A

筋力 S

俊敏 B

称号 なし

スキル <ブレスlv6>


~~~~~~


 とても能力値は高い。真正面から戦ってレッサーウルフたちには勝ち目はない。

 

「さて、どうなるかな」


 セイは、ここは傍観に徹することにする。今すぐに戦いに参加し勝つことは出来るが今の魔物の力に少し興味が出たため観察を始めたのだ。

 

「ワォォォン!」


 先に動いたのはレッサーウルフたちだ。レッサーウルフはレッサードラゴンへと全力で駆けていく。途中に左右へ飛びドラゴンに狙われないようにかく乱する。

 一匹がドラゴンの目の前まで迫ると飛び越えようと上空へと飛んだ。

 

「グル」


 ドラゴンは頭を思いっきり上へと振るうと頭上にいたレッサーウルフの体を打ち上げた。

 レッサーウルフは頭がぶつかった衝撃により体から大量の鮮血を飛び散らせる。そのまま地面へと打ち付けられる。そこには血だまりができておりその中央にはレッサーウルフだったものが転がっていた。

 

(見といてよかったかもね)


 今の一撃をくらえば力が制限されているセイではひとたまりもなかっただろう。

 レッサーウルフは仲間が殺されたのにもかかわらず果敢に攻めに行く。このまま逃げようとすればレッサードラゴンに食われてしまう。魔物の世界とは弱肉強食なのだ。隙を見せた者から死んでいく。そういう厳しい世界なのだ。


 レッサードラゴンは退屈そうに次々に迫ってくるレッサーウルフたちを殺していく。一匹は尻尾で薙ぎ払われ、一匹は爪で引き裂かれ、ある一匹は無残にも食い殺された。そして最後の一匹までもが簡単に殺された。

 その場には無残な光景が広がっていた。レッサーウルフたちの死骸と血が散らばっている。

 レッサードラゴンは戦利品を食らう。

 

「もういいかな。アイスバインド」


 セイの魔法によりレッサードラゴンが凍り付いた。

 セイは冒険者ギルドに行く前に買っておいた鉄の剣を取り出した。そのまま切ろうとドラゴンへと近づくが凍り付いたドラゴンの表面に亀裂が走った。

 

「やっぱりそうなるよね」


 セイは自分の弱体化度合いに苦笑しながらすぐに後ろに飛び退いた。

 次の瞬間、拘束を解いたレッサードラゴンがセイのいた場所に噛みついた。

 

「グルァ!!!」


 食事を邪魔されたことが随分と頭にきてるらしい。レッサーウルフとの戦いではその場から動かなかったレッサードラゴンがその巨体を動かした。

 

「まずい⁉」


 セイは、レッサードラゴンの攻撃を次々に避けていく。反撃しようにも攻撃手段がこの鉄の剣しかないのだが、今のセイではではドラゴンの硬いうろこは切り裂くことができない。魔法も使うことは出来るがどれも威力が高すぎてレッサードラゴンの素材を痛めてしまう。

 

「どうしようか」


 セイは考えるが特にいい案が思いつかない。

 

(サンフレアを使ってもいいんだけど、そうすると中の肉まで完全に焼けちゃうけど、今は時魔法が使えないから保存が効かないしなぁ)


 そんなことを考えながら時折レッサードラゴンの攻撃を鉄の剣を使ってうまく受け流していく。だが、そんなことずっと続くわけもなくとうとう鉄の剣が折れてしまった。

 

「一回離れるか」


 セイは冷静に一旦レッサードラゴンと距離をとろうとするがおもむろにドラゴンの口が開いた。そこからわずかながら魔力と熱気を感じ取ることができた。

 

「グルァァァ!」


 レッサードラゴンの雄叫びと共に口から高熱のブレスを吐き出した。そのままブレスは真直ぐセイを呑み込みながら後ろにある木々を燃やし尽くした。

 焼け跡を確認するとレッサードラゴンはもう一度食事へと戻ろうとするがそれは叶わなかった。

 

「はぁ、もう仕方ないかな。サンフレア」


 どこからともなく響いた青年の声と共にレッサードラゴンが炎の球体に包まれた。うろこは焼け焦げ、肉が焼ける匂いがしてくる。レッサードラゴンは暴れるが太陽の如き炎から逃れられるわけもなくそのまま絶命した。

 

「やっぱり焦げちゃったか」


 セイは倒し終えたレッサードラゴンのウロコの状態を確認する。

 何故セイがあのブレスをくらって生きているかというとブレスをくらう直前に結界を張ってブレスを防いだのだ。その直後レッサードラゴンの後ろへ転移し綺麗に倒す方法が思い浮かばず渋々炎魔法を使ったというわけだ。

 

「これじゃあ売るのは無理かな。肉は食べれる分だけとって後は燃やすしかないな」


 セイは、レッサーウルフの方を見る。

 

「レッサーウルフは……もう無理かな」


 レッサーウルフはどれも原形をとどめていないため素材として使うことができない。そのためセイは魔法で全て燃やし尽くした。

 

「どうやって持ち帰ろうか」


 セイは、空間魔法を使って持ち帰ることが可能だがそれをやってしまうと自分が相当な実力者だということがばれてしまう。

 

「どっちにしろ、だめだね」


 空間魔法を使わないで持ち帰ったとしてもレッサードラゴンを単独で倒した時点で実力がばれてしまうため使わないだけ損だ。

 セイは空間魔法を使いレッサードラゴンの死骸をしまうと王都へと転移した。



~~~~~


 王都にある冒険者ギルド

 

「あの人大丈夫かなぁ、はぁ」


 一人の受付嬢が憂鬱そうに溜息を吐いた。一緒に受付を担当している女性がそれに気が付いた。

 

「どうかしたの?」

「レッサードラゴンを一人で討伐しに行った鉄ランクの冒険者がいてさ、大丈夫かなって」

「ああ、あの優しそうなお兄さんね。かっこよかったわね」

「そうだね。て違うよ!レッサードラゴンって金ランクの冒険者がパーティーを組んで倒すんだよ。あの人が無事ならいいけど」


 そんな風に話しているとギルドの扉が開いた。セイが中に入ってきた。

 

「あ、戻ってきたよ」

「良かった、考え直してくれたんだ」


 受付嬢たちはセイがレッサードラゴンを倒せないと判断して戻ってきたと考えた。セイの服は一切の汚れが無く戦闘を行ったようには見えないのだ。

 セイが受付まで来ると受付嬢は笑顔で出迎える。

 

「依頼はどうでしたか」

「討伐したよ」

「へ?」


 セイの予想外の言葉に受付嬢は変な声が出てしまう。

 

「ちょっと待ってね。今出すから異次元の扉」


 ギルドの床が黒く染まりそこからレッサードラゴンの死骸が出てきた。それを見た受付嬢たちは言葉を失い、酒を飲んでいた冒険者は口を開けて呆けたり持っていたジョッキを落とす人までいた。

 

「はい、レッサードラゴン。あと素材は燃やしすぎちゃったからあんまり取れないと思うけど……どうしたの?」


 セイは、反応のない受付嬢を心配するがいっこうに反応する気配がない。

 

「きゅ~」


 受付嬢がその場で倒れてしまった。

 

「新人冒険者がドラゴンを討伐したぞ!」

「うぉぉぉぉ!」


 酔っ払った冒険者たちは叫びはじめギルド内は一種のカオス状態に陥るのだった。


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