第二十三話 妖精姫との再会
セイたちは純白の馬車に乗っていた。
「王城では王様のほかに誰が待ってるのかな」
「謁見の際には王族の者が参加します。王族は、母と兄が二人参加します。レイラお姉さまはまだ帰ってきていないので参加はしません」
レイラはセイたちと違って転移ができないためまだ王都に戻ってくるまで時間がかかる。
「あ、それと大公様も参加されます」
「…?今大公って言った」
「はいそう言いましたけど」
「……そうか大公ってもう一人いるのか」
早々にセイは現実逃避を始めた。
「何をおしゃってるんですかこの国にはティファ様意外大公はいませんよ」
「はは、僕今から帰っちゃダメかな」
セイはもう今すぐこの場から空間魔法を使い帰りたいと考える。
「そんなに会うのが嫌なんですか」
リーゼとアイナは疑問に思った300年ぶりに仲間と会うのなら普通は嬉しいはずだ。だがセイは嬉しいというより少し怯えているように見えた。
「嫌というかあったときに何をされるか分からないんだよね」
「?」
「良くて大けが悪くて死、どっちかだね」
「⁉」
セイは誰にも相談せずに円環魔法を使い消えたため確実にティファは怒っている。そのため再会した直後に攻撃されるのではないかとセイは予想している。今のセイに彼女の攻撃を受け止めきる自信はない。
「流石にそれは大丈夫じゃないですか」
「いや君たちは彼女の性格を知らないんだよ。ティファを怒らせてみなよ。空間魔法使ってその場からすぐに離れたいと思うから………」
セイは、自嘲した。その表情は何があったか物語っていた。
二人は、魔王を倒した英雄が恐れているティファに戦慄した。
そうこうしているうちに王城へと辿り着いた。馬車を降りるとそこにはダンディな執事がいた。
「お待ちしておりました。陛下はすでに王の間にてお待ちしております」
「そうですか。それじゃあ行きましょうリーゼ」
「うん」
リーゼはさっきの話と王城の大きさに緊張してカチカチだ。
三人は、王の間へと入っていった。
~~~~~
私は、ティファ・アロンテッド。皆からは『妖精姫』って呼ばれてるわ。
私は、今王の間にいる。なんでも新しい勇者とここで会うらしい。別に私を呼ばなくてもいいと思うんだけど。
はぁ、一応大公の位を貰ってるから参加しないわけにはいかないか
「ティファ殿あなたから見て『勇者』様はどのような方でしょう」
玉座に座っている老齢の男が話しかけてくる。この国の国王だ。
「まだまだ発展途上ってところね」
「そうか」
それだけ言うとまた沈黙した。
この王様今となっては何考えてるか分からないのよね。昔はあんなにやんちゃしてたのに。
その隣には同じく老齢ではあるがまだまだ美しい老齢の女性がいる王妃だ。そしてその下に並んでいる二人の青年。一人は金髪で長身、優しそうな雰囲気もある青年はレイン・フォン・ベイルダル。この国の王太子だ。その隣にいてけだるそうにしている男はランド・フォン・ベイルダル、第二王子だ。
新しい勇者ねぇ。そんなにたいしたことなかったわね。ライルと比べたら。
私は魔王との戦いで命を落とした勇者を思い出した。そしてその隣にいつも立っていた黒髪の青年の事も……
絶対セイに会うまで何百年でも生きるんだから。
再会したら絶対に怒る。あんな手紙だけ残して消えるなんて信じられない。
セイの心が傷ついてることくらいは分かってる。だけどそれなら私たちに相談すればよかったじゃない。ああ、思い出しただけでむかむかする。
「ティ、ティファ殿、魔力を抑えてくれぬか」
「あ、ごめんなさいね」
セイのことを考えてたら自然と魔力が漏れてしまっていた。
王様たちの顔が引きつっている。第二王子にいたっては少し震えていた。臆病ね
「アイナです。勇者様をお連れしました」
「入りなさい」
やっと来たのね。
大きな扉が開き、中にアイナが入ってきた。その後ろにはあの水色髪の勇者がいる。ん?その後ろからもう一人入ってきた。
…………………え?
「や、やぁ、久しぶりだね。ティファ」
そう言って入ってきたのは私が知っている黒髪の青年。忘れもしない大戦時苦楽を共にした仲間だった。
~~~~~~~
ティファは無言で魔力を高めながらセイへとゆっくり近づく。
セイの内心は変な緊張感でいっぱいだった。
(ど、どうする。相当怒ってる、時魔法、いや無理だ。今の状況だと使えない。あ、やばい、死んだかも)
ティファが目の前で立ち止まりセイは死を覚悟した。だが魔法は放たれなかった。その代わりティファはセイに抱きつき顔を埋めた。
「⁉」
「…すん……ぐすん…」
セイは驚いたが瞬時に理解した。
(……そうか。悪いことをしたな)
王の間に聞こえるのは英雄と呼ばれたエルフのすすり泣く音。いや一人の少女が泣く音だ。
セイは少女を優しく抱きしめ頭を撫でる。
「ごめんよ。勝手に消えて」
「すん…そうよ。どうして私たちに…言ってくれなかったの」
それは少女の心からの言葉。
「私たちじゃ…ううん私じゃあなたの希望に…なれないことくらい…分かってる。だけど…相談に乗るくらいはできた…」
「そんなことないよ、君は十分僕を助けてくれた。だけど僕にはあの時代で暮らすことはできなかった。あのままあの時代に残ってたら僕は何をしでかすか分からなかった。理解してくれるかい?」
「……分かった」
「ありがとう」
少女は泣き止みそっと離れた。
「あなた方が『魔道王』セイ様と今代の『勇者』リーゼだな」
「はい」
「君がこの国の今の国王だね」
リーゼはセイとティファのやり取りに気が回らないほどかなり緊張している。
「ええ、私の名はゼイン・フォン・ベイルダルです」
「そうかい。それで僕たちを呼んだ理由は何かな」
「セイ様にお願いがございまして」
「なんだい」
「宮廷魔導士になっていただきたいのです」
魔道王を宮廷魔導士にできたのならベイルダル王国はそれこそどこにも負けることが無い強国となりえるだろう。
セイにとっても利がある話だ。宮廷魔導士になれば将来は安泰地位も金も何不自由なく暮らすことができる。
「それはできないよ」
「何故ですか」
「僕はね、地位とか名誉なんてどうでもいいんだよ」
「そうですか」
国王は最初から分かっていたのだ。セイが地位も名誉も興味のないことに。これで終わったかと思ったが第二王子が叫びだした。
「父上!お願いなどせずに一言命じればいいじゃないですか!魔道王といえどこの国に忠誠を誓っている身あっさり引きさがる必要などありません」
「はぁ……ランド」
国王は心底呆れる。セイは横にいるティファへと視線を移した。泣き止んだ少女は肩をすくめた。
(そういうことか)
「ランドって言ったかな」
「なんだ。英雄と言えど僕は王族だぞ。敬語を使え!」
「はぁゼイン、君は息子にどういう教育をしてるんだい」
「言葉の返しようもございません」
「父上が謝る必要などありません。すべては言うことをきかないこいつが悪いのですから」
セイをこいつ呼ばわりする命知らずはこの世にほとんどいないだろう。
「黙れ」
苛立ったその言葉が放たれた瞬間場が一気に沈黙した。ティファ以外から大量の冷や汗が流れる。その視線を向けられているランドは怯えて腰が抜けた。
「ランド、僕が嫌いなものを一つ教えてあげよう。それは権力をたてに好き勝手する人だ」
セイは微笑んでいる。だがその微笑みはとても怖い。
「それに君は一つ勘違いしているよ。僕が忠誠を誓ったのはこの国じゃない。僕の心を救ってくれたライル一人にさ、それは永遠に変わらない。そのことを忘れないようにね」
ランドは失禁しその場で気絶した。
「やりすぎよ」
「ああ、ごめんね。怖がらせちゃったね」
後ろにいたリーゼとアイナは少し震えていた。
「い、いえ、少し驚いただけです」
「遠慮しないで怖いときは怖いて言ってね。ゼイン、ちゃんと息子を教育しておくようにね」
「分かっております」
「それともう一つ———に行きたいんだけど、どこにあるか教えてくれるかな」
どこか少し寂し気にそう言った。




