第十一話 嫌われた魔道王
お昼を食べ終えたセイとリーゼは村人たちの鑑定を行っていた。
「頭がぐわんぐわんします……」
「仕方ないよ。もう百人くらい鑑定してるんだから」
「もっと楽だと思ってた」
リーゼは軽い頭痛に襲われていた。
最初は「簡単です。早くやりましょう」と意気込んでいたが10人目くらいから鑑定を使うたびに頭痛に襲われるようになった。そのたびに気休め程度にセイに回復魔法をかけてもらっている。
<鑑定>は、使うと脳に負荷がかかるため慣れていないと頭痛が発生する。
「だけどレベルは上がっているよ」
リーゼの鑑定のレベルは百人鑑定した時点でlv2になっていた。
「それでも剣を振ってる時より辛いんです」
「慣れるまで頑張ろうね」
「セイもこんな感じなんですか」
「最初のころはそうだったね。だけど今はもう痛みは感じないよ」
「なら頑張ります」
やる気を出し次々に村人たちを鑑定していく。残り鑑定していないのは一人となった。
「後は、ロイだけです」
「そういえばリーゼはロイのことどう思ってるんだい」
「いい友人です」
即答だった。
「……他に何かないのかな」
「うん?友人ですけど」
「…そうかい」
セイはロイのことを気の毒だと思った。リーゼの意中の相手が自分だとは知らずに。
「あ、ロイ~」
「リーゼ…か…」
ロイは満面の笑みで振り返ったが、隣にいるセイを見た瞬間不機嫌になる。
(ああ、僕邪魔だよね)
セイは苦笑いをする。
「ちょっと鑑定させてくれない」
「鑑定?何だか知らないけどいいぞ」
「ありがとう」
リーゼはロイのことをじっとみつめ能力を視る。
~~~~~
ロイ 15歳
種族 人間
体力 C
魔力 D
筋力 B
俊敏 C
称号 『戦士』
スキル <剣術lv2>
~~~~~~
セイたちが強いだけであり普通はこの程度の能力値なのだ。
見つめられているロイの頬が少しだけ赤くなっている。
「これで終わりだね」
「はい。それじゃあ早く戻って続きしましょう!」
リーゼはこの苦行から解放され、やっと自分の好きなことができると思い目を輝かせているのに対しロイの機嫌が明らかに悪い。
「リーゼ、セイは強いのか」
「うん。それはもちろん、むぐ」
セイは急いでリーゼの口をふさぐ。
「僕が魔道王ってことは内緒だよ」
「あ、ごめんなさい」
二人はロイに聞こえないように小声で会話する。その様子をロイは怪訝そうに見る。
「まぁ、いい。セイ俺と勝負しろ」
気に食わないセイを倒そうと考える。
「いいよ」
「魔法はなしだ。いいな」
「うん構わないよ」
ロイは、口角を少し上げた。ガイからセイが魔法使いだと聞いているそのため剣だけなら自分にも勝機があると思っているのだ。それが浅はかな考えとは知らずに
セイとロイは練習用の剣を構える。
「いくぞ!」
「うん。どうぞ」
セイが余裕そうなのがむかつき顔を歪める。
ロイが剣を斜めに振るう。その太刀筋は確実に首を狙ってきている。
(リーゼより遅いね)
しかし、セイにとってロイの剣速があまりにも遅いため簡単に予測できてしまう。なので
「はいおしまい」
「は?」
さっきの余裕がハッタリでないことに気づく頃にはもう遅かった。
セイの剣がロイの首に突き付けられていた。さらにはロイが持っていたはずの剣が宙を舞っている。
あの短時間の間に二回、剣を振るった。初手で剣を飛ばし、そこから流れるように剣を首に突き付けたのだ。それは勝負とすらいえない一方的なものだった。
「な⁉」
「見えなかった」
能力が上がったのにもかかわらず一切その動きを捉えることができなかった。
「僕の勝ちだね」
剣を別空間へと戻す。
「お前魔法使いじゃなかったのか」
「僕は、魔法使いさ」
「魔法使いがこんなに剣を使えるわけないだろ!」
ロイの言う通りだ。ここまで剣が使える魔法使いなんて今の時代ほとんどいない。もう魔王軍の脅威がなくなったのだから仕方ないだろう
「そういわれてもね。僕は実際に魔法の方が得意だしさ」
「そうだよ。セイは、魔法使いなんだよ」
「ちっ、分かったよ」
リーゼに言われ不機嫌ながらも納得する。
(完全に嫌われた)
ロイのセイを見る目が完全に敵を見る目になっている。
「俺はもう帰るからな」
「ちょっと待って」
「あ、なんだよ」
少年の機嫌がますます悪くなる。
「ちょっとリーゼの練習相手になってくれないかな」
「…どういう意味だよ」
「言葉のまんまさ、今の僕じゃいい練習相手に慣れないからね」
これはセイの本音だった。セイだと圧倒的に強すぎるためまともな戦いにならない。だがロイならば能力は劣っているが全力の勝負ができるという考えだった。
「いいぞ」
機嫌が少し良くなった。
「よかった。じゃあ早速やろうかリーゼも動きたがっていただろ」
「…分かりました」
今度はリーゼがやや不機嫌になっていた。
二人は剣を構える。その後日が落ちるまでに二人に回復魔法をかけながら勝負をさせ続けた。だいたいはロイが劣勢になるのだが時折見せるリーゼのミスにより負けることが何度かあった。
「そこまでだ。二人ともよく頑張ったね」
「…このくらいどうってことない」
「…」
新しい課題を見つけ有意義な時間を過ごせた思ったセイだったがリーゼはいまだに不機嫌だ。
「もう暗くなったから帰ろうか」
「じゃあねロイ」
「ああ」
ロイは自分の家へと帰っていく。
二人っきりになるが一言も発さない。
(もしかして怒ってるのかな)
怒られるようなことをした記憶はないがリーゼがわずかに頬を膨らませていた。私怒ってますよ感がすごい。
「怒ってる?」
「どうして、ロイと勝負させたんですか」
「あの子とならいい勝負になると思ってね」
「それはありがたいですけど私は…」
その先を言うのが恥ずかしくなってそこで止まってしまう。
「?」
セイがきょとんとした表情でリーゼの事を見る。
「私は、セイと剣を振るいたかったんです」
そういうと顔を背けてしまった。
「そうだったんだ。ごめんね。だけど君が強くなるにはあれが一番効率がいいんだよ」
「分かってますけど…」
リーゼは、落ち込んでしまう。
(あの子に似てるな)
自分の弟子のことを思い出す。その子もこうしてセイと修行できなくて落ち込むことがあった。それを思い出しついリーゼの頭を優しく撫でる。
「⁉」
「強くなるのが少し遅れるけど、それでもいいんだったら僕がずっと教えるよ」
(今ずっとって言った⁉)
リーゼの心の中は動揺と歓喜がはしった。
「本当ですか!」
「ああ、君がいいんだったらね」
「はい。お願いします」
リーゼは満面の笑みだった。その後、頬を抑え「ずっと、ずっと」と呟き始める。
(あれ?まさかね)
セイはその考えをすぐに捨てる。
セイは、決して鈍いわけではないのだ。だがまだ出会ってからあまり日が経ってなくそんなことはないだろうと思い込んでいるのだ。
「さぁ、早く帰りましょう」
リーゼは足取り軽く家へと戻るのだった。




