第十九話 いざ王都へ
リーゼとセイは、家に帰ってきていた。
「セイ、私はどうすればいいんですか」
「それはリーゼが自分自身で決めることで僕が決めることじゃない。決まるまで悩めばいいさ。それも大切なことだよ」
そう言ってセイは自分の部屋へと戻った。
一人になったリーゼは、外で剣を振るう。剣を振っていれば嫌なことを忘れられすっきりした気分になることができた。だが今は振っても振っても悩みは消えない。
(やっぱり決めなきゃ。だけど王都に行ったらもうセイには教えてもらえないしお父さんたちに迷惑をかけちゃうかもしれない)
せっかくずっとと言ってもらえたのに今王都に行ってしまうとセイに教えてもらえなくなってしまう。それに両親にも迷惑をかけてしまう。
(だけど神様がそうした方がいいって言ったんだよね)
創造神エンネシアが言った言葉だ。信じるに値する。それにゼノフ学院と言ったら多くの優秀な冒険者を輩出した学院としても有名だ、そのため冒険者になりたいリーゼには適しているのだ。
自分の夢のために学院へ行くか、セイと一緒にいたいから学院に行くのをやめるか
(セイと一緒に居れば確かにいい冒険者になれるかもしれない。だけどセイにだけ教わってたら広い世界を見ることができない)
どっちの方がいいのかリーゼには分かっていた。
「決めた」
リーゼは剣を鞘に納める。
その日の夕食の時
「お父さん、お母さん」
「どうしたんだ」
「何かしら」
リーゼは真剣な表情で言う。
「私、王都の学院に通いたい。そこでたくさん学んでいい冒険者になりたいの。だから私が王都に行くのを許してください」
リーゼは二人に頭を下げた。これがリーゼの選択だった。
「ああ、そのことか頑張れよ」
「え?」
ゲイルにあっさり了承され面食らってしまう。
「だから王女様から言われたことだろ。お前が頑張りたいなら行ってくるといい」
「確かに少し心配だけど娘がそうしたいなら応援しないわけにはいかないでしょ」
二人ともリーゼが学院に誘われたことを知っていた。二人で話し合いリーゼが行きたいというのなら行かせてあげようと考えていたのだ。
「いいの?本当に王都に行っちゃうんだよ?」
「なんだ、行きたくないのか」
「ううん、行く、行くよ。ありがとう」
リーゼは、承諾してくれた両親に感謝した。そしてセイの方に向く。
「ごめんなさい。せっかく教えてもらえるのに勝手に王都に行くの決めてしまって」
「ああ、そのことなら心配する必要はないよ。僕も王都に用事があったからね」
「え?」
またも呆気に取られてしまう。
「リーゼが王都に行っても行かなくてもしばらくの間王都に行かなきゃならなくなってね。ああ、もちろん用事が終わったら戻ってくるつもりだったよ」
「……」
「どうしたんだい」
「私が悩んでたのって……」
リーゼの悩みが杞憂に終わったのはよかったがあまりにあっさりしすぎてうつむいてしまう。
「ごめんね。話そうと思ってたんだけどタイミングが見つからなくてね」
「もういいです。そしたら王都でも教えてくれるってことですよね」
「そうだね」
「ふふん、ならいいです。許してあげます」
リーゼは嬉しそうに笑みをこぼした。
翌日二人は教会にいる王女の下へと向かった。
「私学院に通います」
「そうですか。でしたらそのように伝えときますね。セイ様」
「なんだい」
「エンネシア様からリーゼさんが学院に通う決断をしたら伝えてほしいと伝言を預かっています」
セイはなんとなく嫌な予感がした。
「学院が始まるのは三日後なので空間魔法で王都まで来てくださいだそうです」
「ん?ちょっと待ってね。学院が始まるのは三日後って言ったかな」
「はいそうです。あ、そうでした。もう一つ、制服を持ってきたんです。リーゼさんこれを」
「うわぁ、可愛い」
「……」
沈黙するセイをよそにレイラはリーゼへと学院の制服を渡した。制服は白を基調とした学生服で胸元にはリボンがあしらわれていた。
「これ着て学院に行くんですか」
「そうよ。私も通ってたけどとても面白いところよ」
二人は、話に花を咲かせていた。そんな中セイは未だに喋らない。というよりもどこか怒りを抑えているようだった。
(長距離転移で王都まで来いと、僕はまだ力が戻ってない。絶対に分かってやってるな、あいつ、しかもこっちには拒否権が無いじゃないか)
心の中であの女神に文句を言っていた。今のセイにとって長距離転移はかなりきついのだ。
しかしセイはこれを断ることができない。もし断れば王都まで馬車で行くしかない。その場合クロッサス村から王都まで一週間はかかる。そうしたらリーゼは入学式から遅刻してしまうことになってしまう。セイは絶対にそんなことはさせない。これはセイの性格を知っている女神のいたずらのようなものだった。
「はぁ、分かったよ。二日後リーゼと一緒に王都に行くよ」
「ありがとうございます。エンネシア様の言う通り断りませんでした」
「レイラは、あいつ、エンネシアがどういう性格か知っているのかい」
「はい、とても思慮深く、聡明でお優しい神様です」
「……そうかい」
セイは呆れていた。レイラの言っている女神はセイが知っている女神と性格がかなり違かった。同じ神のことを考えているのにこうまで違うのはあの女神の本性を知らないからだろう。
「それでは、私はこれで王都に帰ります。また王都で会いましょうリーゼ」
「はい、レイラさんも帰り道には気を付けてください」
二人は、だいぶ親しくなっていた。レイラは馬車に乗って村から出ていった。
「いつの間に仲良くなったんだい」
「話してるうちに自然と仲良くなれました」
これもリーゼの美徳だろう。レイラも政治とか関係なく仲良くなっていた。
それから王都に行くための準備をしてあっという間に二日が経った。
今は、村の全員が教会へと集まっていた。
「制服は持ったか、王都の地図は、歯ブラシとコップは」
「お父さん心配しすぎだよ」
「そうよ。何か足りなくても戻ってくればいいんだから」
「だけどよぉ」
「自分で娘が決めたことを見守ってやろうぜとか言ってたくせに情けないわね」
サリナに小言を言われゲイルが縮こまる。そんな姿を見て村人たちは笑い出した。そんな中ロイがセイへと近づいた。
「セイ」
「なんだい」
「俺は強くなるぞ。そしてお前を倒して見せる」
「楽しみにしてるよ」
ロイも随分と丸くなった。今ではセイに対する態度も少し柔らかくなった。
「お兄ちゃん」
「セイ」
「うぉ⁉」
そんなロイを押して村の子供たちがセイへと駆け寄った。
「いっちゃやだよ」
「もっとお話聞かせて」
子供たちは皆セイにかなりなついてしまったのだ。リーゼはというとそんなセイの様子をうらやましそうに見る。
「また戻ってくるよ」
「本当?」
「本当さ、今度は王都であったことをお話ししてあげるよ」
「約束だよ」
「うん」
セイは優しく微笑み泣きそうになっていた子供たち全員と指切りをした。
「そろそろ行こうか」
「はい」
別れの挨拶を済ませセイが空間魔法を使おうとした時
「あ、セイさん、娘の事末永くよろしくお願いします」
「お母さん⁉」
「安心してください。娘さんの事はしっかり見ときますので」
突然の言葉にリーゼは驚きを隠せない。意味的にはあっちの意味に聞こえてしまう。そう言ったのと同時に二人ほど膝から崩れ落ちる者がいた。
セイとリーゼは空間魔法で王都へと転移した。
勇者の少女はこれから始まる生活への期待で胸を膨らませるのだった。
これで第一章は終わりになります。次章はセイと同じ英雄であるエルフの少女が出てきます。
ブックマーク登録、評価が励みになります、ぜひよろしくお願いします。




