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第一話 少女と英雄

 クロッサス村。それはベイルダル王国の辺境にある村である。辺境の村と言っても技術の発展によりちゃんとした交通網が整えられているためあまり不自由なく暮らすことができている。

 そんな村にある民家には朝から剣を振るう少女の姿があった。

 

「朝からせいが出るな。リーゼ」


 少女の名はリーゼ。肩にかかるくらいの長さの艶やかな水色の髪に宝石と見間違うほどの美しさを持つ金色の眼。彼女のことを知らない人が見ればどこかの国のお姫様に見えてしまう。

 そんな少女が剣を振るう姿は、とてもさまになっている。

 少女は剣を振るうのをやめ声のした方を振り向いた。


「お父さんこそ、ちゃんと準備運動しなくていいの?」

「おう、これでも俺は、森の王者って呼ばれてたんだぞ」


 40近い彼女の父が手に持っていた鉄の大剣を掲げて見せる。彼は、とてもたくましい体をしている。

 

「ゲイル、もう少し自重しなさい。リーゼご飯ができたわよ」

 

 父の後ろから優しそうな表情の女性が出てきた。彼女の母親だ。彼女に似て水色の髪と金色の眼をしている。とても若々しくリーゼと並ぶと姉妹に見えてしまう。

 

「サリナ、別に娘に自慢するくらいいいだろ」

「それやってて楽しいの」

「ああ、楽しいぞ」


 そう言って笑いだした。そんな彼の様子にサリナは呆れてしまう。

 

「はぁ、いくつになっても子供っぽいわね」


 二人は、家の中へと戻っていく。リーゼはそれに続いて中へと戻っていく。

 家の中には、簡素な机とそこに四つ椅子が並べてある。サリナは、朝食のスープをよそっておりゲイルは、もう自分の席についていた。リーゼはゲイルの前の席へと座る。

 

「お父さん、今日はどこに行くの」

「今日はな、魔の森に行くぞ」

「え!入っていいの」


 魔の森。クロッサス村近くにある森。昔は普通の森だったのだが突如、森にとてつもない量の魔力が充満してしまい魔物が多く住むようになってしまったのだ。年々魔力量は少なくなっているのだがそれでもいまだに異常な量の魔力が森の中には漂っている。

 そのためクロッサス村ではそれなりの実力が無ければ入ることを許可しないのだ。

 

「ああ、お前の実力ならもういいだろ」

「やった!」


 リーゼは喜ぶ。やっと一人前と認められた気分だ。

 

「浮かれるのはいいが、ちゃんと気をつけろよ」

「そうよ。まだ称号をもらっていないあなたには行ってほしくなかったけど、ゲイルがどうしてもっていうから許したの。ちゃんと気を付けないとだめよ」


 称号。それは神によって授けられるもの。他にも特定の条件を満たすことでも得ることができる。称号を持っていると称号に合った力を手に入れることができるのだ。そのため称号があるのとないのとでは力の差がかなりあるのだ。

 リーゼは、魔の森に行ける喜びから二人の話が耳に入ってこない。

 そんな愛娘の様子を彼らは優しく微笑みながら見る。

 

「ほら浮かれないの。早く食べなさい」


 サリナが、スープをよそったお皿とパンをそれぞれの目の前へと置いていく。

 

「いただきま~す」

「いただきます」


 リーゼは満面の笑みでご飯を食べていく。完全に浮かれている。

 朝食を食べ終えるとゲイルが、鉄の大剣を磨き始めた。それを見たリーゼが自分用の剣を取り丁寧に磨いていく。

 しばらくするとゲイルは磨いていた剣を背負い立ち上がった。

 

「そろそろ行くか。準備は出来てるな」

「できてるよ」


 リーゼは剣を鞘へとしまい帯剣する。

 

「気を付けてね」

「ああ、行ってくる」

「行ってきます」


 リーゼたちは、家を出て魔の森に向かった。

 魔の森と村の間には、門が設けられており、許可をもらえなければ入ることができない。

 

「おう、リーゼちゃんお父さんの手伝いかい」

「そうだよ」


 村の守衛を務めている気さくなおじさんが話しかけた。リーゼは、村一番の美少女のため皆から愛されていた。

 

「魔物を狩るのもいいけどお父さんみたいになっちゃだめだよ」

「おい、どういう意味だ!」


 ゲイルが守衛の言葉に反応した。

 

「大丈夫だよ。お父さんみたいな筋肉にはならないようにしてるから」

「…リーゼ」


 愛娘からの言葉にじゃっかんショックを受けてしまう。それを見ていた守衛が大笑いしゲイルと喧嘩になってしまう。

 この村では、あまり珍しい光景ではない。これが当たり前なのだ。そのためすぐに喧嘩をやめ別な話に花を咲かせていた。

 

「お父さん、そろそろ行こうよ」

「すまないな、じゃあ、行ってくるよ」

「おう、ほどほどにしろよ」


 守衛のおじさんに見送られリーゼたちは真の森へと入っていった。

 魔の森の中では、鳥のさえずりがとてもきれい聞こえ木々の葉が擦れる音が鮮明に聞こえるくらい静かだった。

 

「どうすればいいの?」

「いいか。まずは、魔物の痕跡を探すんだ。ほらそこに足跡があるだろ」


 ゲイルが指さした先には魔物の者と思われる足跡が残されていた。それは森の奥まで続いている。

 

「本当だ」

「この足跡は、狼型の魔物だな。特徴は覚えてるな」

「うん、狼型の魔物は、動きが素早くて、フェイントを織り交ぜながら攻撃してくるからそれを見極めて反撃すれば効率よく倒せるんだよね」

「正解だ」


 ゲイルは、リーゼの頭をくしゃくしゃに撫でる。

 

「もう子供じゃないんだからやめてよ」

「ああ、すまん、すまん」


 リーゼは、嫌そうに言うが実際は褒められてうれしくなったのが恥ずかしくて言ってしまったのだ。

 

「それじゃ、進むか」


 リーゼたちは、足跡のある方へと進んでいく。

 

「止まれ」


 ゲイルは、リーゼを手で止める。大剣の柄を右手で持ちいつでもさやから抜けるようにする。

 リーゼはいつもと雰囲気の違う父の姿を見て緊張感が増す。

 ゲイルの視線の先には、体長1mくらいの狼型の魔物が三体歩いていた。

 

「俺が、二体倒すから残り一体は自分で出来るか」

「やってみる」


 リーゼは、剣の柄へと手をかける。その手には、ジワリと汗が張り付いてきた。

 魔物たちが森の奥へと移動を始めようとしたとき

 

「行くぞ」


 ゲイルが飛び出した。大剣を上段に構えそのまま一体の魔物へと振り下ろした。魔物は、一瞬反応が遅れてしまいそのまま真二つに切られてしまう。仲間の魔物がそれに気づきすぐにゲイルを倒そうと狙いを定める。

 

「リーゼ」

「分かった」


 リーゼは、もう一体の魔物へと切り込む。その速さは、父に比べて少し遅く躱されてしまう。だがこれで二対二の状況が完成した。

 

「俺が右側をやる」


 ゲイルは、右側の魔物へと切りかかった。奇襲の時のようにはいかず躱されてしまう。

 リーゼは残った魔物と向き合った。魔物を低い唸り声をあげ威嚇する。数秒の間膠着状態が続いた。しかし、この均衡を先に破ったのは魔物だった。 

 魔物は、素早い動きでリーゼに爪を振るう。しかし、それはリーゼの剣によって阻まれ当たることはない。すぐさま後退し次の攻撃の準備に入る。


 リーゼの心拍がどんどん上がっていく。今度は、右から攻撃したかと思ったら急に左へと飛び噛みついてくる。咄嗟に身をひるがえしそれを躱そうとするも左腕に爪が当たってしまい、真っ赤な鮮血が飛び散った。

 

「っ⁉」

 

 魔物の攻撃が続く。だが段々と目が慣れてきて剣で防ぐことが可能になってきた。

 

(そろそろいけるかも)

 

 そう思った次の瞬間、魔物が、大きく上へ飛び爪を振り上げる。

 リーゼは、すぐさまその場でかがみ剣を魔物の腹目掛け横なぎに振るった。

 

「キャウン⁉」

 

 魔物が、鳴き声を上げそのまま前へと倒れる。段々とそこには、血だまりができていく。

 

「やった。倒せた」


 リーゼは、剣を鞘に納め喜ぶ。

 

「危ない!」

「え?」


 父の声が聞こえ何事かと思い後ろを振り向くと、そこには、さっき倒れていたはずの魔物が爪を振り上げていた。咄嗟に剣を取ろうとしたが間に合わない。

 

「くっ」

「お父さん!」


 ゲイルが、とっさに腕を出しリーゼのことを庇った。しかしその代償として右腕に深い傷ができてしまう。

 

「アォォォォン!!!」


 魔物が遠吠えをその場で上げると、そのままパタリとその場で倒れてしまった。

 

「に、げろ」

「え、どうし、っ⁉」


 父の言った言葉の意味が理解できなかったが、その疑問はすぐに晴れることになる。

 さっきの魔物の遠吠えにより、狼型の魔物の群れが集まってきた。その数なんと12体。父は、右腕をやられ剣を握ることができない。しかし、この数を一人で倒すのは不可能だ。

 

「速く逃げろ」

「お父さんはどうするの!」

「俺の事なら、心配、するな、これでも、森の、王者だからな」


 そんなことを痛みに耐えながら笑って言う。リーゼがここで逃げてしまえば、助かるだろう。しかし、その場合確実にゲイルは助かることが無い。

 

(ここにお父さんを置いてけない)


 リーゼは、覚悟を決め剣の柄に手をかけた。

 

「リーゼ、いうことを聞きなさい」

「嫌だ!ここでお父さんを失いたくない」


 それはまだ幼さを残した少女の心からの願いだった。こんなところで死んでたまるかと柄を握る手の力が強まる。

 魔物たちは、痛手を負った二人を完全に食料としか捉えてなかった。魔物たちが、我先にと全員で獲物目掛け突っ込んでいく。


 こんな数捌くことができないと思いながらも絶対に父のことを守るという矛盾した気持ちになりながら、剣を振るおうとする。

 しかし、剣は、容易に魔物によって弾かれそのまま噛みつかれそうになる。

 

(誰か、助けて)


 こんな森の中に助けなど来るはずがないと分かっていたがリーゼは心の中で助けを求めた。

 

「弱い者いじめはよくないよ」

 

 もうだめかと目をつぶったとき。不意に優しそうな声が聞こえた。

 リーゼはゆっくりと瞼を開けると、そこには黒髪の青年が魔物の攻撃を受け止めていた。すると突然魔物たちが周りに吹っ飛んでいった。

 

「大丈夫かい」


 青年は、優しい笑みを浮かべながら少女に手を差し伸べた。

 


———これが、少女と英雄と呼ばれた青年の運命の出会いだった。


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