第二十六話 英雄学
リーゼは一人で学院へと向かっていた。初めての学院生活、期待に胸を膨らませうきうきと登校するはずなのだが別なことに気を取られていた
(セイとティファさん今ごろ何してるんだろう)
リーゼは学院生活よりセイたちのことが気になっていた。あの二人が昔の仲間ってことは知っているがそれ以外の事は知らない。もし深い関係にあるのならと考えるだけで気がきじゃない。
そうこうしているうちに学院についてしまった。
「おはよう、どうしたの?」
「……」
アイナが馬車から降りてきた。だがリーゼは反応しない。
「聞いてるの」
「いひゃい、いひゃいよ」
アイナはリーゼの頬を引っ張った。柔らかい頬が真っ赤に腫れ涙目になる。
「何するのさ」
「あなたが私に気づかないからでしょ」
「う…だってぇ」
「それで何があったの」
リーゼはアイナに昨日から今日までに起きたことを簡潔に説明した。
「はぁ、それでセイさんとティファ様が二人きりになっていて気になると」
「そうなの、ティファさんってとっても綺麗でしょ。それに比べて私は…」
リーゼは自分の事を子供っぽいと思っている。それに比べティファは、容姿端麗、どこか少し大人っぽい、しかもとてつもなく強い。もはや勝てるところが見つからない。
「それなら大丈夫だと思うわよ」
「え?」
「なんて言うのかしらね。ティファ様少しセイさんに対して奥手なところがあるから」
「あ、確かに」
リーゼにも思い当たるところがあった。昨日もセイとリーゼが二人きりの状況をあっさり了承していた。
「だから心配いらないって言ったでしょ。さ、早く行きましょう」
アイナは、校舎に入っていく。
「待ってよ」
リーゼもそれに遅れて校舎内へと入っていった。
校舎内は、長い廊下が続いておりそこを歩いていくと大きな扉があった。扉を開け中へ入ると中はとても広い。通常の教室がこのサイズなのだ。生徒が座る場所は階段状になっており席は自由だ。もう何人かの生徒は席についている。
リーゼとアイナは一番上へ行きそこへ座る。一つの机に二人まで座ることができる。
「広すぎじゃない?」
「そうかしら家の玄関と同じくらいのサイズだけど」
「うん。価値観の違いだね」
ここで王城暮らしの王女様との違いを思い知らされた。
そんなことを話していると一人の少年が話しかけてきた。
少年は短く切り揃えられた金色の髪でとても綺麗な顔立ちをしている。好青年という感じだ。
「やぁ、アイナ様に勇者様」
「あら、あんたは変態」
「ぐは!」
少年は王女に変態と言われその場で片膝をついた。
「アイナ様、変態はさすがにひどいです」
「私何か間違ったこと言ったかしらゴミムシ」
「……」
さらにひどくなり少年は無言で両手をついて倒れてしまった。
「アイナ、この人知り合い?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた」
「あんたに聞いてないわよ」
少年は立ち上がり元気を取り戻す。
「俺は、レイデンス家次男アレン・レイデンスだ」
さわやかな笑顔を見せる。教室内が静寂に包まれる。
レイデンス家とはこの国の公爵家のひとつだ。
「よろしくね。アレン君」
「おお………あなたは天使か」
アレンは大げさにその場に跪いた。
「リーゼ、こいつに話しかけちゃだめよ」
「悪い人には見えないけど」
「こいつは下心丸見えの変態よ」
「いくら王族であろうと今の言葉はどうかと思うぞ」
アレンの言うことは最もだ。いくら王族であろうと他の人を侮辱するのはよくない。リーゼがアレンの意見に賛同しかけた時
「僕は、ただ女の子にもてたいだけなんだ!」
アレンは大声で宣言した。下心見え見えだった。というより自分から言った。周りに座っている女子たちは完全に引いており、少年たちは生暖かい目でアレンの事を見ていた。
「ごめんアイナ。私が間違ってた」
「目を覚ましてくれて嬉しいわ」
二人はお互いの手を取り合った。
そんなことをしていると教室のドアが開いた
「早く席に着け」
入ってきたのは丸眼鏡をかけた細身の高身長の男だった。アレンは空いている席へ座った。
「私は、このクラスの担任になったサイラだ。君たちはこれからこの学院でいろいろと学ぶことになるがちゃんと頑張るように、分からないことがあればすぐに私に聞くように」
「はい」
「君は、リーゼさんか。何かな」
リーゼがいきなり手を挙げた。
「この学院ってどんな授業をするんですか」
「…君は知らずにこの学院にきたのかい」
サイラは少し呆れていた。
「すいません、私が住んでいたのは辺境の村なので何もわからないんです」
「ふむ、それならば仕方ないか。では簡単にこの学院について説明しよう。このゼノフ学院は知っての通りベイルダル王国で最も古く数々の英雄を輩出してきた由緒正しき学院だ。では…アレン君、この学院の卒業生で有名な英雄を答えてみなさい」
サイラがアレンを指した。
「はい。十英雄の一人『勇者』ライル・フォン・ベイルダル、それにこの学院の理事長『妖精姫』ティファ・アロンテッドです」
「いいでしょう。さてそんな英雄を輩出したこの学院は基本的には生徒の自由意思による活動を推奨している」
この学院では、最低限の授業に出ていれば単位を得ることができる。そのためそれ以外の授業にかんしては生徒の意思による参加のため努力するか否かで差ができてしまうのだ。
「必要最低限の授業はすべて午前中に行うので午後の授業に関しては自由にしなさい。さてこんなものかな。他に何かあるかいリーゼさん」
「大丈夫です」
「そうか。では最初の授業に移ろうと思う。英雄学だ」
英雄学とはその名の通り英雄について学ぶための授業だ。過去の英雄を知ることにより自分たちの目標を決めようというものだ。
「まず最初にこの国の国王でも会った英雄『勇者』ライル・フォン・ベイルダルについて説明しよう。彼の話は絵本にもなっているため有名だろう」
魔神大戦終盤の出来事は絵本になっている。子供にも分かりやすいように簡略化されたお話になっている。
『勇者』ライル・フォン・ベイルダルこの国の国王にして魔王を倒した英雄の一人。彼はとても勇敢でとても優しかった。だが魔王を倒す際にその命を失った。享年26歳という若さだった。
「彼の実力は魔王を倒したことからも分かるようにとても強かった。ひとたび戦場へと出れば味方の士気を高め自ら前線に赴き魔王軍をせん滅した。そしてその隣にいたのは『魔道王』セイ様だ」
セイの話に変わった。リーゼはあまりセイの過去を知らない絵本も読んだことがあるが、セイの説明は『勇者』を支える魔法使いということしか書かれていない。
「この二人の戦歴は数知れず、代表的なので言うと魔神大戦に参加した神の一柱を封印したり、約十万にも及ぶ魔王軍を二人で殲滅したなどがあげられる。しかもだ、これらのことを魔道王様にいたっては君らと同い年の時に行ったのだ」
(セイって昔からすごかったんだ)
リーゼはサイラの話に聞き入ている。アイナは知っていたためつまらなそうに話しを聞き流していた。
「さて問題だ。そこで退屈しているアイナさん」
サイラはアイナのことを睨んだ。
「なぜこのような偉業が絵本に書かれていないか分かるかい」
基本的に英雄たちの物語は子供たちに人気のため絵本になっていることが多いのだ
「そのくらい分かります。魔王軍との戦いでは勇者と魔道王が来る前に多くの人をなくしてるためこのことを華々しい絵本に描くのは亡くなった人に対して失礼とされているからで神を封印した時にはその戦いを見た者がいなかったため絵本に描くことができなかったとされています」
「よろしい。退屈かもしれないがちゃんと話は聞くように」
「は~い」
アイナはやる気なさげに答えた。




