第二十四話 セイの心
僕は一人で王城の中庭を歩いている。
中庭には綺麗な花たちが咲き誇っている。ちゃんと管理はしてるみたいだね。しばらく歩くと中央に大きな石碑が建てられていた。
見つけた。
僕は石碑へと近づく。そこに刻まれている文字を読んだ。
『勇者ライル・フォン・ベイルダルここに眠る』
僕が向かった場所。それは僕の親友であるライルが眠る墓
「やぁ、300年ぶりだね。墓参りにきたよ」
遺体のみ眠っている亡き親友へと話しかける。
「ほら君の好きだったお酒だ」
僕は空間魔法を使い二つコップを出しそこにお酒を注いでいく。片方のコップは石碑の前へ供える。
「聞いてくれ。この時代に来てまた勇者と出会ったよ。その子の名前はリーゼ、まっすぐでとてもいい子だよ」
僕はライルが好きだったお酒を少し飲む。
「それにさ、僕のことを信用してくれたんだよ。どうしてって聞いたらなんていったと思う」
返事はない。だけど僕はそれで少しだけ満足になる
「悪い人には見えないからだよ。君と同じことを言ってびっくりしたよ」
僕は空を見上げた。雲一つない青空だ。
「久しぶりに人の心を暖かいって感じたよ」
それは僕の心からの言葉。300年前戦場はひどかった。ほとんどの人たちが自分の事を優先して冷たい。だけどこの時代のクロッサス村の人たちは皆優しかった。とても暖かかった。
「そうだ、さっきね。ティファと再会したよ。最初はさ、勝手にいなくなったからティファに殺されるってびくびくしてたけどそれは彼女に失礼だったよ。勝手にいなくなって勝手に怯えて、だけど彼女も暖かかった。あの時彼女に相談しとけば円環魔法なんて使わなくてもよかったかもしれない」
僕はもう一口お酒を飲む。魔法を使ってないため少し酔いが回ってきた。
「ごめん…君を死なせてしまって……ごめん…君が愛した人たちを守らず一人で逃げて」
はは、もう酔ったのかな。やっぱり魔法を使わないとだめだね。
「また来るよ。今度はこの時代の面白い話を持ってくるさ」
僕は、供えたコップの中のお酒を石碑にゆっくりとかけた。
その後僕はこの場を後にした。
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セイたちは家へと帰ってきていた。ただしリーゼとセイの二人ではない。
「開かないじゃない」
「君は登録してないからね」
「なら私も登録して」
「はぁ」
セイが溜息を吐いた。
(あの時思った暖かいって何だったんだろ)
今この場にはティファもいる。あの時泣いていた少女は元の強気な少女へ戻っていた。
何故この場にティファがいるのかというと
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セイがライルの墓参りをし終えた後リーゼが待っている部屋へと向かった。
「さてリーゼ帰ろうか」
部屋に入るとリーゼとアイナそれに何故かティファがお茶を飲みながら談笑していた。この光景を見た者たちは美少女たちがお茶をしている楽園と思うがあいにくセイにはそう思うことができなかった。
「…何をしてるんだいティファ」
「やっと来たわね」
ティファは立ち上がるとセイの前に立ちふさがった。
「リーゼに剣術やら勇者のスキルを教えてるってどういうことよ」
「ああ、そのことか」
ティファは怒っていた。理由は何となく察せるがそれは考えないようにする。
「文句なら僕じゃなくエンネに言ってくれ」
「どうしてよ」
「あいつがさぼった。これだけで君なら分かるだろう」
「あの猫かぶり女神」
ティファは恨めしそうにあの女神のことを思い浮かべた。この二人にとって創造神エンネシアは敬うべき存在ではないのだ。
「もういいかい。そろそろ帰りたいんだ」
「あんた昔からこういうところ苦手よね」
「仕方ないだろ」
セイは昔からこういう高級そうな場所が苦手だった。周りの物が煌びやかで落ち着くことができないのだ。
「分かりました。じゃあねアイナ」
「また明日」
リーゼがセイの下へ行き部屋から出たのだが
「……なんで君までついてくるんだい」
「だってセイの家に行くんでしょ。なら私もついていくわよ」
「仮にも、大公様が森の中で暮らすのは世間体的によくないと思います」
リーゼはこのままではセイと二人きりの空間を邪魔されてしまうと判断し意見する。
「それなら心配いらないわ。私はエルフつまり森の中に暮らしていても何も問題ないわ」
エルフは基本的に森に住んでいる。ティファが王国にいるのはティファが活動的だっただけなのだ。
リーゼは何も言い返すことができない。
「さ、行きましょう」
「構わないけど一つ手伝ってもらうからね」
「ふふん何でも言いなさい」
ティファは自信満々に胸を張る。
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というわけで今に至るのだ。
「君は自分の家があるだろう。ここは僕の家だから君の登録は必要ないだろ」
「じゃあなんでリーゼは登録したの」
「なんでってここで暮らすからでしょ」
「男女で二人だけ…ふうん、まあいいわ」
ティファは、あっさりと引き下がった。それをリーゼは怪訝に思った。
(この人確実にセイの事を狙ってる。こんな綺麗な人が相手じゃ勝ち目がないよ。だけど、どうしてあっさり引き下がったんだろう?)
普通好意を寄せている人が男女で二人きりになるのを良しとはしないはずだ。何が起こるか分からないひょんなことから関係が進展することもあるだろう。リーゼはますますティファのことを怪しく見る。
「それじゃあ連れてきたんだから一つお願いを聞いてもらうよ」
「いいわよ。何がいいの」
「君の今の剣術レベルはいくつだい?」
「視ればいいじゃない。…確か今はlv9だったと思うわ」
セイのレベルより高かった。だてに300年以上は生きていないということだ。
「良かった。ならリーゼに君の剣を教えてくれないかい」
「そんなことでいいの?」
「ああ、僕は特にほしい物はないからね」
「分かったわ」
セイはリーゼへと向き直る。
「リーゼ、ティファから剣を教わってみてきっと強くなれるよ」
「…分かりました」
リーゼは、少し不服そうだが了承した。
「じゃあ模擬剣はここに置いとくから後の事はよろしくね」
そういうとセイは、空間魔法で練習用の剣を二本取り出し家の中へと入っていった。
「さてと、あなた鑑定のスキル持ってるでしょ。私の事を視ていいわよ」
通常勝手に相手のことを鑑定を使い視ることはマナー違反なのだ。なので、相手の許可が必要になる。
リーゼはティファの能力を視た。
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ティファ・アロンテッド 320歳
種族 エルフ
体力 S
魔力 SS
筋力 S
俊敏 SS
称号 『妖精姫』『十英雄』
スキル <魔力制御lv10><弓術lv10><剣術lv9><鑑定lv8><■■■■><風魔法lv10>
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さすがは英雄という能力だった。この能力なら今の力を制限されたセイに勝つことが
できるだろう。
「すごいですね」
「あなたセイの能力も視たんでしょ。私なんてたいしたことないはずよ」
「?私はティファさんの方がすごいと思いますけど」
リーゼとティファの話がかみ合わない。
「…ああ、そういうことね。セイの能力にも見えない文字があったでしょ」
「そういえば」
「それなら仕方ないわね。それじゃあやりましょう」
ティファは話を切り上げるとセイが置いていった練習用の剣を一本手に取った。
「あなたから来なさい」
「余裕はよくないですよ」
リーゼも剣をとると、一気に距離を詰めた。そのまま流れるように突き、突き、横なぎの三連撃だがその全てを微笑んで受け止める。
「いい太刀筋ね。セイの教えの賜物って所かしら」
「まだまだです!」
リーゼは上段に剣を構えティファに渾身の一撃を入れる。だがそれも簡単に受け止められる。
「あなたの長所は速さよ。それを活かさないで戦ったところで私を動かすことはできないわよ」
ティファの言っていることは最もだ。だがその速さを活かしたとてティファにはかなわない。
その後も何度も切り結ぶがティファをその場から一歩も動かすことができなかった。
「はぁはぁ」
「終わりね。まぁまぁ良かったわ」
「ありがとう、ございました」
リーゼは息を切らせながらその場に座り込む。
その時、玄関の扉が開き中からセイが出てきた。
「終わったかい。夕食の準備が終わったから早く中に戻ってきな」
「久しぶりのセイのご飯ね」
ティファはるんるんで家の中へと入っていった。




