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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第六章 神殺しの復讐者
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第百六十話 最初からない威厳

 十英雄『創造主』は全てが謎に包まれていた存在だった。伝説ではその力を持って勇者たちと力を合わせ魔王軍の幹部を退けたと記されているがその具体的な力や容姿、種族、名前、その後どうなったのかは一切不明だった。

 そして今、目の前にいる少女が自らを創造主と名乗った。どう見てもまだ十五、六ほどの少女にしか見えない。しかも人間離れした美しさ意外に特に突出している身体的特徴が無いため人間だろう。獣人たちはもちろんの事アレンやアイナも混乱してしまう。

 だが、リーゼだけはその姿、話し方に見覚えがあった。

 

(やっぱりこの人どこかで、う~ん……………あ)


 熟考した結果、一人だけ思い当たる人物がいた。だがしかしその人物はここに居るはずもない。しかも姿が少し違う。

 

「エンネシア様?」

「え?」


 リーゼの思わず出た声が静寂の中に響き渡った。

 全員がリーゼへと視線を向けた。

 あちゃ~とフェンティーネは頭を抱えガルディウスは面白そうにエンネシアとリーゼを見た。

 エンネと名乗った英雄はリーゼの前へと近づいた。近づくことによりその美しさがより一層目立つ。そしてこの美しさもリーゼは見たことがあった。

 

「私はエンネ」

「エンネシア様ですよね」

「私はエンネ」


 頑として譲らない。自分はエンネだと貫こうとする。

 

「あ、そうですよね。あの自堕落女神様はあの空間でごろごろしてますもんね」


 リーゼが会ったあのごろごろ酒を飲んでいた女神さまと颯爽と現れてピンチを助けてくれた目の前のかっこいい少女とでは全然違う。

 うんうん、と一人納得顔のリーゼ

 これには後ろで事の成り行きを見ていたフェンティーネが吹き出しそうになる。

 

「あれがデフォルトじゃないから、あの時はたまたまだから。いつもはちゃんと仕事してるよ。ほら、ちゃんと称号渡してるでしょ。あ」


 気づいた時にはもう遅かった。

 

「やっぱり本物?」

「え~と」


 エンネの視線がゆらゆらと泳いだ。

 もはやごまかせない。その視線が物語っている。

 

「くくく、墓穴を掘ったな」


 ガルディウスが愉快そうに笑う。

 

「うっ、仕方ないでしょ。女神としての威厳を示さないといけないんだから」

「え?威厳なんてあるんですか」

「ぐほ」


 リーゼの素直な言葉が竜を殺した美少女にクリティカルヒットする。

 

「がはは、こりゃ傑作だ。使徒である勇者に遠慮なく威厳が無いと言われる女神、面白れぇ。こんなこと言ったのお前の友人だった勇者くらいだろ」

「うぅ、アーちゃんは遠慮容赦なかったから」


 涙目になりながらエンネは懐かしい友の名を口にした。

 

「ま、見ての通りだ。こいつの正体は創造神エンネシアだ。だからってあんま敬わなくても構わねぇよ。どうせ中身は自堕落な女神なんだからな」

「ガルディウス君がそれ言う⁉」


 エンネからのするどい突込みが入る。

 リーゼからしたら仕事を部下に押し付け遊ぶ一国の元首にぐうたらと白い空間でごろごろしている女神様、どっちもどっちだろう。

 それはリーゼから見た視点だが、他の人たちはポカンと呆然としてしまっている。女神とは雲の上の存在、しかも世界を創り出した創造神、それが今目の前でガルディウスと暢気なやり取りをしている。

 エンネシア教の教えと目の前の美少女を重ねる。

 

「あ、エンネシア教の教えと女神本人を重ねない方がいいよ。全然違うから。もし無理そうなら思考放棄するのが一番よ」

「ティーネちゃんまで」


 フェンティーネの言葉にエンネががっくりする。しかし実際にエンネをエンネシアだと知り何人も思考を放棄している。理想と現実の違いを思い知らされた時はこれが一番なのだろう。

 獣人たちもまた完全に思考を放棄し創造神とエンネを別物に考え始める。アイナもまた一度ダメそうな声を聴いていたためすんなりと受け入れた。アレンは、言わずもがな美人なら何でもいい。

 

「それで話を戻すがアロンテッドはどこに行った?まさかセイに会いに行ったのか」

「たぶんそれは大丈夫だと思う。ただちょっと気持ちの整理というか責任を感じちゃってて……」

「なるほどな。ま、あいつも成長してるから大丈夫だろ」

「楽観的だね」


 呆れながらもエンネはガルディウスが同胞に向ける信頼を嬉しく思う。

 

「そっちは終わったの?」

「終わったぞ。村の避難の方は……今日中には終わりそうだな」


 国中の気配を感じ取り村民の避難が順調なことを確認した。

 

「セイ君の状況は」

「今はまだ理性はあるがお前は会いに行かない方がいいな」

「そう……」


 エンネは悲しそうに目を伏せた。

 

「考えても仕方がねぇ。俺らじゃ、もうあいつを救うことは出来ないんだからな。よし、お前ら、すぐに本陣を撤収して街に戻れ、疲労が無いものは村民の受け入れを手伝え」

「は!」


 獣人たちは本陣の撤収作業へとかかった。

 

「さてと、お前ら何か吸収できたか」

「何かって言われても、ガルディウスさんがたった一振りでほとんどの敵を倒しちゃうから」

「リーゼ、お前の神剣でもあのくらいならそのうちできるようになるぞ。実際、ライルなんかはフラムであの眷属どもほどとは言わないがそのくらいの強さの魔物を燃やしまくってたからな。それにさっきエンネが使ってた剣も神剣だ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。どっちも元は私が作ったから神剣なら何でも使えるんだよ」

「へぇ、私もあの剣使ってみたいです」


 リーゼが目を輝かせながらそう言うとエンネは渋った表情をする。

 

「リーゼちゃんには無理かな」

「え」


 明らかにリーゼはしゅんとした。流石にここまで落ち込まれると思ってなかったエンネは慌てる。

 

「あわわわ、ごめんね。言い方が悪かったね。リーゼちゃんにはあの日本の神剣の適性が無いんだよ」

「適正?」

「そうそう。勇者でも神剣を使うには相性があってね。相性が悪いとその神剣を使うことができないんだよ」

「じゃあ、私は出来損ないなのかな」


 またしてもしゅんとする。

 

「そんな卑屈にならないで、ちゃんとリーゼちゃんにも六本の神剣に適性があるから」

「六本……」

「いや、六本でも充分すごいから」

「え?」

「あ、やっぱり認識の違いだったんだ。たぶんライル君を参考にしているでしょ」

「はい」


 リーゼが参考にしている勇者は十英雄の一人にしてセイの相棒たるライルだ。セイからライルは神剣を十本使い分けていたと聞いていたため最終的に十本の神剣を使えるようにすることを目標にしていた。


「ライル君は参考にするのはやめた方がいいよ。正直に言うとね。ライル君の存在は予想外だったの」


 エンネシアは当初魔王に対抗するために勇者という称号を作りだしたのだが通常、人間では神の力に順応できなかったため神剣という神の力を分割した十本の剣を生み出したのだ。

 つまり十本すべての神剣を使うことができたライルは神の力に順応できたということなのだ。これはエンネシアも予想外、人間の中でもライルは異常な力の持ち主だったのだ。


「なんて言うのかな。あの時代に生まれた子たちは異常な力の持ち主が多かったからね」

「神剣を使わずに神と渡り合う勇者とか、その勇者をサポートする魔法馬鹿の賢者とかな」


 ガルディウスがエンネを横目に見ながらそんな冗談めいたことを呟いた。


「うっうん、つまりリーゼちゃんが落ち込むことはないって事、というより誇ってもいいんだよ」


 エンネはわざとらしく咳払いをするとリーゼを励ました。


「そうですか?」

「そうそう」


 リーゼは機嫌を取り直した。


「そう言えばエンネシア様はどうしてここに」

「ああ」


 エンネは気まずそうに頬を掻きながらガルディウスを見た。その視線には本当に行ってもいいのかという疑問が宿っていた。ガルディウスは無言でうなずく。


「三人には驚かずに聞いて欲しいんだけど実はね。セイ君を止めに来たの」

「?」


 セイを止めるとはどういうことなのか三人には全く理解できなかった。


「セイを止めるって、セイは監禁されてるんですよ。あ、もしかしてセイを解放しに来たとかですか」


 リーゼは未だにセイが閉じ込められたことに理不尽な怒りを感じていた。そのためエンネシアはガルディウスの間違った行いを正しに来たのだと考えた。

 だがそんな希望はあっさり潰えることになる。


「ううん、違う。まだセイ君は外に出せない。出しちゃいけない」


 その腫れ物に触るような言い方にリーゼは怒りを覚えそうになったがエンネシアの瞳を見て考えを改めた。その表情は本心に背くかのように悲しみに満ち溢れていた。


「私たちが止めなきゃいけない。戻ってこれなくなる前に」


 女神は決意に満ちた表情で誓いを立てるのだった。


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