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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第七章 神の呪いと異端の魂
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第百八十六話 壊れた弓

 夏の日差しが強くなりつつある頃、セイは家でフェンティーネと共に五人分の昼食の準備をしていた。

 

「突然押し掛けたのに私の分まで用意していただいてすいません」


 ソファに座って紅茶をいただいていたアイナが申し訳なさそうにする。まだゼノフ学院は夏休みであるためアイナは自由なのだ(と言っても王女として晩餐会などには出席している)。

 

「それくらい構わないさ。それより忙しくはないのかい」

「はい、適度に休んでますから。それに私は参加する行事が少ないので」


 アイナは色々な騒動があったため行事には参加しづらくなっているのだ。それに本人が仮面の王女として生きていかないと決めたので参加したいものだけに参加するようにしていた。

 

「ティーネ、スープはどうだい」

「順調です」


 フェンティーネは鼻歌交じりにコトコトと野菜スープを煮込んでいる。

 

「そろそろできそうだね。ティファたちを呼んでくるけど、その間頼んでもいいかい」

「任せてください」

「よろしくね」


 後の事は優秀な弟子に任せセイは外にいる二人を呼びに出る。

 玄関から出ると早速強い純白の炎光が発せられた。

 

「まだまだ」

「もっと火を集中させなさい。そうしないといつまで経っても私の防御は抜けられないわよ」


 リーゼはその手に神剣フラムを握り、白炎を薙ぐ。相対するティファは精霊たちを従え、白炎を全て防いだ。

 

「今回も私の勝ちね」


 ティファはそう言って深弓へと魔力を集める。

 その時だ。


 ピキ

 

「危ない!」

「え?」


 深弓に亀裂が入り集めた魔力が暴れ始める。このままでは魔力爆発を起こしてしまうという所でセイが直接魔力を操り集まった魔力をすべて霧散させた。

 

「ふぅ、危なかったね」


 セイは大事にならなくて安堵する。二人は稽古を止め、リーゼが持っていたフラムはこの世界から消える。

 

「大丈夫ですか」

「ええ、セイのおかげで何ともないわ。ありがとう」

「いいよ。それよりも深弓をちょっと見せて」


 ティファはセイへと深弓を渡す。深弓をよく見ると所々に亀裂が入っていた。そこから少しずつ内包されていた魔力が漏れ出している。

 

「たぶん、許容限界を超えたんだと思う。元々深弓はがたがきてたけど精霊憑依を使った時の魔力が尋常じゃなくて脆くなってたんだと思う」

「直せるの?」

「僕だけじゃ無理だね。というか、たぶん直してもまた精霊憑依を使えば深弓は壊れてしまう。構造から作り変えて神器クラスまで昇華させるしかない」


 深弓ではティファが精霊憑依を使った状態で集める膨大な量の魔力に耐えることはできない。毎回壊れてそのたびに直すのは手間だ。そこでセイが提案したのは深弓の武器としての格の昇華


 現在、深弓はこの世界に存在する武器として最高傑作と言っていいほどの出来栄えだ。しかし、それは人という規格内にいる存在にとっては、だ。ティファやセイといった規格外の存在である特異点にとってはあっていない。


 そのために必要なのは深弓を神器クラスまで核を上げること、神器とは神々が扱う武器の事でリーゼが扱う神剣は人が使うために調整された準神器クラスに分類される。

 神器クラスの武器ともなれば内包できる魔力量も大幅に上がり簡単に壊れることは絶対にありえない。

 神器を手に入れるのに一番手っ取り早いのはエンネシアに頼んで神器をもらうこと、しかし、神器はその神にとって最高の武器として存在しているため他人が扱えるものではない。


 だが、作るとなれば話は別だ。神と同等の力を持つと言っても神ならざる者が神器を作ることは基本的には不可能。必要なのは神と同等な力とそれに耐えられるだけの武器を作れる鍛冶師だ。そしてここが一番の問題、神器の下地となる武器を作れる鍛冶師だ。神器と元となる武器となるとその完成度は尋常じゃないほど高くなくてはならない。それだけの武器となると作れる鍛冶師はこの世界に一人いるかいないかのレベルだ。


「そしたらどうすればいいの」


 セイには心当たりのある鍛冶師が一人だけいた。


「まだ、ダバンって生きてるかい」

「生きてるわよ。小僧と酒を飲むまで生きてやるって、まだピンピンしてるわよ」

「流石ドワーフ、パワフルだね」

「健康の秘訣は酒だとか言ってたわ」


 思い出話に花を咲かせていると一人だけついていけない少女がいた。


「あの、そのダバンさんって誰ですか」

「ああ、ごめんね。えっとたぶんリーゼには『錬王』って言った方が分かりやすいかな」

「ドワーフの英雄の人ですね」


 『錬王』ダバンとは三百年前の魔神大戦においてセイたちと共に戦った十英雄の一人だ。ドワーフ特有のタフさで前線を押し上げていったドワーフの英雄、そして世界最高の鍛冶師と謳われる人物だ。


「そう、彼となら深弓を直せるはずなんだ」

「そうと決まれば」

「まずはお昼ご飯だね。ティーネに今見てもらってるけどそろそろできるはずだから。早く入ろう」

「……」

「どうかしたのかい」

「いいえ、別に」


 ちょっとムスッとした表情のティファにセイは首をかしげる。

 三人は家の中に戻る。


「師匠、もう準備できました」


 家の中に入るとフェンティーネとアイナがテーブルの上にできた料理を並べていた。


「ありがとうね」

「これくらい弟子として当然です」


 ふふんと高らかに胸を張るフェンティーネ

 三人はそれぞれ自分の席に着きご飯を食べ始める。


「今後の予定なんだけどね。ちょっとこれからデンディードに向かおうと思うんだ」

「デンディードってドワーフの国ですか」

「そうだよ」


 鍛冶国家デンディードはドワーフの国で小国でありながらドワーフたちの作りだす武器や家具により国家は潤い、他の国々に対しても影響力が強い。

 

「ちょっとティファの深弓が壊れちゃって食べ終わったら直しに行こうと思うんだ」

「それは大変ですね。セイさん、私もついていっていいでしょうか。一度ドワーフが作り出す家具や武器を見てみたいんです。相手の情報が分かれば今後の外交などの交渉事で役に立つと思うんです。だめでしょうか?」


 そう言って可愛らしく首をかしげる。実にあざとい。他の三人から冷めた視線が向けられる。

 

「構わないさ」

「む、なら私もついていきます」

「じゃあ私も」

「結局全員になるのよね」 

「いいじゃないか。人数が多ければその分楽しいだろう」


 セイたちは昼食を食べ終え洗い物を終えると外へ出た。

 

「さて行こうか」


 セイは暑いためローブを着ておらずシャツにズボンというシンプルな服装だ。

 四人は思い思いにセイにくっつく。ティファは軽くセイの手を握り、リーゼはシャツの裾を軽くつまむ。フェンティーネはセイの腰に抱き着き、アイナは空いている左手に自分の胸を押し付け、がっつりホールドする。

 それに対しセイは苦笑する。

 

「ティーネ、アイナ、少し離れてくれるかな暑いんだけど」

「むぅ」

「仕方ありませんね」


 二人とも不満顔だがフェンティーネはシャツをつまみ、アイナはセイの腕に自分の腕を軽く回した。

 

「そうよ。というかティーネは自分でテレポートできるでしょ」

「長距離のテレポートは魔力を使うの」

「魔力ならいっぱいあるじゃない。最近冒険者活動せずに家でダラダラしてるじゃない」

「ティファにだけは言われたくない!」

「何?やるの?」

「その喧嘩かった」

「ほらほら、喧嘩しないの」


 相変わらず仲がいいのか、悪いのか、セイは二人の喧嘩を止める。

 

「喧嘩するんだったらおいてくよ」


 それだけで二人は押し黙った。のけ者にされるのは流石に困る。

 

「それじゃあ、テレポート」


 セイたちはデンディードに向け転移した。


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