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第三十話 地下での密会

 場所は学院の一年生教室、現在は休み時間だ。リーゼとアイナは自分たちの席で次の授業の準備をしていた。

 

「まさかあれが私たちの尊敬してた女神様だったなんてね」

「うん。私もびっくりしすぎて言葉が出なかったもん」


 二人は昨日のことを思い出していた。突然エンネシアの声が聞こえたと思ったら自分たちの想像していた神様と全く違い一瞬で尊敬していた女神様はいなくなった。

 そのせいでアイナはセイの家に行ったのに驚きで無駄に時間を過ごすはめになった。

 

「リーゼはもっと気にすることがあるんじゃない」

「う……どうしよう。ティファさんに加えて女神様まできたら勝ち目がないよぉ」


 昨日の会話からエンネもセイのことを好意的に思っていると察することができた。実際のところは求婚までしているのだがそのことはリーゼとアイナは知らない。

 たとえ、どれだけだらけていても女神なのだ。絶世の美女であることは間違いないというのがリーゼたちの認識だ。

 

「大丈夫よ。リーゼも充分可愛いわよ」

「そう思ってくれてるといいんだけどセイって絶対に気づいてないと思うんだよね」

「そうかしらセイさんは鈍いってわけじゃないと思うのよね」


 アイナはそう言って肘をつく。アイナの言う通りセイは決して鈍いわけではない、だが鋭くもないという所だろう。

 

「そういえばリーゼってセイさんと出会ってどのくらいなの」

「一月も経ってないかな」

「……それじゃあ無理よ」

「え?」


 恋愛に疎いリーゼは本当に分からないって顔をしている。

 

「あのね。誰が出会って一月も経ってない女の子に惚れられるって思うのよ」

「確かに」


 リーゼにとってそこは盲点だった。アイナの言う通り誰が出会ってから一月も経っていない女の子から惚れられているって思うだろうか。

 

「頑張らないと気づかれないってことよ」

「何をすればいいと思う」

「素直に伝えればいいじゃない」


 最も効率的で確実な手段だ。だがリーゼもそれを思いつかないわけがない。

 

「考えたよ。だけどさ…恥ずかしくない」

「はぁ、なら気づいてもらえるまで待つことね」

「うぅぅ…」


 リーゼは机に伏し自分の情けなさを責める。そんなことをしているとサイラが教室にやってきた。

 

「お前ら席に着け」


 立っていた生徒たちが自分の席へと戻っていく。

 

「さてお前たちは一か月後に行われる校外実習については知っているな」


 リーゼはアイナのそばによるとこっそりと話しかける。

 

「校外実習って何」

「王都の外に出て魔物とかを狩るのよ」


 アイナは簡潔に答えた。

 ゼノフ学院の実習では王都の外に出て魔物の討伐を行う。生徒たちに実戦の経験を積ませようという目的から行われるものだ。リーゼたち一年生はたいした魔物は討伐しないが最高学年になるとサンドゴーレムくらいの強さの魔物を討伐することになるのだ。

 

「校外実習では三人一組の班となって行動してもらう。そのための班を決めようと思う。好きに決めろ、ただし自分たちの実力を考えて決めろよ。俺はこれから別な仕事があるから後はお前らに任せる」


 そう言ってサイラは教室から出ていった。

 生徒たちはそれぞれもう班を決め始めている。

 

「三人一組か」

「あと一人が見つからないわね」


 リーゼとアイナは班を組もうと考えるが三人一組のためあと一人が見つからない。そんなことを考えていると一人の男子生徒が目に付いた。アレンだ。

 

「俺を班に入れてくれないか」

「いやもう決まったし」

「俺を班に」

「あっち行って変態」

「俺を」

「ドンマイ」

「……」


 色々な人たちに頼むが全て不発に終わる哀れな男子生徒アレンだ。女子は当然ながらも男子たちもアレンを入れたがらない。アレンがいるだけで同類と思われたくないのだ。

 そんなアレンが少し潤んだ目でリーゼたちを見ている。男の潤んだ目など一切可愛くない。

 

「嫌よ」

「そこを何とかお願いします」


 アレンが見事な土下座をしてきた。なんとも残念なイケメンだ。

 

「残ってるのはあなたたちしかいないんです」

「流石にちょっとかわいそうじゃない」


 ここまで煙たがられるアレンを少しかわいそうに思ったリーゼがアイナに言う。


「おお、天使よ」


 アレンは、久しぶりに受けた女子からの優しさに感激しリーゼのことを大げさに拝んだ。

 

「はぁ、リーゼがそこまで言うなら仕方ないわね。ゴミムシ、リーゼに感謝しなさい」

「ありがとうございます」

「ははは」


 これで班が決まった。リーゼたちは確実に最強の班だ。『勇者』と『剣聖』この二人だけでも強いのに『聖女』がいるため怪我をしても瞬時に回復することができる役割が整っている班となった。

 

「あ、そうだ。後で師匠に会わせてくれないか」

「セイに?どうして」

「昨日、師匠のアドバイス通り素直に気持ちを伝えたんだけど風魔法で吹っ飛ばされたんだ」


 アレンはセイのアドバイス通り一つ上の先輩に自分の素直な気持ちを伝えたのだ。しかし案の定ろくでもないことを言い思いっきり風魔法を使われ吹き飛ばされたのだ。

 

「いいけどたぶんどんなアドバイス貰ってももう無理だと思うよ」

「どうしてだ」

「だってもうアレン君の評価は最底辺まで落ちてるよ」

「最底辺だって関係ない。そこから評価をあげればいいんだ」


 とてもポジティブなアレン

 

(うん。無理だね)


 リーゼは諦めた。このままだとアレンの評価は絶対に上がることが無いだろう。

 その後、三人は魔物と戦うときの戦略を考えるのだがアレンの反対を無視しアレンがおとり役になるということに決まったのだ。


~~~~~~


 リーゼたちが教室でいろいろなことを決めている時サイラは、学院の長い廊下を歩いていた。何もない壁の前で止まる。

 サイラは周りの気配を感じ取り誰もいないことを確認する。

 

「惑われし者よ・真実の姿を現したまえ」


 そう唱えたのと同時に何もなかったはずの壁から扉が現れた。

 サイラはその扉を開けると中に入っていく。

 扉が閉まると扉は消えまた元の壁へと戻った。

 扉の先には下へと続く石造りの階段があり壁には薄い光を放っているランタンが取り付けられている。


 階段を下っていった先にはとても重厚な扉があった。それを開けた先には禍々しい祭壇が存在した。サイラはその祭壇の前まで来ると服の中に隠し持っていたナイフで自分の指を切り、血を一滴たらした。

 すると黒い魔力が具現化し目の前で靄となって現れる。

 

「サイラか」

「お待ちしておりました『魔王』様」


 黒い靄から声が発せられた。サイラは『魔王』と呼んだ黒い霧の前で跪いた。

 

「準備はどうだ」

「はい、抜かりなく、ただ一つ懸念がありまして」

「なんだ。申してみろ」

「は、『勇者』が『妖精姫』と接触しました」

「それくらいなら心配いらないだろう。たとえ英雄だろうとその場にいなければ意味が無い。それにまだ勇者は成長途中だ。どうとでもなる」

「さようですか。それともう一つ」

「はぁ、言ってみろ」


 『魔王』が不機嫌そうに聞いた。それと同時に放たれた圧によりサイラの体が少し固まる。

 

「作戦とは関係ないのですが一人、気になる人物を見つけました」

「はぁ、そんなことどうでもいい」


 ますます不機嫌になった『魔王』の圧によりサイラの体がわずかに震える。

 

「も、申し訳ありません」

「お前は作戦の事だけ考えていろ。そろそろそっちに配下どもを全て送れる。ちゃんと準備していろ」

「は!」


 『魔王』は姿を消した。残されたサイラは立ち上がるとあの時視た黒髪の青年のことを思い出す。

 サイラはあの時偶然<心眼>でセイのことを視たのだ。その時視た光景が脳裏に焼き付いてしまい忘れることができない。

 

(あんなもの、狂っている……)


 一抹の不安を抱きながらサイラはその場を後にするのだった。


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