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第二十五話 創造神エンネシア

 セイは朝から朝食の準備をしていた。

 しかしセイは料理に集中せずちらちらとリビングにいるとある人物を見ていた

 

「はぁ、くつろいでないで君も手伝ってくれよ」

「いいじゃないお客様よ」


 そう言ってソファでごろごろしているのは銀髪の美少女、ティファだ。現在はだぼだぼなパジャマを着ている。ティファは結局夕食を食べた後ここに泊っていくことになった。

 

「まさかまだ料理ができないのかい」

「うっ、いいじゃない。自分で料理しなくても料理が出てくるんだから」

「成長してないね」

「な⁉これでも強くなってるわよ」


 ティファはキッとセイのことを睨んだ。セイはそれを軽く受け流し野菜を切っていく。

 

「今の君の状態はエンネと同じだよ」

「⁉……」


 ティファはソファにちゃんと座りなおした。それだけあの女神と一緒にされるのが嫌なのだろう。

 朝食の準備を終えた頃部屋のドアが開いた。

 

「…おはようございます」

「おはよう。朝食出来てるよ」

「はい」


 リーゼが起きてきた。まだちょっとだけ眠そうに目元をこすっている

 三人は朝食を食べ終えるとそれぞれの支度する。リーゼは制服に着替えセイは洗い物をし、ティファはソファで姿勢を正し読書をし始める

 

「ティファさんは学院に行かなくてもいいんですか」


 リーゼは準備を済ませたが洗い物を終えたティファは着替えもせずソファで本を読んでいる。

 

「別に私仕事があるってわけじゃないのよ。名前だけ貸してる名誉理事長みたいなものだから」

「本当にエンネに似てきてるよ」

「ちゃんとやるべきことはやってるわよ」

「例えば?」

「………」


 ティファは無言で目をそらした。

 

「まぁいいや。リーゼそろそろ登校時間だよ」


 セイは壁に掛けられている時計を指した。

 

「あ、本当だ。いってきます」

「いってらっしゃい」


 リーゼは、慌ただしく学院へと向かった。

 リーゼがこの結界からでたことを確認するとティファは読書をやめた。

 

「それで、あの女神のところに行くの?」

「うん。ちょっと確かめなきゃいけないことがあるからね」


 セイは、壁にかけていたローブを羽織った。

 

「私もついてくわ。今のセイじゃあの場所に行けないでしょ」

「ばれてたか」


 神は通常この世にはいない。例外を除いて神は別空間に存在しこの世を見守っている。その空間へ行く魔法は存在するのだが禁忌魔法のため今のセイには使うことができない。

 

「それにあなた一人じゃ大聖堂には入れないわよ」

「え?どうして」


 セイたちが会いに行こうとしている女神は王都にある大聖堂内で魔法を発動させないと会いに行くことができない。

 大聖堂はエンネシア教の本部で厳重に警備がされている。

 

「あなたのことを知ってる人、今の大聖堂には誰もいないでしょ」

「あ」


 セイは完全に失念しており、握りこぶしを手のひらの上に置いた。それを見ていたティファがニヤリとした笑みを浮かべる

 

「あなたこそ少し抜けてるところ変わってないじゃない」

「う…」


 何も言い返すことができない。ティファには何度もこういうことで助けてもらった。

 

「まあいいわ。私がいれば入れるしね」

「ありがとう」


 二人は大聖堂へ向かった。そしてセイは久々に見る大聖堂に驚く。

 

「ずいぶん大きくなってない?」

「この300年で教会自体が増えたからなら本部はもっと大きくしないとってことで大きくなったのよ」


 大聖堂は300年前に比べてずいぶん大きくなっていた。300年前は小さな教会と言った感じだが今目の前にあるのは、その面影が無く塀に囲まれたとても広い敷地の中央に王城ほどではないが大きな教会がそびえたっている。

 ティファは守衛に話しかけた

 

「私よ。中に入れてちょうだい」

「これはティファ様、どうぞ中へお入りください」

「ありがとう」


 大聖堂の中へ入った。中はステンドグラスが何枚も張られてあり、奥には祭壇が建てられてありとても綺麗な女性の彫像が飾られている。複数の修道女が祈りを捧げ神父が経典を読んでいる。

 一人の神父が二人に気が付いた。

 

「ティファ様大聖堂に何か御用ですか」

「ええ、ちょっと女神に話があってね」

「そうですか……そちらの男性は誰でしょう」


 神父はセイへ怪訝な視線を向けた。

 

「あなたに関係ないわ」

「さようですか」


 神父はあっさりと引き下がった。英雄の事情を探るのは怖いのだろう。

 

「それじゃあ行きましょう」

「そうだね」

「我神の信徒なり・我神に忠誠を誓いし使徒なり・故に道を開かん、ロードサイン」


 ティファが魔法を発動させると大聖堂内を神々しい光が包み込んだ。周りの風景が変わった。

 真っ白な空間

 目の前には金髪の美女がゴロゴロしながら本を読み片手で菓子をつまんでいた。周りには読み終えた本と菓子が入っていた袋が散乱している。この光景を見た者は絶対に魔法を失敗したと思うだろう。

 

「はぁ、君もあいかわらずだね」

「⁉」


 金髪の美女は、セイたちの存在に気が付き振り向いた。

 長い金色の髪にこの世の存在とは思えないほどの美しさ普通は視た瞬間見惚れてしまうのだがあいにくセイとティファにはそういう感情は生まれない。口元にお菓子のカスが付いており、服をかなり着崩して豊かな胸が今にもあらわになりそうになっている。

 

「久しぶりね。セイくん、それにティファちゃんも来たの?」

「せめて人が来たらすぐにちゃんとしろよ」

「え~、だってあなたたちは知ってるからいいじゃない」


 美女は駄々っ子のように反論する。

 

「はぁ、なんでこんな奴が創造神なのかしら」


 今目の前にいるこの美女こそこの世界を創り出した神、創造神エンネシア本人なのだ。

 

「それでやっと私と結婚してくれる気になったの?」


 ティファがセイとエンネシアのことを鋭く睨む

 

「前も言っただろ断るって」


 今この場にエンネシア教の信者がいたのなら卒倒するだろう。自分たちが信仰している女神が一人の青年に求婚しているなんてしかもそれを青年が断ったなんて知ったら大騒ぎだ。

 

「む~つれないな~」

「そろそろ諦めなさいよ」

「え~行動しない誰かさんよりましだと思うけどね」


 すっとティファへと視線を向けるが少女は視線をそらした。

 

「再開したてで悪いけど本題に入るよ。なんでこの時代に『勇者』と『聖女』の称号を人に授けたんだ」


 『勇者』と『聖女』この二つの称号はどちらも魔王に対抗するために作られた称号。『勇者』が魔王を倒す者ならば『聖女』はその勇者を助けるべく作られた称号だ。

 

「そういう気分だったからかな」

「この前『魔王軍』の称号を持つ魔物と交戦した」

「⁉」


 これにはティファが驚きエンネシアは目を細めた。

 

「しかもその魔物たちは生まれて間もなかった。何が起こってる」

「…はぁ、セイ君には敵わないよ」


 そう言うと今まで散乱していた物がすべて消えセイたちの間に机とイスが現れた。エンネシアも純白の幻想的なドレス姿に変わった。

 

「はい座って」

「エンネ、私その話聞いてないんだけど」


 ティファは月に一度エンネシアがいるこの空間に足を運んでいるがそんな話一度も聞いていない。

 

「話してなかったからね」

「魔王軍がまた出たのよ。一大事じゃない!」

「ティファちゃん落ち着いて」

「むぐ」


 エンネシアはティファの口に創り出したクッキーを突っ込んだ。

 

「私にも詳しいことが分からないの。ただ魔王軍の魔物がまた現れたってことだけわかったから念のためあの子たちに『勇者』と『聖女』の称号渡したのよ」

「他にも魔王軍の魔物が出たってことかい」

「そうなんだよ。まあたいしたことなかったからその場にいた冒険者が倒したけどね」


 エンネシアがリーゼに『勇者』の称号を授ける一か月前の事だった。エンネシアは、最悪の可能性を予想し今のうちに『勇者』と『聖女』の称号を人に授けたのだ。

 

「そうかい。聞きたいこと聞けたからそろそろ帰るとするよ」

「え~、もっといてよ」

「もぐ、早く帰りましょう」


 口に詰められたお菓子を食べ終えたティファが席を立った。

 それを聞いたエンネシアは人差し指を頬につけあざとく考えるようなしぐさをする

 

「なら私もついていこうかな」

「だめよ。女神が人の世に降りたら」

「ちょっとくらい、いいじゃん」

「エンネあなたは創造神なの。そのことを自覚しなさい」

「昔はあんなにちゃんと信仰してくれてたのに」

「あなたのその姿を見たら一瞬で幻滅したわ」


 二人は軽口をたたきあう。

 

「また何かあったら来るよ」

「いつでも遊びに来てね。ティファちゃんは一週間後ね」

「分かったわ」


 ティファとエンネシアは結構仲がいいのだ。ティファがこの空間に月に一度来るのは定期報告などではなく純粋にエンネシアとお喋りするためだけだったりする。

 

 エンネシアに見送られながらティファが魔法を発動し二人はこの空間から姿を消した。


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