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第百七十八話 いつもの日常

 セイとリーゼは里帰りを終え自宅へと戻ってきた。

 

「セイ、定期報告って何ですか」


 それは転移する前、セイとサリナの会話で出てきた言葉だ。

 

「言葉のままの意味だよ。週一くらいでサリナさんたちに手紙を出してるんだよ」

「いつの間に……なんで教えてくれなかったんですか」

「教えたら君は止めるだろ」

「う」


 いったい何が書かれているか分からない報告を親に見せるわけにはいかない。しかしセイがそんな悪いことを書くとは思えないが、少し不安だ。セイはある意味で包み隠さず書いている気がするので何とも気恥ずかしい。

 そんなリーゼの心情を表情から察したセイはそっとリーゼの頭に手を置いた。

 

「大丈夫だよ。変なことは書いてないよ。ただちょっと君がどれだけ成長してるか、書いてるだけだから」

「それが恥ずかしいんです」

「なら今度からはティファたちにも手伝ってもらおうか」

「もっと恥ずかしくなるだけじゃないですか!」


 セイのちょっとしたからかいにリーゼは声を上げて叫んだ。

 

「ごめんごめん、だけどそれもありだと思うよ。だってサリナさんたちはこっちに来れないんだし、娘を心配する親としては正しいよ」

「うぅ、確かにそうかもしれないですけど」


 リーゼは俯き、もじもじし始める。ちょっとからかいすぎたかなとセイは苦笑した。

 

「分かったよ。なら今度からはリーゼも一緒に手紙を書いておくれ。その方がサリナさんたちもきっと喜ぶよ」

「そ、そうですね。それがいいです」


 なんという名案だとリーゼはのってきた。これならば事前に両親に送る手紙の内容を自分で確認できる。

 

「ならそうしようか」


 セイは優しく微笑むとポンポンとリーゼの頭を優しく触れると家の玄関へと向かった。

 

「……」


 残されたリーゼはぼうっとセイに触れられた頭に手を置いた。そして嬉しさからちょっとだけはにかんで見せる。

 

「リーゼ、ここは暑いから早く中に入ろう」

「あ、はい」


 リーゼは急いでセイの後についていく。

 二人は約二日ぶりのこのぬくもりのある家にほっこりした。だがすぐに違和感を覚える。

 

「気のせいでしょうか、少し寒くないですか」

「おかしいな。魔法に失敗したのかな」


 セイは魔法が途中で何らかの影響を受け温度が低くなったと考えたがその答えはすぐに分かるようになる。

 二人は疑問を抱きながらもリビングへと向かうとそこには

 

「下げたのはやっぱり君か」

「すぅ……すぅ……」


 ソファで可愛らしい寝息をたてているティファがいた。セイはすぐにティファを起こそうと近づこうとした時、リーゼはとあることに気づいた。

 

「⁉見ちゃだめです!」

「ちょ、リーゼ、急にどうしたんだい」


 突然リーゼによって目元を手で覆われる。

 

「ティファさん!早く起きてください!」

「うぅん……ふあ~………ん、おかえり」


 まだ寝ぼけているのか言葉が途切れ途切れだ。

 

「そんなこと言ってる場合じゃありません。いいから着替えてきてください!」


 そんな必死なリーゼの様子にティファは面倒くさそうにするも自分の姿を見た。今、ティファはサイズの合っていない長そでの白シャツを着ているだけだった。しかもかなり着崩しており、胸元からはその綺麗な胸が大胆にもさらけ出されており、ズボンはおろか下着すら着ていなかった。

 しかもだ。今着ているシャツはちょっとした興味でセイの部屋から勝手に拝借した物

 ティファは正面を向くと早くとかなり焦っているリーゼがいた。そしてその隣にいる人物へと視線を向けると……


「っ~~~~~!!」


 一気に顔を真っ赤にさせ自分の部屋へと戻っていった。


「ふぅ、危なかった」

「あのリーゼ、そろそろ離してくれないかな。何も見えないんだけど」


 安堵していたリーゼはばっとすぐに手を離した。


「あれ?ティファはどこに行ったの」

「ちょっと着替えに行きました」

「ふぅん」


 ちょうどセイには手前のソファが邪魔しておりティファの顔しか見えていなかったのだ。そのため何があったのか全く分からない。


「ま、いいか。リーゼ、君も荷物の整理をしておいで」

「はい」


 リーゼは荷物の整理をしに自分の部屋へと入っていった。残ったセイはキッチンへと向かい紅茶の準備をする。

 しばらくすると部屋から普段の部屋着に着替え終えたティファがおずおずと出てきた。


「……見た?」

「ん?何をだい」

「ならいいわ」


 ティファはまだ少し頬を染めながらソファへと座った。

 セイはティーセットを魔法で浮かせてテーブルの上へと置く。そしてそれぞれのティーカップへと紅茶を注いだ。


「ありがとう」


 ティファは紅茶を受け取ると一口飲む。ふぅとリラックスするように息を吐いた。


「それで、私を置いてあなたたちはどこに行ってたのかしら」

「ちょっとリーゼの里帰りにね。ねぇ」

「あ、はい」


 ちょうど荷物をしまい終え部屋から出てきたリーゼへと同意を求めた。


「なら、私に一言言ってくれればよかったのに、そのせいで一日もこの家で一人だったんだから」

「いや、それは君が仕事をためていたのが悪いんだろ」

「う、そうかもしれないけど、置手紙もなしにどこか行かないでよ」

「ごめんごめん、これお土産」


 拗ねているのか口を尖らせるティファにセイはあらかじめアンナから買っておいたお菓子をティファへとさしだした。


「こんなので、あむ、私の機嫌が、あむ、なおるとでも、あむ」


 ティファは文句を言いながらもお菓子を食べ進んでいく。


「それでティーネはどうしたのよ。一緒じゃなかったの」

「ティーネも里帰りって言ってたけどたぶん向こうの仕事を片付けてるんじゃないかな、今日帰ってくるって言ってたからそのうち帰ってくると思うよ」

「へぇ、あの子も大変ね」


 それはティファと同様にフェンティーネも国から役割を貰っている。そのため、この数か月で溜まっていた仕事があるのだろう。

 フェンティーネはティファとは違い受け持った仕事はなんとしてでも終わらせようとする性格だ。そのため多少帰りが遅くなるかもしれない。

 

「それで、君の仕事は終わったのかい」

「ええ、なんとかね」

「そう言えばティファさんの仕事って何やるんですか」

「基本的に事務的な者ばかりね。教職員たちの給料とか学院の設備の申請とか、まぁ色々ね」

「へぇ」

「何その間の抜けた返しは」

「いや、ティファさんもちゃんと仕事してたんだなって」


 あぁとセイもリーゼに同調した。確かにティファがちゃんと真面目に仕事している所を見たことが無い。実際、修学旅行についていったりしていたがほとんど遊んでいた。

 

「ふぅん、生意気言うようになったじゃない。リーゼ、表に出なさい。久しぶりに稽古つけてあげる」

「本当ですか!」

「あ、だめだわ。そう言えばこの子そう言う性格だった」

「?」


 罰として久しぶりに厳しい稽古をつけようと考えていたのだが逆にリーゼは喜んでしまい調子がくるってしまう。

 

「ほら、早くやりましょう」

「分かったからちょっと待ちなさい」

「ティファさんから言ったんですよ。なら早くしてください」


 久しぶりにティファと剣を交えられるのが楽しみすぎてリーゼはつい生意気を言ってしまう。

 

「おぉ、これもサリナさんに報告しておこう」

「何メモを取ってるのよ」


 リーゼのちょっとした成長をメモに書くセイ

 

「ちょっとした報告だから気にしないで、それよりリーゼも待ってるから早く行ってあげて」

「もう、分かってるわよ。ほらリーゼ、さっさと外に出なさい。今日は手加減抜きで相手してあげる」

「やった」


 リーゼは上機嫌に外へと出ていくとその後に続いてティファも少し笑みを浮かべながら外に出た。セイはそんな二人を見送ると昼食の準備に取り掛かるのだった。


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