第百九十二話 アリアとの関係
アイナたちの説得もありだいぶ落ち着きを取り戻したリーゼはソファに座りルームサービスで頼んだホットミルクをちびちびと飲んでいた。
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう」
「それにしてもセイは仕方ないとしてリーゼもここまで壊れるとはね。意外だわ」
ティファはそう言ってホットコーヒーを口にした。その隣ではサクラが、退屈そうに足をぶらぶらさせている。完全にまったりモードだ。
「なんだか、こんな綺麗な所に泊るって考えると色々と落ち着かなくて」
「師匠と同じ思考だ」
「セイの方がもっとひどいわよ。王城に呪われた開かずの扉ってあるでしょ」
「あぁ、あります」
アイナは思い出すように頷いた。開かずの扉とは王都ゼノフにある王城の中で何故か誰も入れない部屋がある。その昔、強制的に扉を開けようとしたものがいたが開けることができなかったどころかその後、不幸に見回り続けたという逸話も残っている。
実際、開かずの扉がある場所は王城の設計図にはただの壁になっておりそこに部屋はないはずなのだ。そのため色々な憶測が飛び交い呪われた開かずの扉という名がついた。
「ベイルダル王国ってどうなってるの」
フェンティーネはそんなものを放置している王国に色々な意味で恐怖を覚える。
「よくアイナは、放っておけるね」
「何もしなければ害はないし、正直ティファ様から話を聞くまで忘れてたわ」
「えぇ……」
聞くだけでもかなり恐ろしい物なのにそれを簡単に忘れていたアイナにリーゼはある意味感心してしまう。
「あれ、セイの部屋なのよ」
「……師匠はなんてもの作ってるの」
尊敬する師であるセイの行動だがフェンティーネは呆れずにはいられなかった。
「まぁ、自分が作った部屋が都市伝説扱いされてるとは本人は思ってないでしょうけどね。元々あの部屋は王城の部屋が肌に合わなくて作った部屋だったらしいわ」
へぇと三人が納得する。確かにここに来ただけでそわそわするセイならば王城の暮らしが肌に合わず自分の部屋を作りそうだ。
しかし、一人だけ納得いかない人がいた。
「?セイ様は私と一緒によくアリア姉様の部屋にいましたけど」
「あ、それ、私ずっと気になってたんだけど、引っ越す前あいつ寝るか魔法の実験する以外で自分の部屋いなかったわよね」
「はい、基本的にセイ様はアリア姉様の部屋に入り浸ってますから」
サクラは当時の状況を語る。事情を知らない恋する乙女である三人もまたこれを聞いてしまうと自然とセイとアリアの関係を疑ってしまう。
確かにセイはそれなりに関係を持っていた。しかし、それはアリアではなくライルとだ。ライルはセイの希望であり親友、ライルの部屋に入り浸るなら分かる。だが、ライルの妻であるアリアの部屋に入り浸るとなるとそれは違う。
リーゼだけは何やら顔を真っ赤にさせ何かを想像しているようだがそれよりもまずはサクラの話だ。
「なんで?」
「?ご飯を食べるため?」
「なんで疑問形なのよ。じゃあ、何してた」
「あ、私と一緒に本を読んでいました。後、アリア姉様がよく私とセイ様のことを抱きしめてました。それから、アリア姉様の、は⁉」
「何、どうしたの」
急に言葉を止めたサクラにティファは詰め寄った。
「これだけは言えません。何が何でも言えません」
サクラの必至ぶりから何かあると直感を働かせる四人の少女
「これは本人に直接聞くしかなさそうね」
その時、トントンと扉がノックされた。
「僕だけど、入っていいかな?」
待ち人来る。
真っ先に飛び出したのはサクラだ。サクラはセイの声が聞こえた途端ティファから離れすぐにセイのいる扉へと向かった。
「セイ様、早く早く」
サクラは扉を開けるとすぐにセイの手を掴み中にいれようとする。
「分かったからちょっと落ち着こうね」
そんな可愛らしいサクラにセイは苦笑を浮かべながらも中に入った。サクラに連れられるがまま広いリビングまで来ると四人の少女からのジト目に気づく。
「えっと、何かな?」
「ちょっとそこに座りなさい」
「師匠これは重要なことです」
「セイさん、ちょっとお話を」
「た、ただれた関係だったりして」
じゃっかん一名、何やら不穏なことを呟いているがセイは指示通りソファに座った。するとサクラが自分の定位置とばかりにセイの膝上にのり体を預ける。
「それで何かあったの?この状態を見る感じまったりしてたと思うんだけど」
「ええ、まったりしてたわ。ただあなたに一つ確かめたいことがあって」
うんうん、と対面のソファに座る三人も頷いた。
「アリアとどういう関係?」
「……ん?」
セイには質問の意図が分からなかった。
「どういうこと?」
「とぼけないで、あなたたちの間に何かあることはサクラの証言ではっきりしてるのよ」
「えぇ」
いったい何を話したんだとセイはサクラに視線を向けるもサクラは幸せそうにホットミルクを飲むだけ
「ちょっと一から説明してくれるかい」
セイは頭を抱える。
それからティファは一から説明した。すると
「ぷ、あははは」
「笑い事じゃないわよ!」
それほどまでに面白かったのかセイは目に涙まで浮かべ、笑う。
「僕とアリア姉がただれた関係?ないないない、まずアリア姉にはライルがいるんだよ。どうしてそう言う発想にいくのか分からないよ」
「そんなの分からないじゃない。セイが、その……特殊な性癖の持ち主かもしれないじゃない」
頬をほんのり火照らせて、少しずつ声が小さくなっていく。特殊な性癖、つまり人妻好きの変態ということだ。これにはさすがのセイも言葉を失った。
「……ティファ、長年一緒にいてそう思われてたのなら、僕はちょっと悲しいよ」
「なら洗いざらい全部吐きなさい!」
「分かった。分かったから、マジックバックに手を入れないで深弓は預けてるでしょ」
恥ずかしさから暴れ出しそうになったティファを落ち着かせる。
「はぁ、これ以上勘違いされるのも困るしね。別に隠してたわけじゃないんだよ。ただ、アリア姉は、はとこなんだよ」
「え?」
意外な事実が出てきた。
「ほら、僕アリア姉って言ってたでしょ。てっきり知ってると思ってたよ」
「知らないわよ。だってあなた、アリアに冷たかったじゃない」
「冷たいって、仕方ないだろ。アリア姉、ライルがいないときは鬱陶しいくらい構ってくるんだから」
「あぁ」
ティファは当時の情景を思い出す。
ティファがセイと出会いたての頃、いつもアリアがセイを構いセイに冷たくあしらわれていた。それでもめげずに何度もセイを構い続けていた。それで最終的にはセイが転移し逃げるというのを繰り返していたのをよく思い出す。
「つまり勘違い。分かった?」
自分たちのたくましい想像力に少女たちは恥ずかしくなる。
「僕も何か飲み物頼もうかな」
「私のホットミルク飲みますか?」
「大丈夫だよ。自分で頼むから」
セイはテーブルの上に置かれている通信魔道具を取り、ホットコーヒーを頼む。
しばらく待っていると従業員が来てホットコーヒーをテーブルの上に置き、一礼すると帰っていった。その頃になると少女たちも恥ずかしさが薄まり普通にそれぞれ飲み物を口にし、心を落ち着かせる。
「そういえば、サクラがアリアに口止めされてることがあったんだけど、なんなの」
ティファは恥ずかしさを無くすために話題を変えた。
「?……あぁ、日記帳の事か」
「日記帳?」
「そうそう、僕がアリア姉の部屋で小説探してる時たまたま見つけてね。それをそのまま放置してたらアリア姉に絶対誰にもしゃべるなって口止めされたんだ」
「つまりセイが悪いって事ね」
「ちなみにどんなことが書いてあったんですか」
ご先祖様の日記帳に興味があるのかアイナが聞いてくる。
「基本的に惚気」
「あぁ」
セイの答えに全員が腑に落ちたように頷くのだった。




