第十三話 魔の森へ
今日は魔の森へ魔物を狩りに行く。
リーゼとゲイルは、愛用の剣を帯剣し準備万端だ。セイは特に準備するものもないため、いつも道理の格好だ。
「そんな軽装で大丈夫なのか」
「はい、今日は前衛はしないつもりなので。たまにお手本を見せるくらいですし」
今回の目的は、リーゼに魔物との戦い方を覚えてもらうことのためそこまで必要なものはない。もし強力な魔物が現れた場合は剣ではなく魔法で対処するため装備はそこまで必要ではないのだ。
「それにもし怪我をしても僕が回復魔法をかけるんで安心してください」
「なんか俺本当に必要なくないか」
ゲイルは昨日娘に言われた通り自分が必要なのか疑問に思ってしまう。
「いえ、ゲイルさんがいた方が僕が気付かないことに気づいてくれそうですし」
「ならいいが…」
「……」
ゲイルに娘からの来ないでという眼差しが深く心に突き刺さる。
リーゼも年頃だ。しかし、いままでこんな事一度もなかったため耐性が全くない。そのせいでゲイルは傷心気味なのだ。
「さぁ行こうか」
「はい」
「ああ」
三人は、村と魔の森の間にある門へと向かう。
するとそこには守衛であるガイだけではなくロイもいた。親子で守衛をやっているのかとセイは最初にそう思ったがどうやら違うらしい。
よく見るともめているように見える。
「だから、俺を魔の森に行かせてくれって言ってんだよ!」
「お前一人で魔物を狩れるわけないだろ!」
「それくらい俺でもできる!」
「お前はまだ魔物の恐ろしさを知らないんだよ!」
完全にもめていた。
「どうしましたか」
「おう、ゲイルたちか。いやな、ロイが魔の森に行くって聞かねぇんだよ」
ロイが一人で魔の森へ行き魔物を倒しに行こうとしているのだ。それを聞いたガイがロイのことを止めて今に至るというわけだ。
「僕たちも今から行くんで一緒にどうですか」
「本当か!ゲイルとセイがいるなら安心だな。ロイお礼をいえ」
「…ありがとうございます」
ロイは少しだけ不満気だった。
「頑張ろうね」
「おう」
ロイは、リーゼに笑いかけられ少しだけ機嫌がよくなった。
(単純だな~)
そんな失礼なことを考えていると顔に出ていたのかロイに睨まれた。
「それじゃあ、行こうか」
四人は、魔の森へと入る。
「どんな魔物を倒すんですか」
「まずはレッサーウルフを倒してもらおうかな」
「そんな簡単に目当ての魔物と出会えることなんてないぞ」
魔の森は広いあげく魔物たちは決められた住処が無いのだ。
そのため目当ての魔物を見つけることが難しく。ゲイルが狩りに行く際には目当ての魔物を決めずその日であった魔物を討伐するようにしている。
「それなら心配いらないですよ。こっちです」
リーゼたちはセイの後についていく。森の奥へと進んでいくと魔物の足跡が見つかる。
「ほらいましたよ」
セイが指さした先には、レッサーウルフが7体いた。
「…お前どうやって見つけたんだよ」
「気配がしたので」
「本当に魔法使いかよ」
気配で魔物が分かる魔法使いなど常識外れもいいところだ。
「それじゃあ実戦といこうか。まず、僕がお手本を見せるからちゃんと見といてね」
「危ない!」
セイたちに気が付いたレッサーウルフが襲い掛かってきた。セイは余裕な表情を崩さない。ゲイルでさえ臨戦態勢を取った。
だがその心配は必要なかった。
「ちょっと大人しくしててね。アイスバインド」
セイはレッサーウルフを見ずに魔法を使った。するとレッサーウルフたちが一瞬で凍った。びくとも動かなくなりまるではく製のようだった。
ロイは驚き、その実力差に表情をゆがませた。
「もうそれ倒し終わってねぇか」
「倒し終わってませんよ。ちょっと凍ってもらってるだけです」
「いやもう終わりでいいだろ」
ゲイルは呆れる。このまま剣を突き立てれば簡単に倒すことができるだろう
「リーゼちょっと剣を貸してくれないかな」
「どうぞ」
「ありがとう。ちょっと離れててね」
セイは、リーゼの剣を受け取るとレッサーウルフ一体の氷を溶かした。
何が起こったか理解できていなかったが目の前の獲物をみつけ襲い掛かる。
「まずは、躱す」
セイは説明しながら身を翻しサラリとよける。
「で、首を切断するのが一番手っ取り早いからそのまま切りつける」
流れるような動きでそのまま剣を上からレッサーウルフの首目掛け振り下ろす。
レッサーウルフは首から真二つに分かれそのまま地面に倒れ伏した。
「こんな感じかな」
セイは、倒したレッサーウルフを腐らせないためもう一度凍らせ空間魔法を使いしまう。
「すごいです!」
「そんなことないよ。リーゼもこれくらいすぐにできるようになるよ」
「無理だろ」
ゲイルに否定された。
「できますよ」
「セイの言う通りレッサーウルフは倒せるかもしれねぇがお前と同じようにとはいかないな」
「私だって頑張ればできるようになるよ」
「今はどうやっても無理だろ。自分の剣を見てみろよ」
リーゼは自分の剣を見てみる。するとあることに気が付いた。
「血がついてない」
魔物を切ったのにもかかわらず剣に一切の血がついてないのがおかしいのだ。普通魔物を切ればその血が多少なりともつくのだ。
血がついていないということは血が出るよりも早く剣を振るったということだ。
「ああ、それは真似しなくていいよ。まだ教えてないからね」
「はい」
リーゼはセイとの実力の差を痛感する。剣ならすぐにでも追いつけると考えていたがその道はかなり遠い。
「それじゃあやってみようか」
セイはそう言って一匹のレッサーウルフを解放した。
リーゼを見つけすぐに襲い掛かる。セイの時とは違い噛みつこうとするのではなく右足を振るい爪でひっかこうとしてきた。
リーゼは咄嗟に躱せないと判断し剣でその詰めを受ける。その瞬間わずかに火花が散る。
「はぁ!」
すぐに押し返し、剣を横なぎに振るう。レッサーウルフは空中に投げ出される。無防備な状態だ。
この隙を逃さずお腹目掛け一突き
「キャーン」
犬のような鳴き声を上げ絶命した。
剣を引き抜き地をぬぐい取ると鞘へと納める。
「すいません。うまくいきませんでした」
「いや、よくできたよ」
「え?」
褒められるとは思ってなかったリーゼが呆けた表情をする。
「魔物との戦いの時に自分で判断できない冒険者は簡単に死んじゃうからね。咄嗟に自分で判断して切り替えたのはよかったよ」
「ああ、確かに動きが変わったな」
ゲイルから見てもリーゼの成長は著しいものだった。
「次はロイの番だね。一人で出来るかい」
「そのくらい俺にだってできる!」
馬鹿にされたと思いロイは声を荒げる。
「分かったよ。それじゃあ開放するよ。後僕の動きは真似しないでね」
レッサーウルフが解放されたのと同時にロイへと襲い掛かる。
リーゼの時と同様爪での攻撃を仕掛けてきたので同じように剣で受け止める。
(重い⁉)
リーゼが軽々とはねのけていたため軽いかと思われたその攻撃は予想以上に重かった。最初から力を込めていればよかったものの油断していたせいで跳ね返すことができない。
「この!」
均衡が崩れロイが後ろに倒れる。しかし剣を振るうことができるようになった。
そこでロイは愚かな行動に出た。そのまま剣で首を切り割こうとしたのだ。
「やった!」
剣は、レッサーウルフの首に切り込んだ。だがそこで止まる。これ以上切ることができない。
レッサーウルフは首に剣が刺さっていることなど気にせずロイへと襲い掛かる。
「だから言ったじゃないか」
セイの言葉と同時にレッサーウルフの体が吹き飛んだ。
「首を狙うには剣の鋭さ、それに自分自身の力と速さが足りないとできないんだよ。君は、力はあるけど速さが足りないから剣に勢いが乗らず首を切ることができなかったんだよ」
「っ⁉」
嫌いな相手から指摘され何とも言えない感情になる。
「立てるかい」
「…」
セイが手を差し伸べるがロイはその手をとろうとせず剣を杖代わりにして自力で立ち上がった。
(かなり嫌われてるなぁ)
セイは苦笑しすぐに表情を戻す。
「さぁ、残りも同じようにやっていこうか」
残りのレッサーウルフは全てリーゼの練習相手となった。その間ロイはリーゼの戦う姿を見ているだけだった。




