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第二話 『魔道王』の目覚め

 魔の森にある一本の木の下で黒髪の青年が眠っていた。周りには、森の中にいるウサギや鹿などの動物たちが青年の目覚めを待つかのように静かに集まっていた。

 やがて青年はゆっくりと目を覚ました。

 

「……ああ、成功したんだね」


 青年は魔法の成功を喜ぶかと思いきや、どこか残念そうにしていた。

 

(失敗すれば、あの人達に会えたかもしれないのにな……)


 心の中でそう呟くと自嘲したように笑みを浮かべる。

 集まっていた動物たちが、青年に近づいていき、周りに飛んでいた小鳥たちのさえずりが聞こえている。まるで青年の目覚めを祝福しているかのようだった。

 

「君たちここがどこか分かるかい」


 セイは動物たちへと尋ねた。普通ならそんなことをしても意味はないのだがセイは魔法により動物の声を聞き取ることができた。

 動物たちがそれぞれ鳴き声を上げる。

 

「そうかい、ここは魔の森なんだね」


 セイはこの場所に住んでいたことがあった。とても懐かしく感じる。

 

「近くに人がいる場所ってあるかな」


 動物たちは、首を傾げる。森の奥に住んでいる動物たちには人を見たことが無いものが多かった。そのため自分で探そうかと思った時、ある一匹のウサギが大きく飛び上がっているのに気が付いた。

 

「ついていけばいいのか」


 ウサギは、首を縦に振る。人の住む場所を知っているらしい。

 ウサギは、そのまま森の中へと入っていった。

 

「待って」


 セイは、急いでウサギについていく。少し進むとセイは森のいたるところから魔物の気配を感じ取っていた。

 しばらくついていくと人のいる気配に気が付いた。だが様子がおかしい。複数の魔物に囲まれている。魔物たちは人を獲物と定めじりじりと迫っているのを感じた。

 セイは、魔法を発動する。

 

「ちょっと待っててもらえるかい。テレポート」


 セイの体はその場から消える。

 セイの周りの景色は変わり、今は狼型の魔物に囲まれていた。後ろには水色髪の少女と怪我をした男がいた。

 

(やっぱりか)

 

「弱い者いじめはよくないよ」


 魔物たちは、突然現れたセイに目を見開いて驚いた。

 セイは、そんなこと気にせず魔物たちを視る。


~~~~~~~~

種族 レッサーウルフ

体力 D

魔力 D

筋力 C

俊敏 B

称号 なし

スキル なし

~~~~~~~~~~


 セイは<鑑定>と呼ばれるスキルを使い魔物の能力を視たのだ。

 

(あんまり強くないね)


 セイは、魔法を発動させる。すると目の前に突風が発生しレッサーウルフたちが吹き飛ばされた。

 

「大丈夫かい」


 セイは、後ろにいた水色髪の少女に手を差し伸べた。

 

「…あなたは」

「僕は、通りすがりの魔法使いってところさ」


 セイは、笑顔で答えたら少女はきょとんとしてしまったがすぐに少女は表情を歪めた。

 

「危ない!」


 セイの後ろからさっき吹き飛ばされたはずのレッサーウルフたちが近づいてきていた。

 

「大丈夫だよ」

「え?」


 セイの表情は崩れない。

 

「ソードサイクロン」


 セイの後ろに竜巻が突如として現れた。そして竜巻はレッサーウルフたちへと迫る。逃げようとするレッサーウルフたちを次々に飲み込んでいく。すると飲み込まれた者たちは風の刃により体中を切り刻まれ絶命した。

 少女は目の前で起きていることが理解できなかった。

 

「ちょっと待っててね。パーフェクトヒール」


 少女と男が温かい光に包まれる。

 

「あったかい」

「これは…」

「その光は回復魔法だから傷がなくなると思うよ。無くなった血液は戻らないから気を付けてね」


 セイの言葉通りみるみるうちに傷口がふさがっていく。

 

「すごいな」

「いえ、そんなことないですよ。あ、レッサーウルフの素材って使います?」

「いや、それは君が狩ったものだ。俺たちが決める者じゃない」


 セイは少し困った表情をした。

 

「このまま持ってても使うことがないし、どうしよう」

「それならうちの村の商人に売ればいいさ」

「確かにそれがいいですね。後、この近くに泊れる宿のようなところはありませんか?」


 セイは、この時代に目覚めたばかりのためこの世界の情勢が今どうなっているのか一切分からない。宿ならば、色々なところからやってくる客がいるため情報が集めやすい。

 

「それなら、うちに泊っていくといい、助けてもらった礼だ。えっと…」

「ああ、まだ名乗ってなかったですね。僕の名前はセイです」

「俺は、ゲイル・エンフィス、でこっちが娘のリーゼだ」

「リーゼです」

「よろしくね」


 セイは、リーゼに優しく微笑んだ。その微笑みに少女は少しドキッとしてしまい顔を背けてしまう。そんな初々しい娘の姿を見た父は、一瞬ムッとした。

 

「そういえば、セイはどこから来たんだ」

「えっと…」


 時代を超えてやってきたとは言えない。そんなこと言ってしまえばセイが功名な魔法使いだとばれてしまう可能性がある。どう答えようか悩んでいると不意に水色髪の少女が近づいてきた。

 

「あの、さっきのって魔法ですよね」

「ん、そうだよ。興味があるのかい」

「はい、私一度も魔法が見たことが無かったんです」


 リーゼは目を輝かせている。

 セイにとって魔法はとても身近なものだったがリーゼにとってはどうやら違うらしい。


「そうなの?なら後で見せてあげるよ」

「やった」


 少女は、長い髪を揺らしながら喜ぶ。

 

「すまないな。なにぶん、うちの村は辺境だから魔法は珍しんだ」

「そうだったんですか」


 セイは思考を動かす。

 

(辺境か、情報集めは難しいかな。まあ、行くところもないし次の目的が決まるまでゲイルさんの村に当分の間住まわせてもらおう)

 

「よし、さっさと魔物を解体して戻るぞ」

「あ、ちょっと待ってください」


 セイは、もう一度森の奥へと向かった。

 

「ごめんね。待たせたね。もう僕は大丈夫だよ。ありがとう」


 待っていたウサギにそう言うとウサギはうなずき森の奥へと消えていった。

 

「すいません。お待たせしました」

「大丈夫だ。それより何かあったのか」

「ここまで送ってもらったウサギにお礼を言いに行っただけです」

「ウサギ?まぁ、いいや。それより解体を手伝ってくれないか」

「分かりました」


 セイは、どこからともなく短剣を出し、解体を手伝う。レッサーウルフの首を切り胴体を解体していく。見事な手際で毛皮と爪、肉と部位ごとに分ける。

 

「頭はここで解体できないから処分だな」

 

 頭は、ゲイルたちに綺麗に解体できる能力が無いためここで処分する。

 

「これだけの量どうやって運ぶかな」

「それなら大丈夫ですよ」

「どうするんですか」


 リーゼは、不思議そうにセイの事を見る。


「こうするんだよ。異次元の扉」


 解体した素材たちが地面に突如現れた黒いものに沈んでいった。

 

「今のも魔法ですか」

「そうだよ」


 リーゼが目を輝かせながら聞く。セイは、そんな少女の反応を見て楽しくなってしまう。

 

「この魔法は、別次元に物を閉じ込める魔法だね」

「すごいな。王都の魔法使いでもここまでのやつはいないぞ」


 ゲイルはセイの魔法の腕に感嘆する。魔道王のためその腕は世界一と言っていいのでゲイルの目は間違っていない。

 

「それじゃあ、帰るか」


 セイは、ゲイルたちの案内を受けクロッサス村に向かう。

 

「そういえばここってどこの国ですか」

「お前そんなことも知らないのかよ」

「すいません。地図も持たずに来てしまったので」

「変わってるな~」


 セイは、道に迷ってしまった旅人という設定でいることにした。そうすれば多少知らないことがあっても怪しまれないからだ。

 

「ここは、ベイルダル王国だ。その辺境にあるクロッサス村が俺たちの住む村だ」

「ベイルダル王国…」


 セイは奇しくも亡き勇者の国に来てしまったのだ。これには、少し表情に影が差してしまう。

 

「どうかしたのか」

 

 それに気づいたゲイルが怪訝そうに聞く。

 

「あ、いえちょっと聞き覚えのあった国で驚いただけです」

「それはそうだろう。なんてたってベイルダル王国は魔神大戦から300年たった今でも大陸随一の大国だからよ」


 セイが飛んだ時間は300年だった。そうなると何人かの知り合いは、生きていると予測できた。会いに行くのはまだためらいがある。

 

「おう、ゲイル早かったな。ん?そいつは誰だ」

「こいつは、旅人だ。さっきこいつに助けてもらってな。村にしばらくいると思うからよろしくな」


 助けてもらったという言葉を聞いて守衛はとても驚いた。

 

「セイです。しばらくの間この村でお世話になります」

「そんな硬くなるな。ゲイルたちの恩人なら俺たちもむげには出来ねぇ。俺は、ガイだ。よろしくな」


 そう言ってガイは、気さくに笑いかけた。

 

「はい、よろしくお願いします。ガイさん」


 ガイは、セイの微笑みを見て一瞬驚く。すると眉間に手を置いた。

 

「かぁ~、こりゃ明日には村の女どもが騒ぐぞ」

「?」


 セイは、何のことか分かっていないが、セイの微笑みはかなり魅力的で耐性の無い女性なら一瞬でおちてしまうだろう。

 ガイは、ゲイルに視線を向けると苦笑いをしていた。

 

「まぁいいや、早く村の中に入んな」


 ガイに許可をもらいセイはクロッサス村へと足を踏み入れた。

 そしてそのままゲイルたちの住む家へ行く。家に着くと中からサリナが出迎えた。


「あらお帰りなさい?そちらの方は」

「こいつは、セイ。俺たちの命の恩人だ」


 ゲイルは、サリナに事情を説明した。すると最初は驚いた様子を見せ納得した。

 

「うちの旦那と娘がお世話になりました」

「いえいえ、人として当たり前のことをしたまでです」

「謙虚なのね。ささ、何もない家ですけどゆっくりしていって」


 セイは、快くエンフィス家に迎い入れられたのだ。


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