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第十八話 自分の道

 魔の森でのひと騒動が終えてから三日が経った。血が足りなくなっていたゲイルも今ではそれなりに戻り動けるようになった。

 セイたちが村に戻ってきた時にはそれはもう大騒動だった。なんと村の男たちがそれぞれ武器を持ち門のところで構えていたのだ。



 何故そのようなことになっているかというとリーゼが使った神剣の白い炎が村の方まで見え何かあったのかと思った村人たちが村を守るために構えていたのだ。

 その後事情を説明しただけなのになぜかそのまま宴会になってしまった。得体のしれない魔物たちから村を守った英雄をたたえるとかそういうのだった。 



 傷ついたゲイルはというとサリナにこっぴどく叱られその後無事だったことを喜び村人たちがいるのにもかかわらずキスをしたのだ。

 その時どっと歓声が沸き上がり一部では男たちによる嫉妬の視線が向けられた。セイもその時思わず「おお」と言ってしまった。そんな両親の様子を見たリーゼはというと顔を両手で覆い恥ずかしがっていた。

 宴会は夜まで続いた。


 そして今日までに至るというわけだ。

 今、セイはリーゼと剣を交えている。


「うん。だんだん良くなってきたよ」

「まだまだ、です」


 と言ってもセイはその場から動くことなくリーゼの斬撃を全て受け止めている。


「神剣出してもいいんだよ」

「いえ、普通の剣でセイに勝ちます!」


 リーゼは、あの日以来自由に神剣フラムを顕現させることができるようになった。しかしここで神剣を出してセイに勝っても何も嬉しくない。

 その後も何度もセイへ攻撃するが全て防がれとうとうリーゼの動きが止まってしまった。


「はぁはぁ」

「お疲れ様、ちょっと休憩にしようか」

「はい」


 セイはリーゼに回復魔法をかける。

 リーゼは芝生の上に座り込む。


(だいぶ良くなってきたな。これなら僕がいったんいなくなっても大丈夫かな)


 セイは、先日の騒動の時に現れた魔物のことを調べなければならない。そのためこの村を離れてこの国の王都へ向かおうと考えていた。その話をリーゼにするにはちょうどいいだろう。


「そういえばさ―」

「リーゼはいるか」


 セイが話を切り出そうとした時、家にガイがやってきた。

 

「何か言いましたか?」

「ううん、なんでもないよ」

「そうですか」


 話すタイミングを失った。

 

「ああ、いたいた」

「どうしたんですか」

「リーゼお前に王都から客が来てるぞ」

「王都?」


 王都から来るものなどリーゼには見当がつかない。

 

「なんでも国からの使者らしい。勇者様に会いに来たんだと今教会にいるからすぐに向かってくれ」

「分かりました。あの、セイも一緒来てくれませんか」


 リーゼがセイの服の裾を掴み懇願するように言う。勇者として国の使者と会うのが不安なのだ。

 

「分かったよ。一緒に行こうか」

「ありがとうございます」


 ぱぁっと表情を明るくし顔を上げた。

 

「こりゃロイは勝てんわ」

 

 ガイは自分の息子を少し哀れに思う。

 リーゼとセイは、ガイに連れられ教会へと向かう。教会の前には白を基調にした馬車が止まっていた。ドアのところには十本の剣がかたどられた紋章がついていた。


 そして銀色の鎧を身にまとう騎士たちが四人ほど馬車の周りに待機していた。その鎧の胸元には馬車と同じく十本の剣の紋章があしらわれている。

 

(あの紋章は、ベイルダル王国の物か、それにあれは近衛騎士?こんな辺境まで近衛騎士を連れて来るってことは偽物ってわけじゃなさそうだな)


 今この村に来ている者は本物の国の使者だ。しかも最上位の権力者だろう。

 

「セイ?」

「たぶん何も心配いらないと思うよ」


 そう言って微笑みかける。セイの言葉を信じリーゼの不安は一切なくなった。

 セイたちは、教会の中へと入ろうとする。

 

「じゃあがんばれよ」

「ガイさんは入らないんですか」

「あの方と話すなんておっかなくて出来ねぇよ。もし不敬とか言われたら震えが止まらないな」


 そう言ってガイは門へと戻って行った。

 リーゼとセイは教会の中へと入っていく。そこにはオルドと金髪の美女が話していた。

 

「ああ、来ました。あちらが『勇者』リーゼとセイです」

「あなたが今代の『勇者』ね」


 金髪の美女はセイたちに近づく。美女が着ている服は簡素なワンピースに見えるがその生地は高級品だ。

 

「初めまして、私はベイルダル王国第一王女レイラ・フォン・ベイルダルです」

「え⁉王女様⁉」


 これにはリーゼは驚いたがセイはあの紋章を見た時点で予想はしていた。

 

「わ、私は、ゆ、勇者のリーゼです」

「そんなに緊張しなくてもいいのよ」


 レイラは薄く微笑むと視線をセイに移した。

 

「初めまして王女様、セイと申します」

「あら、かの英雄『魔道王』様と同じ名前なのね」


 レイラの言い方は実にしらじらしい。

 

「僕は一平民の魔法使いですよ」

「そうなんですね。セイ様」


 王女がセイのことを様付で呼ぶ。

 

(この子は政治家か)


 セイはこういうお互いに探り合いをすることが苦手なのだ。正直に聞くしかないだろう。

 

「はぁ、誰に聞いたんですか」

「エンネシア様です。それと私に敬語は不要です」


 そう言って笑顔を崩さない。

 

(あの女神、やっぱり僕がこの時代で意識を取り戻したのに気づいてたか)


 セイの頭の中にいたずらっ子のような笑みを浮かべる女神の姿が浮かび上がった。

 

「私も驚きました。まさかセイさんが魔道王様だなんて」

「オルドさんにも話したんだね」

「はい。話をスムーズに進めるためには必要だと判断しました」

「他に知ってる人は?」 

「私を入れたこの国の一部の王族とエンネシア様だけです」


 セイは少し安心した。昔の仲間たちに会えば何を言われるか分からない。

 

「それで、リーゼに何か用ですか」

「実はですね。リーゼさんにはゼノフ学院に通ってほしいのです」


 ゼノフ学院とは王都にある称号を貰った子供たちが通うために用意された学校である。通っている生徒のほとんどが貴族の子息や有名な商社の跡取りなどだ。


「私が学院にですか」 

「そうです。そこで学びを広げてもらおうと思いまして」

「…それは、リーゼを政治の道具として利用するということですか」


 セイから今までに感じたことのない怒気を感じた。微笑を浮かべていたレイラから冷や汗が流れる。

 セイが嫌う人種の一つが他人を利用し自分たちの道具にしようとする者たちだ。

 リーゼがゼノフ学院に通うということは必然的にリーゼがベイルダル王国の者として行動しなくてはならなくなってしまう。

 

「…勘違いさせたのならごめんなさい。私たちは決してリーゼさんを政治の道具にしようなどと考えていません。リーゼさんを学院に通わせようというのはエンネシア様の案なんです」


 セイは怒気を収める。

 

「そうかい。でもどうしてあいつがリーゼをわざわざ学院に通わせようとするんだい」

「なんでも勇者にはそれ相応の学びの場が必要でしょうとのことです」

 

(完全に面倒になったな)


 セイはエンネシアの考えが分かり内心呆れる。

 

「分かったよ。君の言葉を信じるよ」

「ありがとうございます」

「だけど、決めるのはリーゼだ。無理強いはしないでね」

「分かってます」


 そう言って頭を下げた。

 

「リーゼさん改めてゼノフ学院に通ってもらえませんか」

「…少し考えさせてください」


 突然の事で判断ができない。確かに学院に通った方が有意義なのかもしれないだがセイの教えの方がいいと考えてしまう。

 

「そうですか。私は、明日までこの教会にいます。決断出来たら私のところまで来てください」


 そう言ってこの話は終わった。リーゼは自分の道を考えるのだった。


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