第十四話 リーゼ対ウルフ
リーゼがすべてのレッサーウルフを狩り終え、セイが空間魔法で狩った魔物たちを凍らせしまっている。
「?ちょうどいいかもしれないね」
「どうしましたか」
セイが何かの気配を感じ取った。
「まだ動けるかい」
「はい、まだまだ戦えます」
「なら向こうから来る魔物を倒してみようか」
セイが指した方向から現れたのはレッサーウルフよりも一回り大きな狼型の魔物だった。
「おい、あれってウルフじゃねえか」
「そうですよ」
セイは平然と答える。
リーゼにとっては初めて見る魔物だったので<鑑定>を使って視る
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種族 ウルフ
体力 C
魔力 C
筋力 C
俊敏 B
称号 なし
スキル <俊敏強化lv1>
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魔物はスキル持ちだった。
<俊敏強化>それはその名の通り俊敏の能力値を上げることができるスキルだ。
「ウルフは急に速くなるから厄介だぞ」
ゲイルもウルフとは何度か戦ったことがあるが、<俊敏強化>により急に速くなりタイミングを狂わされ、てこずらされた。
「ウルフは<俊敏強化>を持ってますからね。だけど今のリーゼなら何とかなりますよ」
「手出し無用ってことか」
「そういうことですね」
いくら娘が心配だからと言って今ここでリーゼの成長を止められるわけにはいかない。それに心配する必要はない。
「リーゼ、一つアドバイスをするとウルフは君より遅いよ」
「!はい」
リーゼの最も高い能力それは俊敏だ。それが相手より上となればこちらの物だ。
リーゼとウルフが互いを見あう。リーゼは剣をすぐに振れるように鞘から抜き正面で構える。対してウルフは低い唸り声をあげ威嚇する。
両者カウンター狙いといったところだ。
「ワォォォン!!」
「⁉」
しびれを切らしたウルフの遠吠えが始まりの合図だった。
ウルフは、リーゼへと襲い掛かる。その攻撃は何とも隙だらけでありしかも簡単に躱せるような速さだった。それをひらりと躱し反撃しようとするともうそこにはウルフの姿はなかった。
(消えた?あの速さだとそんなことできないはず…まさか)
「っ⁉」
リーゼは咄嗟に後ろを振り返り剣を振るった。すると、後ろにはウルフが宙を飛び右足を振りかぶっていた。
キン‼と甲高い金属音が森の中に響き渡った。爪と剣がぶつかり火花が散る。
ウルフは、奇襲が失敗したとみるとすぐに離れた。
両者はすぐに体勢を整え警戒を始める。
さっき、ウルフが突然いなくなったのは、初手の攻撃はリーゼを油断させるためにゆっくり動きその後<俊敏強化>を使いその場から離れたのだ。その後奇襲をしかけたのだ。
ウルフはずる賢い。そのためほとんどの攻撃が奇襲なのだ。
「大丈夫だったでしょ」
「ああ、だが初手を防いだだけだ。まだあいつの厄介さはこれからだろ」
「初手さえ気づけば後は心配ないと思いますよ」
ウルフが攻撃を再開する。今度はいきなり<俊敏強化>を使い最速の攻撃を繰り出す。リーゼはそれを剣ではじき反撃しようとするがウルフはすぐに離れた。
そう、ウルフのもう一つの厄介さは素早い動きを活かしたヒットアンドアウェイを繰り返し行うことだった。
その後もウルフによる攻撃をはじいたり受け流したりするが反撃ができず防戦一方になってしまう。
「もういいだろ。手伝いに行くぞ」
しびれを切らしたゲイルが、リーゼの手伝いに行こうとするがセイの手に阻まれる。
「もう大丈夫ですよ。感覚は掴んだと思いますし」
「は?どう見たって防戦一方だろ」
「もう終わりますよ。ほら」
セイが言うとちょうどリーゼへとウルフが爪を振り上げられていた。しかしリーゼは剣を前で構えようとしない。
(やっぱり駄目じゃないか)
ゲイルは急いで娘を助けるため大剣を握りリーゼの下へと向かおうとするがその必要はなかった。
爪がリーゼへと迫る直前、リーゼは、それを待っていたと言わんばかりに剣を上へと振り上げる。ウルフの腕は切り飛ばされ爪がとどくことはなかった。
自分の腕が無くなったことに気が付いたウルフは驚きすぐに退こうとするが時すでに遅し、リーゼは振り上げた剣をウルフへと斜めに振り下ろしたのだ。体勢が整っていないウルフは抵抗すらできずに剣を首へと受け入れてしまう。
空中に鮮血が舞う。ウルフは息絶え地面へと落ちた。
「…倒したのか」
「だから心配ないって言ったんですよ」
セイは、呆れるように言う。
「……」
ロイはリーゼとウルフの戦いを見ていた。
(俺にあんなことができるのか。リーゼは何であそこまで強くなったんだ)
「倒せました」
「うん。よく頑張ったね」
セイは駆けよってくる少女の頭を優しくなでる。リーゼの目元はとろけ気持ちよさそうにする。そんな娘の様子を複雑な思いで見るゲイル。
ロイは、あんなリーゼを見たことが無かった。剣のこと以外ほとんど興味が無く自分が話しかけても特に何も思うわけでもなくただ友人として接しているだけだった。しかし今はどうだ。自分より年上の青年に褒めてもらうために魔物を倒し嬉しそうにしている。
(セイさえいなければ)
ロイは苦虫を嚙み潰したよう表情をする。
「それじゃあ、倒したウルフを解体しようか」
「はい」
セイたちは、リーゼが倒したウルフを解体していく。するとふとある気配に気が付いた。
(この気配は…)
セイにとってこの気配は何度も感じたことがある気配だ。しかしそれは300年前の話。この時代でまた感じるとは思っていなかった。
「どうしました?」
セイの手が突然止まった。
「ちょっと向こうから変な気配がしたので確かめてきますね」
「?分かりました」
リーゼはいつもと少し違った雰囲気のセイを怪訝に思う。
セイは通りぬけざまにゲイルの耳元に近づく。
「危険な魔物の気配がします。何かあったらすぐに逃げてください」
「⁉…分かった」
「それじゃあ行ってきますね」
セイは、空間魔法を使いその場から姿を消した。
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セイが転移した先は魔の森の奥だった。
「まさかこの時代でも倒すことになるとはね」
セイの目の前には他の魔物とは違う雰囲気を醸し出していた。赤い一つ目に、茶色い巨体を持つ人型の魔物だった。セイはこの魔物を知っている。
<鑑定>を使い魔物を視る。
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種族 サンドゴーレム
体力 S
魔力 A
筋力 A
俊敏 A
称号 『魔王軍』
スキル <硬質化lv6><粒子化lv6><砂弾><再生lv3>
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サンドゴーレム、300年前魔神大戦時、猛威を振るった魔物だ。この魔物により何人ものの人が殺された。全体的に能力が高くさらにはスキルまで持っているという強力な魔物だ。
「残党か」
サンドゴーレムは一体のみ立っている。何かしらの理由で魔神大戦を生き延びここまでたどり着いたのだろう。しかしその割には能力が弱い。300年も生きていれば多少なりとも能力が上がるはずだが300年前に見たサンドゴーレムとほとんど変わらない。
(新しく作られたのか)
嫌な可能性にたどり着く。この時代にも魔物を作り出す者が現れた可能性が出てきてしまった。
そんなことを考えているとサンドゴーレムがセイに気が付いた。
「………」
「気づかれたか」
サンドゴーレムは、のそのそとセイへと近づく。
「魔王軍の残党なら遠慮する必要ないか。今の自分がどのくらいの力か試させてもらうよ」
セイは、練習用の剣を構えた。




