第十七話 神剣の力
リーゼの目の前に白い炎を纏った一振りの剣が現れた。
その剣は神剣と呼ばれるにふさわしく白き輝きを放ち神々しい。
「神剣フラム」
リーゼは神剣を手に取る。
ファントムアサシンたちは最大限の警戒をしている。
リーゼは魔物たちへと一気に迫る。そしてそのまま二体まとめて薙ぎ払う。その瞬間纏っている白い炎が魔物を包み込み燃やし尽くす。
「これならいけるかも」
その後も魔物を切っていく。そのたびに剣から白い炎が剣の軌道に残り美しい。
「はぁはぁ」
だがまだまだファントムアサシンは残っている。
(このままじゃ、私が倒れちゃう)
いくら神剣が使えたとしても使い手本人が疲労困憊の状態なのだ。このままではリーゼが負けてしまう。
ふとセイが言っていたことを思い出した
(全力で神剣を使うことができれば一振りでレッサーウルフたちは絶命するよ。ついでに周りが焦土になるね)
神剣を振るっているが敵を白い炎で燃やすだけで周りは焦土とまではなっていない。つまり今持っている神剣フラムの力をまだ扱いきれていないということだ。
「お願い、私に力を貸して」
リーゼは、神剣を額に近づけ祈る。
すると祈りがとどいたのか神剣から凄まじい魔力が溢れた。
「ありがとう」
この一撃は耐えられないと判断した魔物たちが一斉にリーゼの命を取りに行く。だがもう遅かった。
「はぁぁ!」
神剣を一振り
その瞬間、神剣から白い炎が一直線上にあふれ出した。目の前の魔物たちを焼き尽くしさらには奥にあった木々を燃やした。
「やった」
今の攻撃をくらって生きているわけがない。しかしその考えは甘かった。
「…うそ」
白い炎が全ての魔物を飲み込んだかに見えたがまだ数体生き残りがいた。リーゼは意識を切り替え神剣を構えようとするが、倦怠感に襲われ神剣を地面に着いた。
「どうして、動かないの」
体が動かない。さらには神剣までもが消えてしまう。
それを好機と捉えた魔物たちが一斉に襲い掛かる。
「動いて」
体を動かそうとするが全く動かない。それどころか力が入らなくなり倒れそうになってしまう。
暗器のごとき爪がリーゼへと迫る。リーゼは目をつむり死を覚悟する。だがその必要はなかった。
「よく頑張ったね」
優しい声が響いた。倒れる直前に優しい声の主に抱き留められた。
「セイ」
「神剣を使って魔力欠乏になっちゃったんだね」
リーゼは神剣に自分の魔力をすべて込めてしまい魔力欠乏を起こしてしまったのだ。
「ちょっと待ってね。パーフェクトヒール」
温かい魔力に包まれリーゼの傷がすべて治る。
「魔力は元に戻らないから我慢してね」
「あの魔物たちは」
「知ってるよ。あれは魔王軍の魔物だね」
魔物を視る。
(ん?おかしいな、名前は同じなのにスキルが足りない?)
ファントムアサシンが持っているはずのスキルを目の前にいる魔物たちは持っていない。300年前セイたちが戦ったファントムアサシンたちは必ず<幻術>と呼ばれるスキルを持っていた。
(劣化している?力が足りないのか)
魔物の力が弱くなっている。
「危ない!」
魔物たちが襲い掛かる。
「大丈夫だよ。サンフレア」
ファントムアサシンたちが炎の球体に包まれる。
「歩けるかい」
「はい。それよりお父さんが!」
セイたちはゲイルの下に近寄る。
「止血はしたが傷が深いところまでは無理だ」
ゲイルの状態は芳しくない。ところどころにある傷からの血は止まっているが脇腹から流れ出る血は未だに止まらない。顔も青白くなっており危険な状態だ。
「生きていれば何とかなるよ。パーフェクトヒール」
ゲイルの傷が完全に治っていく。やがてゆっくりと目を覚ました。
「…俺は…」
「お父さん!」
リーゼはゲイルに抱き着いた。
「回復魔法で傷を治しました。だけど流した血までは戻らないのでまだあまり動かないでください」
「すまない、助かった。ありがとう」
「いえ、早く元気になってください」
ゲイルは泣きつく娘を優しくなでる。
(さて、僕は)
セイは、炎の球体へと近づく。
(もういいかな)
炎を消すとそこには灰すら残さず燃やし尽くされていた。他も同様に何も残っていなかった。
(おかしい)
そう、いくらセイの魔法の火力が高かろうとも何も残さないのはおかしい。ファントムアサシンは通常鋭くとても強固な爪を持っている。その爪は今のセイが使った炎魔法でも燃やし尽くすことは不可能なのだ。
それなのにだ。そこには何も残っていない。
(やっぱり力が足りていないのか、いやそれにしては魔物が弱すぎる。魔王の復活じゃない?別な誰かが再現しようとしてるのか?)
リーゼたちが倒した亡骸に目を向ける。そこには魔物血が水たまりのようになっておりちゃんとした魔物の死体だ。だがセイはその死体に違和感を覚えた。
セイは、死体に近づき触れてみる。
「⁉」
その死体は灰となり消えてしまった。血までもが灰となり調べようにも調べられなくなってしまう。
(証拠隠滅か。となると表立って動けないのか。魔王ならこんなこそこそ動く必要はない。まさか権力者か?『勇者』を排除しようとした?だが人側にそんなことして何かメリットがあるのか?)
実験と言う線も考えられなくはないがいきなり勇者に充てるなど馬鹿がすることだ。その考えは捨てる。つまり残された可能性としては、魔王の復活、権力者による勇者の排除、何者かによる魔王軍の復活。この三つだ。
(やっぱり確かめに行くしかないか)
いずれにしてもリーゼが標的になっているためセイがこのことを知っているであろう人物へ聞きに行くしかない。気乗りはしないがやるしかない。
セイの目的が決まった。
「お父さん、無理しちゃだめだよ」
「大丈夫だ。このくらいどうってこと、おっと」
ゲイルが倒れかけるがロイによって支えられた。
「大丈夫ですか」
「ちょっとふらついただけだ。一人で歩ける」
「おじさんは今血がほとんどないんですから無理しないでください」
ゲイルは一瞬呆けた表情をする。
「お前変わったな」
「そうですか。いつも通りですけど」
「なんかすっきりしたって感じだな」
ロイにもう黒い感情はなかった。すがすがしい気持ちだ。
「お父さん、動いちゃダメでしょ」
「血がなくなったからってなんだ。俺はまだ動ける」
「セイ、お父さんにあの氷魔法使ってくれませんか」
「構わないよ」
セイはあっさり了承した。
「おい、ちょっと待て、あんなのくらったら凍え死んじまう!」
「大丈夫ですよ。ちょっと寒いって感じるだけですから」
「お前のちょっとは絶対危ないだろ!」
「安心してください。後でちゃんと解凍しますので」
「動かないからそれだけは勘弁してください」
セイの魔法は危険だと判断しゲイルは頭を下げた。
「冗談ですよ」
ゲイルはホッと一息、しかしその後娘から予想外の言葉が飛び出た
「やってくれないんですか」
ゲイルは真面目な顔でそんなことを言うリーゼを少し恐ろしく思ってしまうのだった。




