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第二十七話 劣等称号

 英雄学の授業が終わりセイのことを少し知れたリーゼは外へと向かっていた。次の授業は実技だ。

 リーゼとアイナは長い廊下を歩いていた。そんな時リーゼの頭の中でふと素朴な疑問が生まれた。

 

「アイナって戦えるの」


 リーゼはまだアイナのことをほとんど知らない。


「少しくらいならね。私は戦闘よりも支援の方が得意なの」

「そういえば私アイナの称号知らないんだけど」

「言ってないから当然でしょ」

「教えてよ」


 そういうとアイナは頬に手を当て考えだす。

 

「そうね~……ただ言うだけじゃ面白くないから当ててみて」

 

(支援の方が得意な称号?う~ん)


 リーゼは悩む。全く思いつかない。

 

「ヒントをあげるわ。あなたと似たような称号よ。こんなの答えを言ったようなものね」

「もしかして『勇者』⁉」

「はぁ、どういう思考をしてるのよ。二人も『勇者』がいるわけないでしょ、『聖女』よ。せ・い・じょ」


 『聖女』の称号を手にしていたのはアイナだった。

 自分と同じ特殊な称号を持っていると知り普通はここで驚いたり喜んだりするのだろうがリーゼは首をかしげて納得しかねるといった様子だった。

 

「あなたまさか『聖女』を知らないの」

「知ってるよ。知ってるけどさ……」


 リーゼの知っている聖女とは絵本の中に出てくる英雄の一人だ。名はアリア・フォン・ベイルダル

 アリアは、たとえ犯罪者でも傷ついていれば救おうとするほど慈愛に満ちていた。ここでリーゼの中で疑問が生じたのだ。

 

(慈愛に満ちてる?アイナが?)


 アイナに慈愛があるかと言われるとそうは思わない。人のことをからかう人が慈愛に満ちているかと言われると微妙なところだ。

 

「あなた今失礼なこと考えてるでしょ」

「う、ううん、そんなことないよ」


 リーゼは分かりやすく目を泳がせた。

 

「まぁいいわ。だから私、戦闘はあまりできないのよ」

「へ~そうだったんだ」


 二人が外へ出るとサイラが木刀を持って立っていた。続々とクラスメイトたちも外へと出る。

 

「全員揃ったな。ではこれより実技授業を行う。この中には『商人』や『料理人』といった非戦闘の称号を授かった者もいるだろう。だが多少の戦闘方法を知っていて損はない。そのためこの授業は行われている。全員そこにある模擬剣を持て、自分にあった武器があるのなら数は少ないがそこに置いてあるから自由に取れ」


 サイラの横には、模擬剣がしまわれた箱が置いてあったそのさらに横には木で造られた槍やメジャーではない鎌、他には弓なども置かれてある。

 

「戦い方を知らない者もいるだろう。そこでリーゼさん、アレン二人で模擬戦をしろ」

「え?私ですか」

「やります」


 リーゼは困惑しているのに対しアレンはやる気満々で一番しっくりくる木剣を手に取った。

 

「二人は戦闘の称号で上位の『勇者』と『剣聖』だ。君たちほど適任はいないだろう」

「一つ聞いてもいいですか」

「なんだ」

「相手のことを鑑定してもいいですか」


 セイに教わったことをちゃんと覚えている。初めて戦う相手には<鑑定>を使ってちゃんと分析すること。

 

「アレン、構わないか」

「そのくらい構いません」


 リーゼはアレンのことを視た。


~~~~


アレン・レイデンス

種族 人間

体力 A

魔力 C

筋力 A

俊敏 B

称号 『剣聖』

スキル <剣術lv3><剣舞>


~~~~~~


 能力値は高い。体力と筋力ではリーゼは負けている。しかしリーゼの長所である俊敏では勝っているため勝ち目はある。

 リーゼは模擬剣を箱の中から取り出した。アレンも剣を取り出しそれぞれ構える。

 

「俺は女子にはモテたいが勝負には負けたくない。だから負けても後悔しないでくれよ」


 アレンは勝つつもりでいる。

 

「勝ってから言って」

「じゃあ行くぞ!」


 アレンが先手。アレンはリーゼに剣を斜めに振り下ろす。

 しかし、リーゼはそれを半歩下がりあっさりとかわす。アレンは剣を切り返すがそれさえもリーゼには躱されてしまう。

 

(遅い?)


 そうリーゼは普段、全力の速度でセイと打ち合っているため反射神経がとてもよくなったのだ。

 

「これを躱されるとはな。ならこれでどうだ」


 アレンは自信満々に剣をもう一度振るう。リーゼはそれをすべて受けずに躱していく。筋力では勝ち目が無いため受けてしまうと自分の速さがいかすことができない。

 

「そろそろ、剣を、ふ!使っても、いいんじゃないか」


 リーゼは一言もしゃべらない。淡々と反撃のチャンスをうかがっている。

 

「使わないなら無理やりにでも剣を使わせる!」


 そう宣言したのと同時にアレンの動きが変わった。

 

「<閃撃>」

「⁉」


 剣速が速くなりこれを躱すことはリーゼには不可能だ。すぐに剣で受け流していく。

 

「やっと使ったな。だけどまだまだこれからだ!」


 怒涛の連撃

 一撃一撃が重く少しでも剣の重心をずらしてしまうと簡単にはじかれてしまう。

 アレンの持つスキル<閃撃>は一時的に筋力と俊敏の能力値を上げるという強力なものだ。だがそんな強力なスキルにはデメリットもある。これに気づけない限りリーゼの勝利はない。

 リーゼはどんどんと後ろへと追いやられていく。

 

(反撃する隙が無い。神剣は強すぎて使えない……なら)

 

「⁉…この攻撃は受け止めきれないさ」


 リーゼは、アレンの攻撃を完全に受け止めた。だがアレンの言う通りじわじわと押されてしまう。しかしこれこそがリーゼの狙いだった。

 リーゼは、剣の重心をずらした。

 

「ちょ⁉」


 そのままアレンは剣を滑らせ地面へと倒れてしまう。

 <閃撃>の弱点それは上がった能力値にアレン自身の剣術がついていけないことだ。そのため力に振り回されコントロールがほとんど効かないのだ。

 

「私の勝ちだね」


 リーゼは倒れたアレンへと剣を向けた。

 

「俺の負けだ」


 アレンは剣を離し負けを認めた。

 

「ありがとう、いい勝負だった。さて非戦闘称号の持ち主にここまでの実力は求めていない。だが戦闘称号の者にはここまでできるようになってもらう」


 戦闘称号の生徒たちが固唾を飲みこんだ。今見せられた戦闘は生徒たちにとっては、ついてける次元になかった。ここにいるほとんど生徒たちは実際に命を懸けた戦闘など行ったことが無い貴族様だ。

 それに比べリーゼは魔の森で命がけの戦闘を行った。さらにはセイという圧倒的格上の存在と毎日練習をしているのだ。実力が違くても仕方ない。

 そんな中一人の真面目そうな男子生徒が手を挙げた。


「質問か」

「はい。僕たちではあそこまで動けるようになるのは不可能です。彼らは、『勇者』に『剣聖』選ばれし称号の持ち主です。しかし僕たちは、普通の称号です。彼らのように動けとは無理があるでしょう」

「ふむ、そうか確かに一理あるな」

「それならば—」


 生徒の意見が通れば幾分か授業が楽になる。戦闘などしたくない生徒たちが期待したような視線をサイラへ送る。

 サイラもそれに納得したように見えるが


「だが君の言う選ばれし称号の持ち主でなくともあの動きはできるのだよ」

「無理です。まず能力値が違う」

「なら証明して見せよう」


 そう言ったのと同時にサイラの姿が消えた。リーゼの目にも見えなかった。


「どうだ?見えなかっただろ」


 いつの間にか消えたサイラが男子生徒との間合いを詰めその首筋に木刀を向けていた。


「⁉」

「そう動揺することはない。これくらいできて当然だ」


 男子生徒も木刀を突き付けられていることに今気づいた。


「なぜそんなに怯えてる」

「はは、木刀を突き付けられたくらいで怯えるわけがないじゃないですか」

「そうはったりを言っても意味が無い。私には<心眼>というスキルがある」


 <心眼>というスキルはとある称号だけが持つ特殊なスキルだ。その能力は、相手の心の状態を見ることができるという力だ。そのため生徒の心の状態を見ることができたのだ。


「<心眼>ってことは先生は『侍』の称号の持ち主ってことだな」


 立ち上がったアレンがそう言った。

 『侍』は、『戦士』や『剣士』といった戦闘称号のひとつだ。特徴的なのは<心眼>を持つ代わりに能力値が低いということだ。そのため一部では劣等称号などと呼ばれている。


「そうだ。君の言うように確かに選ばれた称号の持ち主は強いだろう。しかし私のような称号の持ち主でもここまで強くなることができるのだ。分かったか?」

「っ、分かりました」


 男子生徒は渋々引き下がった。

 木刀を腰に提げる。


「では早速やってもらおう。二人一組を作れ、なるべく自分と同じくらいの実力の物を選べリーゼ、アレンは二人で組みなさい」

「よし!」

「……」


 アレンは喜んだが、リーゼは必然的に微妙な表情をしてしまう。そんなリーゼをこればかりはアイナは哀れに思えるのだった。


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