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第十二話 勇者のスキル

 あれから一週間が経った。その間リーゼはセイと剣を打ち合い<剣術>のレベルが4まで上がった。

 

「うん。そろそろいいかな」

「何がいいんですか」


 いつも通り剣を持ってセイと練習しようと思っていたリーゼはセイが剣を持っていないことに気が付いた。

 

「<剣術>のレベルも上がってきたしそろそろもう一つの勇者のスキルを教えてもいいかなって」

「本当ですか!」


 新しいスキルの使い方が分かるということでリーゼは目を輝かせる。

 

「うん。だけど<神剣>のスキルに関しては詳しいことは分からないんだよね」

「え?」

「<神剣>は勇者だけが持つ特別なスキルだからね」


 セイは、神剣を持って戦う姿しか見ていない。一度だけ使ってみたいと思いライルにお願いして貸してもらったのだがどんな魔法を使っても持つことすらできなかったのだ。

 それ故に勇者のみが神剣を操ることができると予想できた。


「そうだったんですね」

「ああ、だけど神剣の出し方なら分かるよ」

「じゃあ教えてください」

「ここじゃあ危ないから場所を移そうか」


 神剣は神が作り出した剣そのため込められている力が違う。一般人は近くにいるだけで神剣から発せられる魔力によって倒れてしまう。

 セイがリーゼに手を差し伸べる。


「掴んで」

「あ、はい」


 リーゼがそっと手をとるとセイは、しっかりと握り返す。


「はぅ」

「さぁ行こうか。テレポート」


 次の瞬間その場からセイたちの姿が消えた。

 さっきまで家にいたのに目の前に広がっているのは森の木々たち


「すごい」

「空間魔法を使ったんだ。ここなら神剣を出せるしね」


 ここは、セイが目覚めた場所だ。


「ここって魔の森ですよね。危険じゃないんですか」

「大丈夫だよ。近くには魔物はいないから」


 何故かこの場所には魔物がいないのだ。その代わり普通の動物が多くいる。ここはそんな動物たちの楽園のようなものだろう。

 動物たちは魔物にとって格好の餌なのだ。だがここは何らかの理由で魔物たちが近づかない。


「とりあえず念のため結界も張っとくね」


 ここら一帯を囲むように結界が張られる。この結界はセイのお手製で下位の魔物なら入ることができないという代物だ。


「神剣ってどうやって出すんですか」

「手を掲げて顕現せよって言ってみて」

「顕現せよ」


 何も起こらない。


(おかしいな。スキルはあるしな、何か条件があるのか)


 ライルがそういった時には神剣が数本出現した。

 

「何も起こりませんよ」

「そう言えばでてくるはずなんだけどな」


 出てこない原因がセイにはわからない。


「神剣が使えるようになるのが一番早いんだけどね」

「私いまいち、神剣の強さが分からないんですけどやっぱり強いんですか」

「う~ん、強いっていうよりなんだろうな。でたらめって言った方がいいかな。例えばそうだね、レッサーウルフが100体現れたとしよう。そして逃げることはできない。さてリーゼならどうする」


 レッサーウルフが百体、たとえ下位の魔物でも数が集まればそれだけで脅威だ。


「各個撃破します」

「普通はそうするよね。だけど全力で神剣を使うことができれば一振りでレッサーウルフたちは絶命するよ。ついでに周りが焦土になるね」

「⁉」


 剣の一振りで周りを焦土にするなどでたらめにもほどがある。


「神剣は魔剣の一種でもあるからね。だけど普通の魔剣と違うのは魔力を使わずにその力を使うことができるってところだね」


 魔剣とは、魔力を消費することにより何らかの能力を使用することができる代物だ。だがほとんどの魔剣はたいした能力を持っておらず戦いの補助を目的として使われることがほとんどだ。

 しかし、神剣は魔力を込めることなくその能力を使用することが可能だ。魔力を込めることができればその威力は一気に跳ね上がる。


「それくらいの力が神剣にはあるから使える方がいいんだ」


(最初に見た時は驚いたな)


 セイも最初に神剣の力を見た時驚いた。魔法で多少なら再現することも可能だったが神剣の方が応用力が高かった。


「さぁ、頑張ってみよう」

「分かりました」


 その後リーゼは神剣を顕現させることができるように何度も試すが失敗してしまう。


「出ないです」

「やっぱり何か条件があるのかな」


 ライルが神剣を出す姿を思い出すがやはりこれだけしか思い出せない。


(スキルの使い方くらい教えてくれたっていいじゃないか)


 心の中で神へと文句を言う。


「神剣は後回しにするしかないね」

「すいません」


 自分が不甲斐ないせいで出来ないと勘違いをしてしょんぼりしてしまう。


「気にすることないさ。全部教えなかったあいつが悪いんだから」


 リーゼを慰めながら、この場にいないが見ているだろう神に対し言葉にして文句を言う。


「神剣が使えなくても<剣術>のレベルをあげれば強くなれるからそっちをやろうか」

「はい」

「だけどしばらくの間僕との剣の練習はなしだ」

「私が神剣を出せなかったからですか!まだ私はセイに教わりたいです」


 見捨てられたと思い必死でお願いする。


「ああ、ごめんね。勘違いさせっちゃったね」


 優しく微笑みかける。


「リーゼにちゃんと剣は教えるよ。ただ僕と剣を交えることをしないって意味だよ」

「?」

「リーゼの夢は冒険者になることだろう。なら僕と剣を交えることは最適じゃないんだよ」


 冒険者は、基本的に人と戦うことがほとんどない。相手にするのは魔物ばかりなのだ。

 そのため人と剣を交えても冒険者として強くなれるかと言われると相手が規格外の存在でないとそこまでは強くなることができないのだ。


「セイだって強いです」

「僕程度の剣じゃだめなんだよ」


 確かにセイは英雄と呼ばれる規格外の存在ではあるがそれは魔法を使った場合だ。魔法なしの今のセイでは規格外とまではいかないのだ。

 実際に剣のみでの勝負ではセイがかなわない人物などかなりの数がいるのだ。そして剣を使う規格外の存在だっている。


「そうなんですか…」

「だからこれからは僕じゃなくて魔物と戦ってもらおうと思ってね」

「実戦ってことですね」

「そうだね。じゃあ早速始めようか」

「ちょっと待ってください」


 結界を解き魔物を討伐しに行こうとするがリーゼが止める。


「魔の森で魔物を勝手に狩ったらだめなんです」

「そうなの?」

「はい。というより魔の森に勝手に入ること自体がだめなんですよ」

「……やっぱりまずい」


 セイは内心焦っている。ルールを破るのは魔道王といえど、さすがにまずい。

 

「はい。ですから急いで戻った方がいいですね」

「急ごう」


 即決だった。

 セイは空間魔法を使いリーゼの家へと転移する。

 

「のわ⁉」

 

 転移した先ではゲイルが愛用の大剣を磨いていた。焦りすぎて転移先のことを考えてなかった。

 突然目の前に現れたセイたちに驚いた。

 

「お父さんただいま」

「寿命が縮まったぞ!」

「すいません」

「お父さん、明日魔物を討伐しに行きたいんだけどいいかな」

「一人でか」

「ううん、セイも一緒だよ」

「はい、リーゼに魔物との戦闘を覚えてもらいたくて」


 ゲイルは少し考える。

 

「行っても構わんが、俺もついてくからな」

「セイがいればお父さんは必要ないと思うよ」

「…そんなこと言わないでくれよ」


 娘から必要ないと言われ心が傷つく。

 

「ゲイルさんがいた方が分からないことがあればすぐに聞けるしそっちの方がいいと思うよ」

「…セイがそういうなら」


 リーゼはセイと二人っきりで行けることを楽しみにしていた。

 しかし実際のところ魔の森に詳しくない二人で行くと何かあったときに対応できない。そのためゲイルはいた方がいいのだ。


「それじゃあ、明日はよろしくお願いします」


 セイはこのまま何事もなく家へと入れると思ったが


「おうよ。だがお前ら突然出てきたけどどこ行ってたんだ」

「えっと、すぐそこに」

「ちょっと待て、ふんふん」


 ゲイルはセイに近づき匂いを嗅ぐ。


「なんで森の匂いがするんだ」


 ゲイルの嗅覚はすごかった。


「すいません。許可なく魔の森に入りました」

「はぁ、まじかよ。お前の実力なら不安はないが今度からはちゃんと俺たちに伝えろよ」

「はい。以後気を付けます」


 セイは、反省しながら家の中へと戻るのだった。


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