第三十一話 冒険者ギルド
王都に来て二週間が経過した。現在家にいるのはセイとティファだけだ。リーゼはというと学院でアイナ、アレンと一緒に校外実習のために連携の練習をしに行っている。
ティファはソファに転がり本を読んでいるとふと何かを思い出した。
「そういえばあんた仕事しないの」
「お金には困ってないしまだいいかな。はい、お菓子と紅茶だよ」
セイはキッチンから紅茶とケーキを持ってきた。ティファは本を読むのをやめセイが持ってきたケーキを早速食べ始める。
「もぐ、美味しいわね」
「それはよかったよ。この前外に出て買ってきたからね」
ティファはケーキを美味しそうにほおばる。しばらくケーキに夢中になっているとハッと我に返る。
「ケーキじゃなくてセイの仕事の話よ」
「だからさっきも言ったじゃないかお金には困ってないから働く必要が無いんだよ」
「それだとエンネのこと言えなくなるわよ」
「うぐ」
ティファから切り出された鋭い言葉がセイの心に深く突き刺さる。
セイは散々エンネにだらけてる、働けなど言っているが現在のセイは働いてないという点でエンネと同様、いや忙しくしているエンネシア以下ということになる。
「はっきり言ってエンネは最低限の仕事はやってるから今のあんたよりは忙しいわよ。あ、私も最低限の仕事もやってるわ」
「……」
ティファはエンネの事だけでなくついでに自分の事も主張する。セイはそれに対して何も反論することができない。
「というわけで、はい」
ティファはどこからともなく数枚の資料を取り出した。
「これは?」
「仕事先の紹介よ」
資料をよく見るとそれぞれに仕事内容とそれに必要な物が記されている。いわゆる求人票だ。
「清掃員に学院の教師、それにこれは冒険者か」
セイは少し考える。
(確かに働いてないのはよくないかもね、だけど時間を取られるのは困るな……そしたらもう一つしかないかな)
セイは一枚の資料を取った。
「やっぱりこれかな」
セイがとったのは冒険者の資料だった。冒険者なら好きな時間に依頼を受けられるためちょうどいい。
「まぁそうなるわよね。できれば学院の講師になってほしかったけど」
「はは、僕は人に教えるのはあまりうまくないから無理だよ」
「はぁ、そう言ってるのが不思議なのよね。あんな化け物生み出しといて」
「彼女のことをそんな風に呼んだらだめだよ。それに彼女は元々才能があった僕はそれを伸ばしただけだよ」
ティファの言っている化け物とは300年前セイが唯一弟子にした少女の事だ。彼女はセイに教えを請いどんどん魔法の知識を吸収していった。セイがいなくなったとされる現在では最強の魔法使いとまで呼ばれるほど成長した。
「それで、冒険者に戻るとしても昔と同じように行動するわけにはいかないでしょ」
「確かにどうしようかな」
300年前セイは、冒険者として活動していた。そのおかげで魔道王としての地位を確立した。そのため昔と同じ名義で冒険者として活動してしまうと混乱を招いてしまう。
「何となく予想してたから用意しといてあげたわ」
ティファは鈍く輝く銀色のカードを一枚取り出した。
「冒険者カードよ。最低ランクだけど、これなら登録からやる必要ないでしょ」
「流石にダイヤだと問題あるしね」
冒険者になるには登録する必要がある。登録には自分の能力の開示が条件だ。その場合セイにとって色々と不都合が起きるためティファに用意してもらったカードはとても助かる。
冒険者にはランクがある。下から、鉄、銅、銀、金、白金、そして最高がダイヤだ。元々は白金までしかなかったのだが、知られているセイの功績だけでも異常だったためダイヤが用意されたのだ。つまりセイは初代ダイヤランクということだ。
「それと称号は『魔法使い』になってるから」
「ありがとう」
冒険者カードは基本的に偽装できない。だが、権力者の後ろ盾があればこのように偽装も可能というわけだ。
「それじゃあ早速行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
セイは冒険者カードを受け取ると早速冒険者ギルドへと向かった。
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セイは王都にある冒険者ギルドへとやってきた。
「へぇ、あんまり変わってないね」
セイが冒険者ギルドに入るとまだ昼前なのにもかかわらず酒を飲んでいる冒険者が多くとても騒がしい。
奥には受付嬢たちがいる。壁際には掲示板がありそこには依頼が書いている紙がいくつも貼りつけられていた。
「う~ん、めぼしい依頼はないな~」
セイは掲示板の前で依頼内容を見ていた。『レッサーウルフの討伐』『都市ソエルスまでの商人の護衛』『下水道の清掃』などがあった。討伐系はすぐに終わるが依頼料が安い。護衛では時間がとてもかかってしまう。
「おい、兄ちゃん見ねぇ顔だな」
突然、男の声が聞こえた。後ろを振り向くとそこには大剣を担いだ大男がいた。大男は若めだが顔は怖く子供が見たら泣き出してしまうだろう。そしてなんといっても特徴的なのはその顔に似合わず頭についているケモ耳
(王都に獣人がいるとはね)
目の前の大男は獣人だった。獣人はその名の通り獣の特徴を持つ人のことを言う。身体能力がとても高く好戦的な性格が多い種族だ。
「僕は最近冒険者になったばかりだからね」
「そうなのか、ならこんなのがいいんじゃないか」
そういうと一枚の依頼書を掲示板からはがした。そこには『レッサードラゴンの討伐』そう書かれていた。
「僕は冒険者になったばかりだよ。ドラゴンの討伐なんて無理だよ」
たとえレッサーと言えどドラゴンであることには変わりない。ドラゴンの強さは、地上に存在する生物の中で頂点に位置する強さだ。そんな生物に勝てるものなどほとんどいない。
「そうか?お前の実力ならいけると思うけどな」
そう掲示板を見ながら言われた。からかわれてるだけにも思えるがこの獣人は真剣に言っている。
(へぇ、やっぱり獣人はすごいね)
セイの実力が完全にはばれてないが何となくは伝わっている。
獣人は固有のスキルを持っている。<気配感知>というものだ。このスキルは基本的には相手の気配を感じ取るだけなのだが一定のレベルまで到達すると相手の実力が何となくわかるようになるのだ。
「この依頼を受けることにするよ。君、名前は」
「俺はゼンだ。お前は」
「僕はセイだよ。よろしく」
二人は握手を交わした。するとゼンは何かに納得したように小さく頷く。
「じゃあ僕は受注してくるから」
「おう、またな」
セイはゼンに手を振ると依頼書を持ち受付へと向かった。
「この依頼を受けたいんだ」
「はい、冒険者カードをお出しください」
セイはティファからもらった冒険者カードを受付嬢へ渡した。
「……あの、鉄ランクの冒険者ではレッサードラゴンの討伐は難しいと思いますが」
「心配する必要はないよ」
「ですが、失敗すると違約金などが発生しますが本当によろしいのですか」
受付嬢の心配は最もだ。冒険者が無謀な挑戦によって命を落とすことは多々ある。そのため、そんな冒険者の挑戦を止めるのも受付嬢の仕事だ。
だが、その心配はセイにとって無意味なことだとは知らない。
「うん、大丈夫だよ」
「そう、ですか。分かりました。では気を付けてください」
セイの一歩も引かない姿勢から受付嬢は歯切れが悪そうにしながらも納得した。
「うん、ありがとうね」
セイが優しく微笑むと受付嬢の頬が少し染まる。
「は、はい」
頬を染めた受付嬢に見送られながらセイは冒険者ギルドを後にする。
セイは、城壁の外まで行くと早速空間魔法でレッサードラゴンのいる場所へと向かうのだった。
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セイと別れたゼンはというと冒険者ギルドを後にし、活気あふれる王都を散策していた。しかし、そんな王都とは裏腹にゼンは内心ひどく疲れていた。
(まさか本当にあの『魔道王』様が生きていたとはな。あのお方もおっかないことを頼んでくるもんだぜ)
ゼンは、セイの正体に気づいていた。セイと話している間も内心ずっと緊張していてたまに敬語が出てこないかと心配になったくらいだ。
(まさか、急に王都で『魔道王』様に会ってこいって言われるなんて誰が想像できたか)
ゼンは、自分の主人の命によりここ王都ゼノフへとやってきていたのだ。
役目は果たしたので普通はこれから王都散策をと考えるのだがゼンにそんな余裕はない・
(はぁ、これからあの方に報告か、疲れるな)
主人のことを考えると自然と憂鬱になる。そんなことを思いながらゼンは王都を去るのだった。




