第二十話 セイの家
第二章の始まりです。新たなヒロインが三人出てきます。お楽しみに
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リーゼとセイは空間魔法で王都へやってきた、はずだった。
リーゼが目を開けた先は建物が立ち並び人々が行きかう光景ではなかった。想像していたのと違う。
今リーゼたちがいるのはそんな想像していたのとはかけ離れた森の中、自然豊かで所々に綺麗な花が咲いている。鳥たちのさえずりが聞こえ、木々の隙間からは動物たちがいるのが分かる。そしてリーゼたちの目の前にあるのは木で造られた平屋建ての家だった。
「ここって王都ですか?」
「そうだよ。王都にある僕の家だね」
なんとここはセイの家だった。
「王都ってこんな感じなんですか」
「一応ここも王都なんだけど正確に言うとこの森は僕の土地だね」
「土地……」
リーゼはスケールの違いにただ茫然としてしまう。
ここら一帯は森となっていて王都の中でも異質なところなのだ。
「ごめんね。リーゼが思い描いていた王都とは違うかもしれないけどしばらくの間ここに住んでもらえないかな」
「あのそれってセイと二人でですか」
「あ、やっぱり男の人と二人って嫌だよね。やっぱ王都の宿でも探そうか」
「いえ!大丈夫ですこの家で暮らします!」
「そ、そうかい」
リーゼがすごい勢いで迫り否定した。セイは、珍しく少し狼狽える。
自分の行動に気が付いたリーゼは両頬を手で抑え恥ずかしがる。
(私何やってるの⁉……でもセイと二人っきり、えへへ)
そんなことを考えていると自然と頬が緩んでしまう。
セイは、家に入ろうとドアノブに触れるとそこから魔力が流れた。するとカチャリと音が鳴りドアが開いた。
「さぁ入ろうか」
「はい」
家の中に入るとたくさんの本棚が並んでいた。部屋の中央には机とソファがある。どれも簡素な作りになっておりここら一帯の土地を持っている人の家には思えない。
「そこのソファに座っといて、飲み物は紅茶でいいかな」
「はい」
リーゼは部屋の中央にあるソファへと座った。ソファは思ったよりふわふわしており気持ちがいい
セイは、キッチンへ向かうと戸棚の奥にあった茶葉の入った缶を取り出した。300年前に買っておいた紅茶の茶葉だ。
普通はもう腐っていたりして使えなくなったりしているがそこは魔法で何とかしている。時魔法を使い茶葉の時間を止めているのだ。禁忌魔法を紅茶の茶葉を保存するために使っているのはセイくらいだろう。
セイは、ティーカップとティーポットを取り出すと紅茶を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
紅茶の入ったティーカップを机の上に置くとセイも反対側のソファへ座る。リーゼは紅茶をゆっくり飲む。
「美味しい」
「それはよかったよ」
セイも紅茶を飲む
「明日から学院が始まるのにこんなのんびりしてていいんですか」
「それなら心配いらないよ。もう必要な物もそろってるしね」
「そうじゃなくて」
「ああ、実力の事だね。うんとね、はっきり言っちゃうとリーゼの力は新入生の中で結構強い方だと思うよ」
「え?」
そうなのだ。リーゼは比較対象がセイのため自分の力を見誤っている。剣術においてリーゼは強い部類に入りしかもそこに神剣が加わってくるのだ。全力の攻撃を防げるのだとしたらそれこそ英雄のような力を持つものくらいだ。
「だから安心して今日はゆっくりするといいさ」
「なら私、王都を少し見てみたいです」
「分かったよ。ちょっと待っててね」
セイはそういうとソファから立ち上がり奥の部屋へと向かった。
「どこにやったかな」
セイが入った部屋の中にはいろいろなものが置いてあった。一番目に付くのは部屋の隅に乱雑に置かれてある金銀財宝。そして何故か飾られているどこかの部族の仮面のような物。他にも鎖で縛られた危険そうな本が数冊。この部屋は普段使わないようなものを保管する倉庫のようなものなのだ。
セイは部屋の中を漁っていく。
「あった」
セイが見つけたのは布で出来た小袋だった。その中を見てみると金貨が数枚入っていた。
「セイ、大丈夫ですか」
「うん大丈夫だよ」
なかなか出てこないセイを心配してリーゼが部屋の中へ入ってきた。
「すごいですね」
「見てもいいけど勝手に触ったりしたらだめだよ。危険な物も多いからね」
「はい」
二人は部屋から出る。
「さてそろそろ王都を見て回ろうか」
「楽しみです」
二人は家の中から出ると森の中を進んでいく。木々の隙間から零れる日の光がとても気持ちいい。
「広いですね」
「うん僕の家はちょうど城壁に接してるからね」
セイの家はちょうど王都を取り囲むようにして作られている壁に面しており森を抜けるまで時間がかかってしまう。
「セイ、行き止まりですよ」
「ここでいいんだよ」
リーゼたちが辿り着いたのは白い壁だった。出口らしきものも見つからずその壁は天まで続いていた。
「リーゼ血を少しもらえないかな」
「⁉」
(え!セイってそういうのが好きなの⁉…でもそういうのが好きっていうんなら)
リーゼは大きな勘違いしていた。セイは決してそんなかなり特殊な嗜好の持ち主ではない。
「……分かりました」
「ここに一滴たらしてくれるかな」
白い壁の近くに四角い支柱のようなものが立っていた。
「…はい」
盛大な勘違いをしていたことに気が付き顔を赤くしてしまう。
リーゼは指を切り流れた血を支柱へと垂らした。すると白い壁が輝きだした。
「これでこの結界を自由に出入りできるからね」
セイはリーゼの傷を回復魔法で治した。セイがリーゼの血を欲したのは結界にリーゼのことを登録するためだ。この結界は登録された者以外の侵入は許されない。
「行こうか」
セイは白い壁へと手を触れると壁に大人一人が入れるくらいの穴が開いた。
「さぁここが王都だよ」
「うわぁ」
そこに広がっていた光景はリーゼが予想していたもの道理だった。
大きな建物が立ち並びたくさんの人々の声が聞こえる。
「すごいです!人が沢山、それにいい匂いがします!」
リーゼは初めて見る光景に目を輝かせながらはしゃぐ。
「リーゼが行きたいところに行っていいよ」
「ならこっちに行きましょう」
その日、二人は王都をめいいっぱい楽しむのだった。




