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第百七十五話 王都土産

 日が沈みかけ夕暮れ時になる頃、村の人たちのほとんどが広場に集まり、宴会が始まった。

 男たちは酒を飲み、つまみを口に入れていく。セイもまたその輪に入りお酒を飲んでいた。

 

「まさか、セイがあの魔道王様だったとはな。新聞見た時はびっくりしたぜ」

「黙っててすいません」


 ガイからグラスに酒を注いでもらう。

 

「いや、いいって、セイにもセイの事情があったんだろ。なら仕方ない」

「そう言っていただけると助かります」

「でだ。ここからが本題なんだが、セイって実際はいくつなんだ」


 うんうん、と他の男たちも頷いた。この前聞いた時は二十二歳と答えていたのだがあれは本来の歳ではない。皆そこらへんが興味津々なのだろう。別な意味で

 

「322ですね」

「三百七歳差か、ありなのか?」

「いや長命種だと案外そのくらいの差でもいけるらしいぞ」

「なるほどな」

「えっと、何の話をしてるんですか」


 ゲイル以外の男たちがこぞって同じ話題を話し始める。全員リーゼのことを気にかけているのだ。そのためゲイルだけしかめっ面で酒を飲んでいる。

 

「将来の話だ。それよりもうひとついいか」

「はぁ」

「お前さん、いくつまで生きられるんだ」

「寿命の事ですか?ならないですよ」


 全員が驚きで目を見開いた。

 

「本当に人間か?」

「さぁ、どうでしょう」


 セイもそこらへんは定かではない。ただ魔力へと自身の体を変換できるため人間かと言われれば微妙なラインだ。

 

「なら、年下はありか?」

「さっきから何の話をしてるんですか」

「いいから答えろ」


 隣のガイの圧に負けセイは答える。

 

「子供は好きですよ」

「そう言うことじゃないんだけどな。ま、いいや、そんでこれが一番、重要だ」

「はい」


 村の男たちのすごみが増し横を通る女性たちも何やら耳を傾けている。

 

「リーゼのことをどう思ってる」

「そう言うことですか」


 セイは頭を抱え理解した。今までの質問は全てリーゼにとってセイがいい人なのかどうかを見極めるための質問だった。

 女性たちの足は止まり耳を傾けていた。質問の対象であるリーゼはというと少し離れたところで子供たちと楽しそうに遊んでいる。

 

「あぁ、ガイさん、ロイはどうなんですか?」


 リーゼと幼馴染であるロイはリーゼの事がずっと好きだ。まずはロイが優先だろうとセイは聞くも

 

「あ?ロイは無理だろ」

「息子に辛らつすぎません」


 あっさりと息子の初恋を無理と言うガイに思わず突っ込んでしまう。

 

「いや、だってな。あれ見てみろよ」


 そう言ってガイが指したのはリーゼたちが遊んでいる所から少し離れた場所で一人ぼぅっとどこか憂鬱そうに眺めるロイの姿が

 

「あいつな。おめかししてるリーゼちゃんを見てからずっとあんな調子だぜ。声をかけるどころか声をかけられても挨拶すらできなかったんだよ」

「ああ……」


 セイの脳内で何となくその状況が思い浮かんだ。今日のリーゼは村にいた頃よりも数段魅力的だ。そのためロイはこうしてただ遠くからリーゼを眺めているのだ。

 

「そんなんじゃ、いつまで経っても進展しないって言ってるんだけどな。あいつ恥ずかしがって近づくこともできやしねぇ。いわゆるヘタレってやつだ」


 ロイは女好きなアレンとは別ベクトルで哀れだ。

 

「で、どう思ってんだ」

「いい子だと思いますよ」

「……それだけか?」

「はい。言われたことをすぐに吸収しようとして、無理ならできるまで努力する。まっすぐでいい子だと思いますよ。ただちょっと抱え込みやすいところが心配ですね」

「ほぅ、よくみてるじゃぇか」


 男に娘が褒められるのは何とも言い難い複雑な気分だった。

 セイの発言は好意的だがそれが恋愛的な意味かと言われると微妙な所だろう。これ以上何を引き出そうとしてもたぶん、このまま微妙なことを言ってはぐらかされてしまう。ここで村人たちの心が一致団結した。

 リーゼを確認、まだ子供たちと遊んでいる。女性陣がリーゼたちへとご飯を持っていく。一人のおばさまが親指を立てる。いける。ガイがセイと肩を組み、顔を近づけた。


「何ですか」

「ストレートに聞こう。リーゼのこと好きか」

「あのですね。それがどういう意図で聞いてるのか分かりますけど、僕にプライベートはないんですか」

「ない」


 質問だけでなく受け答えまでもストレートだ。セイは困ったなと腕を組み、とある案を思いつく。


「あ、子供たちにもっと話をしてあげないと、ちょっと失礼しますね」


 そう言うとセイがガイの腕の中から消えていった。突然の出来事に村人たちが驚き、ご飯を食べていた子供達やリーゼまでもが驚いていた。

 セイは空いていたリーゼの向かいの席へと座る。


「うわ!……急に転移してこないでください、びっくりしました」

「ごめんね。ちょっと僕のプライベートが脅かされそうだったから逃げてきたんだよ」

「?……ああ、そういうことでしたか」


 少し時間がかかったが何があったのか大まかに理解する。そして後ろを振り向き酒盛りをしているガイたちへとにっこり

 村の屈強な男たちが小さく悲鳴を上げる。女性人たちからはたくましくなってと、にこやかに感心していた。


「ああもう、ガイさんたち何を考えてるの」

「まぁまぁ、そんなに怒らないであげておくれ。ガイさんたちも悪気があっての事じゃないからさ」

「そんなこと言ってると絶対に調子に乗ります。だからここはお灸をすえないと」

「……」

「セイ?」


 リーゼの言葉にキョトンと呆けた顔になっているセイにリーゼは首をかしげる。するとセイの表情が一層優しさを帯びた。


「いや、何でもないさ」

「そう、ですか」


 セイは一瞬リーゼと勇者たちの面影を重ねてしまった。勇者たちもこうして相手を怒るとき、同じようなことを言っていたことを思い出す。前者は自分中心だったがその実に愛しい人への優しさが含まれており、後者は相手を尊重した優しさを孕んだ怒りだった。

 リーゼの怒りもまた、セイに対する優しさによるものだ。


「そう言えば、お土産いつ渡しましょう」

「子供達の分は後でオルドさんに渡すとして。ガイさんたちには」


 セイはリーゼの先にいるガイたちへと視線を向けると、さっきまでの騒がしさはどこへやら、まるでお通夜のように静かだった。リーゼの微笑みが相当効いたらしい。


「今渡した方がよさそうだね。リーゼ行っておいで」

「やりすぎましたか?」

「うん、皆しょんぼりしてる」

「はぁ、本当皆心配性なんだから。セイ、出してください」


 やれやれと、溜息をつきながらも嬉しさが隠せない様子のリーゼにセイは異次元の扉を発動させ中からリーゼが選んだ大量のお土産を取り出しテーブルの上に並べていく。案の定子供たちは王都土産に興味を持ち、目をキラキラさせるが今出したのは子供たち用ではないためセイが話題を変え子供たちの気を引き付ける。

 その間にリーゼは次々と村人たちにお土産を配り始める。その時の村人たちの表情は皆嬉しそうにほっこりしていた。

 

「あ、そうだ。これをガイさんたちに渡してくれないかい」


 そう言って取り出したのは数本の酒瓶だった。すべてが種類の違うお酒で珍しい者から一般的によく知られている物様々だった。それをガイたちに渡すとまた酒盛りが騒がしくなり、よほど美味しかったのか瓶の取り合いまで起きている。

 

「でだ。君たちにはこれ」


 セイはもう一つ取り出す。それは家にいる時、あまりに暇で作っておいたレッドドラゴンのシチューだった。簡単に炎魔法で温め、器につけると子供たちに配っていく。

 

「美味しい⁉」

「何これ、こんなお肉食べたことないよ」


 よほど美味しいのか子供たちはスプーンを止めることなく食べ進めていく。おかわりと、次々に子供たちが器を出してくる。子供たちの食べっぷりを見ているのはとても気持ちよく、自然と笑みがこぼれる。

 

「じー」

「………どうしたんですか」


 いい匂いにつられてやってきたおっさんたちが羨ましそうに子供たちを見ている。

 

「セイ、そのうまそうなスープ俺らにもくれないか」

「お酒渡しましたよね」

「おう、そうだ。なんだあのワイン、あんなうまいの飲んだことないぞ」


 セイからもらった酒の中で全員が一番ワインが記憶に残るほどおいしかったようだ。

 

「あぁ、あれですか。あれは自家製の五十年物です」


 これもまた暇なときに作ったワインを時魔法で加速させセイが試行錯誤の末、最も美味と感じた五十年経たせた後、時を止めたものだ。

 

「自家製で五十年……」


 そんな縁のない明らかに高級なものを口にしていたと考えると言葉が出てこなかった。

 

「魔道王様、ちなみにそのワイン量産は可能ですか」 


 新しい金の匂いを嗅ぎつけたアンナがセイに詰め寄った。しかしすぐに子供たちがまたしてもお代わりを要求し、男どもも酒を要求したことで場がカオスになるのだった。


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