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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第百十六話 恐怖に魅了されし者

 ティファたちは精霊の淡い光に照らされながら暗い森の中を進んでいた。

 時刻はもう夜、里からそれなりに遠い場所にやってきた。段々と奥から禍々しい魔力の気配がしてくる。

 精霊たちは気分が悪いのか元気がなくなり光が少し暗くなる。

 

「大丈夫?」

「たぶんこの魔力のせいだね。私だって流石にこの魔力を直に浴びればキツイ」


 大精霊でもこの魔力はキツイため普通の精霊たちが耐えられるわけもない。

 

「どうしよう。皆にはここで離れてもらった方がいいのかな」


 ティファが精霊たちを心配しそんなことを言うと、精霊たちはより一層光を強めまだやれると意地を見せる。

 

「ティファちゃんはやっぱり精霊にかなり好かれてるね」

「そうかな?」

「そうだよ。じゃないと皆こうして危ないところにはついてこないよ」

「ふぅん、よく分からないけど、ありがとう」


 ティファにはこの禍々しい魔力の危険性が分からない。実際、この魔力はエルフであるティファにはただちょっと不気味な魔力と思うくらいなのだ。

 

「む」


 ウンディーネが唐突に立ち止まった。

 

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」


 ウンディーネは首を振り何事もなかったように歩みを進める。しかしその視線だけは遠く離れた森の奥を睨みつけていた。

 


~~~~~~~


 ウンディーネが睨みつけた先、そこでは木の上に座り二人を観察していた妖艶な美女がいた。

 

「へぇ、この距離に気づくんだ」


 そう関心の声を漏らしたのはこの状況の元凶、大悪魔アスモデスだ。

 アスモデスはこの場所でティファとディンフィーがどのような結末を辿るのか見ようとしていたのだ。

 

「当然でしょ。あなたは私たちを舐めすぎなのよ」

「あら?ばれてたのかしら」


 そうわざとらしく驚いたふりをしながらアスモデスは後ろを振り向いた。

 アスモデスの後ろにいたのは膨大な自然の魔力をその身に纏った大精霊、シルフだ。地上には大地の大精霊であるノームまでもがいた。

 

「しらじらしい、最初から気づいてたでしょ。そうじゃなかったらこんな奴らをよこすはずがない」


 シルフが後ろを指さした。

 そこには無造作に転がり息絶えている数体の悪魔がいた。この悪魔たちは全てアスモデスの部下でそれなりの実力があった。

 

(あの子たちを倒しちゃうだなんて、少し精霊の力を見誤ってたかしら)


 焦る様子もなくアスモデスは冷静に状況を分析する。

 

「ま、仕方ないか。それじゃあ私は戻るわ」

「私たちのテリトリーに入っといて逃げられるとでも思ってるの」

「………排除」


 シルフとノームから膨大な魔力が溢れだす。森がざわめき自然の魔力を操る大精霊二体の圧倒的魔力により空間がきしみだす。

 この魔力にはさすがのアスモデスも余裕がなくなってしまう。

 

「これは流石にまずいかも」

「天牢」

「……地牢」


 天から滝のように風が凄まじい勢いで落ち、大地からは頑丈な岩が三人を取り囲むように突き上がってきた。

 風は大地から飛び出してきた岩を砕き、その残骸を巻き上げる。三人を取り囲むのは砂嵐となった。

 

「複合魔法の結界、魔力遮断に外部との物理的遮断、逃がしてくれるつもりはないと」

「言ったはず、ここは私たちのテリトリー」

「………岩落」


 話す間もなくアスモデスの上空から巨大な岩石が落ちてきた。アスモデスは難なくそれを躱すが目の前にはシルフ

 

「鎌いたち」


 アスモデスの目の前でつむじ風が発生しアスモデスに迫る。アスモデスは咄嗟に翼を羽ばたかせ上空へと上がり回避する。しかしシルフの放ったつむじ風はその余波だけでアスモデスの右足傷つけた。

 アスモデスの傷はすぐに治ったが傷つけられたという結果は残る。彼女は上空から二体の大精霊を見下ろす。どちらも確実に命を狙いに来ている。

 その濃密な殺気がアスモデスを射抜く。

 アスモデスの体が震える。

 

(なんで震えてるの?まさかこいつらに私が怯えてるというの……)


 それに気づいた時、アスモデスの心を恐怖が支配する。

 

「………あは」

「⁉」


 二体の大精霊に不気味な悪寒がはしり咄嗟にアスモデスとの距離を取った。

 アスモデスは頬を薄く染め三日月のような弧を描き不敵な笑みを浮かべる。

 

「舞え」


 漆黒の炎がアスモデスの周りを舞い始める。

 

「ふふ、ヘルフレイム!」


 本物の冥界の炎が二体の大精霊へと襲い掛かった。

 

「っ、ノーム!」

「……了」


 ノームは拳を地面にたたきつけた。すると地面から巨大な岩石が二人の前へと飛び出し、漆黒の炎を受け止める。

 

「なんて攻撃をしてくるの」

「……危険」


 壁の役割をしていた岩石は半分以上が溶け原形をとどめていなかった。

 

「こんな感覚久しぶりよ。冥界で百年前、あの変わり者から味わったぶりかしら。くふ、今思い出すだけで体が震えるわ」


 アスモデスは体を恐怖で震わせながら恍惚とした笑みを浮かべる。それがまた歪で大精霊たちの悪寒を煽り立てる。

 悪魔であるアスモデスは冥界に住んでいる。冥界では毎日のように熾烈な争いが行われている。悪魔は力こそが全て、力が無ければどれだけ権力を持っていようと意味が無い。そんな冥界で大悪魔として支配する立場にあるアスモデスも当然、同格である大悪魔たちと争っている。同格であるため決着がつかず引き分けで終わることが多いのだが一度だけ大敗を喫した時があった。

 その時に味わった恐怖と屈辱、そして憎悪

普通なら忌み嫌う感情しかし、アスモデスは何を思ったのかそれらの感情に魅了されてしまったのだ。

 それからというもの他人の憎悪、自分の恐怖、そんな醜悪な感情がアスモデスにとって最も甘美なものになった。


「やっぱりいい、もっと私に感じさせて、この恐怖を、変わり者みたいな圧倒的な力を!」


 アスモデスから禍々しい魔力の奔流が溢れだし、結界に綻びを生ませる。


「狂った悪魔め」


 シルフは悪態を吐くが結界を維持しなくてはならないため攻撃することができない。


「ほら、早く、早く攻撃してきて、私にもっと恐怖を感じさせて」


 アスモデスの周りにまたしても漆黒の炎が舞い始める。


「ノーム、私が結界を維持する。だからこの狂った悪魔の相手はお願い」

「……了」


 ノームが前に出てアスモデスを睨み据える。


「あなたが相手?」

「……是……排除」

「あは」


 ノームの周りの地面から先の尖った岩がアスモデスに向けて飛び出す。それに合わせてアスモデスも漆黒の炎をぶつけ相殺すると残骸が煙となり一瞬で辺り一帯を包み込む。


「……………守」

「強いね」


 ノームが岩の壁を出した奥にはアスモデスが拳を振るっていた。


「……功」


 アスモデスの足下から岩が飛び出す。判断が遅れ岩はアスモデスの腕を貫いた。


「やっぱりいい、燃やせ!」


 こんなことで怯むはずが無く傷ついた腕を気にした様子もなくノームへと漆黒の炎を浴びせる。


「……損傷」


 ノームの体を漆黒の炎が蝕んでいく。


「あは、これで終わり」


 ノームの目の前にアスモデスの伸びた漆黒の爪が

 躱せない、そう判断した時突風が吹きノームを横へと飛ばし、アスモデスの爪が空を切った。


「後は任せて」


 シルフだ。

 シルフは風を従えアスモデスを吹き飛ばす。


「これで決める」

「必殺技?楽しみね」


 アスモデスはまたしても歪んだ笑みを浮かべる。


「気味が悪いから消えなさい。天嵐」


 嵐のように強烈な風が巻き起こりアスモデスを飲み込む。


「いい、いい、いいわ!だけどまだ足りない。だからもっと、っ⁉」


 アスモデスが天嵐から抜け出そうとするが上手く動くことができない。


「驚いてるようね」

「何をした!」


 アスモデスが鬼の形相でシルフを睨みつける。


「そっちの方が悪魔らしくていいじゃない。その風は私の魔力をふんだんにこめた魔法、悪魔のあなたにはよく効くでしょ」


 シルフは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「この、キャァァァァァァ!!!」


 アスモデスの断末魔が響き渡りその美貌の姿は黒き魔力となり消えていった。


「何とか勝てたわね」

「……疲労」


 二体の大精霊は相当疲弊しきっていた。

 何とかアスモデスを退けたことにより残る問題はディンフィーのみとなった。二人は後の事はティファに任せ疲れを取るためひと眠りするのだった。



~~~~


 悪魔の世界、冥界

 そこでとある悪魔が退屈そうに水晶のような球体を眺めていた。

 

「はぁ、自分の目で見たかったな」


 悪魔のその姿はとてもさまになっており、ほとんどの者がその姿に魅了されてしまうだろう。

 

「ま、いっかこれがあれば全部見れるし」


 美貌の悪魔はそう言って魔法で作りだした水晶のような球体を机の上で転がした。

 

「ふふ、さぁどうなるかな」


 アスモデスは不気味に微笑むのだった。


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