第百三十三話 神殿
セイたちは現在、ガルディウスの案内で神殿へと向かっていた。
しかし生徒たちがウキウキしているかと思えば何故か委縮していた。
「仕事はないのかい」
「ん?あるぞ」
「じゃあ、何でこっち来たんだよ」
「いいだろ別に、それよりお前らの修学旅行終わったら勝負しようぜ」
「絶対お断りだね」
セイとガルディウスが歩きながら会話している。その態度は真逆でセイは嫌そうにしながら、ガルディウスは楽しそうにしながら話している。
傍から見るとあまり良好な関係とは言えない。
「ティファさん、あの二人って仲いいんですか」
「悪くはないけど良くもないって所ね。基本的にガルディウスの一方通行だしね。止めるこっちの身にもなってほしいわ」
ガルディウスと接するセイは遠慮が無くなるためストッパー役としてティファは相当苦労しているのだ。
「だけどセイは本当に嫌がってるようには見えないんです」
リーゼから見て今のセイはそう見えた。
「セイはああ言ってるけど実際はガルディウスの事、頼りにしてるからね」
「やっぱり」
リーゼの感覚は意外と的を射ていた。
「それよりどうしてそう思ったのよ」
「え?何となく?」
「鋭いのか、鈍いのか、よく分からないわね」
そんなことを話しているとリーゼたちの目の前に他とは異なった建物が立っていた。
数本の大きな柱によって支えられ奥の部屋以外は筒抜けとなっており、すべてが純白に統一されている。まるでギリシャの神殿のようだ。
「着いたぞ」
「ここも変わらないね」
「どうせここは象徴みたいなもんだしな、改修する必要がねぇんだよ。そんなことよりこっちだ」
ガルディウスに続きセイたちは神殿の奥へと入った。そこには数人の獣人が並んで立っており主の帰りを待っていた。
そこにはセイが見たことある人物が一人
「ゼン?」
「お久しぶりです」
並んでいた人物の一人はゼンだった。ゼンはセイが冒険者ギルドに言った時に出会った冒険者だ。その時と態度は違い言葉遣いもとても丁寧だ。
「久しぶりだね。まさか君がガルディウスの部下だったなんてね。僕の実力に気づいてたのもガルディウスに聞いてたからだね」
「すいません。正体を明かさずにあんなことを言ってしまって」
「いや、構わないよ。それと僕に敬語は不要だよ」
「お、そうか、いや~俺敬語使うの苦手でさ、こっちのほうが楽なんだわ」
さっきまでの態度と一転しすぐに元の口調に戻した。巣の口調の方がいろいろと喋りやすいのだろう。
「セイは、いで⁉」
「何普通に話そうとしてるんだ」
ゼンが普通に話そうとすると横から豹の獣人に頭をはたかれた。
「馬鹿が失礼しました。私はケオ、ガルディウス様の側近をしております」
「よろしくねケオ。彼の側近は結構辛いだろ」
「ええ、毎日毎日仕事を押し付けられて大変で大変で」
わざとらしく疲れたふりをするケオ、だが実際には目の下にクマをつくっており相当疲れているのだろう。
「おいケオ、俺の修練相手になるか」
「ガルディウス様、そうなったら私は仕事を放棄しますよ」
「う、今のはなしだ」
ガルディウスもケオに仕事を放棄されるわけにはいかないため強く言うことはできない。
「さて、改めて自己紹介をしよう。俺はガルディウス、この獣連邦レインティーラの盟主をしている。お前ら子供からしたら十英雄の一人『剣神』って言った方が分かりやすいかもな」
そう言ってニカッと笑った。
「まずそれを先に言うべきじゃないかい」
セイからのジト目にびくともせず肩を竦めるのみ
「細かいことは気にすんなよ」
そう言うとガルディウスはリーゼへと近寄った。
「お前が今代の勇者だな」
「は、はい、リーゼです」
ガルディウスの大きな体が目の前に来てリーゼは少し委縮してしまう。
「ほう、ずいぶん育ってるみたいだな。教えたのはセイか?いやこの感じはティファか」
ガルディウスは見極めるようにリーゼを見る。ガルディウスが見ているのは体の筋肉、態度、そして気配の強さだ。この三つで大体の強さや癖、動きの特徴までも把握することができる。
「最初に教えてたのは僕で、最近はずっとティファが教えてるよ」
「ナフトの嬢ちゃんは教えてないんだな」
「ここでそう呼ばないで」
フェンティーネはナフト王国の王女だということは伏せている。そのためガルディウスをきつく睨む。
ガルディウスは理解の色を示す。
「ああ、そういうことか、黒魔の嬢ちゃんは教えてないんだな」
「私は魔法専門だから剣は専門外」
「ま、それが妥当か」
ガルディウスはリーゼから離れ玉座へ向かおうとした時その足が止まった。
「お前は……」
「アイナです」
ガルディウスの目に留まったのはアイナだった。正確には“アイナの目“にだが
見極めるように見るというよりその力を確認するように眺めていた。
「セイ、お前はこの状態を容認してるって考えていいんだな」
「そうだよ」
「これじゃあ、やつらに狙われるぞ」
「そこは心配しなくてもいいさ、僕がいる限り奴らは目立った行動はできない。しかも僕の関係者だ。手を出したらどうなるかくらい奴らも知ってるはずだよ」
リーゼたちには奴らが何なのか理解できなかったが、真剣に話す二人を見て脅威だということは理解できた。
ガルディウスは頭をぼりぼりと掻き納得しかねるといった様子だ。
「手は打っておくべきだと思うがな。お前がそう言うなら俺は何も言わねえよ」
「理解してくれて助かるよ」
「この話はもう終わりだ。それでこれからお前らはどこに行くんだ」
「今日はもう旅館に戻って休息よ」
生徒たちは列車での長旅に加え、セイとガルディウスの戦闘での圧を受け疲弊しきっている。休息を行うのは妥当だろう。
「そうか、なら俺も」
「ガルディウス様、あなたは仕事です」
ガルディウスがセイたちと一緒に行こうとした時、ケオに肩を掴まれた。
「言っただろセイたちがいる間は仕事しなくていいって」
「そうは言っておりません。セイ様たちを案内する時のみ抜け出すのを許しますと私は言ったんです」
「ち」
軽く舌打ちをする。しかし耳のいい獣人に聞こえないわけがなく
「今舌打ちしましたね」
「ひゅ~ひゅ~」
ガルディウスはそっぽを向き口笛を吹き始めた。
「ガルディウス様、仕事は溜まってるんです。早くやってください」
「たまには休ませろよ!」
「そう言っていつも休んでるでしょ!今日は逃がしません!」
英雄であるガルディウスに臆すことなく執務室まで引っ張っていくケオ。獣人たちはいつもの光景なのか何も言わず傍観しているだけ。
「セイ、助けてくれ!」
「仕事くらいちゃんとしなよ」
助けを求めるがあっさり見捨てられる英雄
「くそ、ケオ後で覚えてろよ」
「そういうことは仕事をしてから言ってください」
「ぐわぁぁぁぁ!」
ガルディウスは抵抗をするもケオに連れられ神殿をあとにした。
「さ、私たちも行きましょ」
「そうだね」
「二人ともガルディウス様に辛らつですね」
リーゼの突込みも虚しくセイたちは旅館へと戻るのだった




