第百三十二話 英雄vs英雄
セイと白黒の獣人が距離を取った。
「よぉ、久しぶりだな。セイ」
「僕はいつ君に取り憑かれるようになったのかな、ガルディウス」
剣を向けてきたのは『剣神』ガルディウスだった。
ガルディウスは心底楽しそうに笑っており、セイは驚きながらも少し疲れた様子を見せた。
「取り憑いたなんて失礼だな」
「実際に悪霊になって取り憑いてるだろ。僕が今ここで成仏させてあげよう」
「おい、俺は死んでねえぞ⁉ておい!人の話を聞け!」
セイはガルディウスが死んだものだと思っており間髪入れずに魔法を放ち続けている。ガルディウスは慌てて躱すがその表情から笑みは消えない。
そんな様子を遠くから見ていたリーゼは慌てる
「セイが襲われてるのに助けないんですか!」
「その必要はないわ」
「どういうことです?」
ティファはとても落ち着いておりセイとガルディウスの戦闘は予想通りとでも言っているようだ。
「あの二人がああやって争うのはいつもの事よ。気にするだけ無駄だわ。それにこれが条件だったしね」
ガルディウスとセイの戦いは仕組まれたものだった。
ゼノフ学院が獣連邦レインティーラに修学旅行をするにあたってガルディウスからとある条件を出されていた。それはセイを連れてきて自分と勝負させること
ライン広場に人が誰一人いなかったのは事前にガルディウスたちの指示でこの場所を立ち入り禁止していたのだ。それだけガルディウスはセイとの戦いを求めていた。
「あれは純粋な手合わせだと?」
「そうよ」
「ですけどさっきからなんかすごい音とか何故か肌がピリピリするんですけど」
広場には常に轟音が響き渡っていた。風が吹き荒れる音、炎が勢い良く燃える音、爆発音
もはや一種の戦争でも起きているのかというレベルだった。一部の生徒たちは目の前で繰り広げられる攻防を見て震える者もいた。
「大丈夫よ。二人とも手加減してるから」
「ねぇティファ、ガルディウスの事ちゃんと説明したの?なんかたまに浄化されそうな光が出てる気がするんだけど」
セイは時折、浄化魔法(悪霊を成仏させるための魔法)を使っている。
「まあ成仏されるわけじゃないし大丈夫でしょ」
「てきとうだな~、まいっか、えっとここに居たらちょっと危ないから少し離れようか」
フェンティーネの指示で生徒たちがこの場からすぐに離れていく。
「浄化魔法が効かない⁉」
「だからさっきから言ってるだろ、俺は生きてるんだよ!」
「浄化魔法が効かないとなればこの魔法で」
「だから話聞けよ!」
セイはいっこうにガルディウスの話を聞かず一方的に浄化魔法や攻撃魔法を繰り出し続ける。
しかしどの攻撃もガルディウスにとどく前に剣で切られてしまう。
「サンフレア、ソードサイクロン、アイスバインド」
「もう話聞かないんだな……まあいいや、お前と戦えればな!」
ガルディウスはもう諦め純粋にこの戦いを楽しむことにした。
「やっぱり君には効かないか、なら神光魔法スピリチュアルロスト」
セイが禁忌魔法である神光魔法を発動させた。この魔法は全てのものを浄化するために作られた魔法でその効果は生者にも及ぼす。
セイから神々しい光が放たれる。
しかしその光はガルディウスが剣を一振りしたことにより消えた。
「おい、くらったらシャレになんねぇだろ!」
「そういうのは当たってから言ってほしいんだけど」
「事実だからな!」
ガルディウスが瞬時に跳躍、セイへ向けて剣を振るう。その速さはリーゼたちでは全く捕らえることができず、風が巻き起こり空間が揺れるほどだった。
「テレポート」
これを読んでいたセイはその場から転移し距離を取った。しかし、そんなことされるのはガルディウスも承知していた、セイが転移したのと同時にもう一度どこともわからぬ場所へ跳躍、そして剣を振るうと甲高い音が鳴る。
「当たりだな」
ガルディウスの眼前にはセイの姿があった。
「君の気配感知は異常だね」
「はは、お前の気配の消し方もな」
「ばれてる時点で上手くはないでしょ」
「それもそうだな」
「テレポート」
セイがもう一度転移、するとまた同じようにガルディウスが跳躍し何もないところに剣を振るう。そこにセイが転移してきて剣がぶつかり合う。
その繰り返しだった。
しかし本人たちは気にしていないがその被害は尋常ではない。
ガルディウスが地を蹴る度、地面はえぐれ、セイが魔法を発動するたびに周りの魔力が荒れ、近くにある木々を吹き飛ばしていく。
段々とその被害も拡大していったその時だ・
「もう終わりにしなさい」
二人の間にティファによって放たれた一本の矢が突き刺さった。
「ち、もうおしまいかよ」
ガルディウスは舌打ちをしながらも剣を鞘へと納めた。
「それじゃあ今すぐ浄化を、痛⁉」
「あんたはガルディウスの話を聞きなさい」
セイが魔法を使おうとすると後ろからティファに『深弓』ではたかれた。
「生きてるって、獣人が300年も生きられるわけないじゃないか」
獣人の寿命は最も長くても120歳前後だ。それなのに300年前からいるガルディウスが生きているのはおかしいのだ。
「おい嬢ちゃん、セイに伝えてなかったのか」
「あんたが内緒にしとけって言ったんでしょ。あと、嬢ちゃんはやめて」
「わーたわーた、それで俺が生きてるのが不思議ってことだな」
セイは頷いた。寿命を延ばすことができるのは時魔法くらいだ。だがガルディウスはさほど魔法は得意ではない。他の人物に時魔法をかけてもらうこともできるが時魔法を使える人物はいないはず、つまりどうあがいても寿命を延ばすことは不可能だ。それがセイの結論だった。
「寿命を切った」
「は?」
セイは言葉の意味を理解できなかった。
「俺が80くらいになるころ試しに寿命っつう概念を切ったらごらんのとおり」
ガルディウスが両手を広げ自分の存在を示して見せる。
「それで寿命が無くなったってわけか」
セイはその説明で全てを理解した。
ガルディウスは自分自身に存在する“寿命という概念”そのものを切り裂いたことにより寿命が無くなったのだ。
「そういうことだ。というかお前も同じようなもんだろ」
「まあね」
セイは円環魔法の影響で体を魔力へと変換することができるようになったため寿命が無くなった。寿命があるとしたらこの世界の魔力が全て消滅することだがそんなことはあり得ない。
「はぁ、まさか君が死んでないなんてね。また面倒になる」
「おい、あからさまに嫌そうにするなよ」
セイが今まで見せたことないほど嫌そうな表情をする。心の底からガルディウスと一緒にいるのが嫌なのだろう。
「いいや、それじゃあ行くぞ」
「ちょっと待って、まさかとは思うけど君もついてくるつもり?」
「ああ、そうだが」
「よし、浄化しよう」
「お、やる気か」
セイが魔力を高め始め、ガルディウスが剣の柄を掴んだ。
「あのね、あんたたちが全力で勝負したらレインティーラが地図から消えちゃうじゃない」
聞き捨てならない言葉に生徒たちが肌を震わせた。ティファが冗談で言った言葉には見えない。
つまり英雄はそれだけの力を有しているということ、改めて生徒たちは英雄を畏怖し尊敬した。
二人はティファの言う通りに力を抑えた。
「戦闘行為はなしだ。それが一緒に行動する条件」
「修学旅行中な」
「はぁ、もうそれでいいよ」
セイは心底嫌そうにしながら納得した。
こうして修学旅行にガルディウスが加わったのだ。




