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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第百十二話 最後の銀光

 白霊から解き放たれた闇が空を覆いつくす。

 いや、空を覆いつくすほどの巨大な闇の刀身といった方が正しいだろう。

 これが振り下ろされればたとえアスモデスの結界があろうとも容易に貫通し里に壊滅的な被害をもたらすだろう。

 そんな事させるわけにはいかないスラは考える。

 

(どうする?あんな魔力を暴走させた白霊を受け止めきれるのか、いやそれ以前に今の私にあいつを殺せるのか)


 スラは剣を握る手に自然と力が入る。

 傑物と呼ばれたスラでも老いには勝てない。実際、十年ほど前から体が動かしにくくなっておりディンフィーとの戦いでもだいぶ無理をして体を動かしたのだ。そのためスラの体にはかなりの疲労が溜まっていた。

 しかも現在のスラはディンフィーの戦闘から全盛期の十分の一ほどの力しか出せないことを分かっていた。


 それに比べて目の前にいるディンフィーはもはやエルフではなく悪魔の力をその身に纏っている。

 スラは頭をフル回転させこの場を脱する方法を考える。

 しかしディンフィーがそんなに甘いはずもない。無慈悲にもディンフィーは漆黒の巨大な刃を振り下ろした。

 

「⁉」


 闇がゆっくりと迫る。

 権力者たちは死を悟り諦め、ランティは敵わないと分かっていながら剣を取る。

 スラは考え続ける

 

「お婆ちゃん、もういいよ」


 そんな時ティファのか細い声が聞こえた。

 スラが後ろを振り返るとそこには、不安を抱えながらも心配するようにスラを見つめるティファの姿が

 

「これ以上、戦ったらお婆ちゃんが死んじゃうよ」

「⁉……ふ、聡い子だね」


 ティファの言っていることは的を射ていた。

 実際、スラの体は今にも崩壊してしまいそうなほどの悲鳴を上げていてこの攻撃を防いだとしても生きていられる保証はない。命を大事にするならばここは逃げを選ぶのが得策だ。スラならば逃げることは可能だ。

 しかしそんなつもりスラには毛頭なかった。

 ティファの気持ちが伝わってくる。その気持ちがスラに活力を与えていく。

 

「かわいい孫にそんな顔されちゃ老いぼれが頑張らないわけにはいかないだろ」


 スラは覚悟を決めた。

 たとえこの場で死のうとも必ず後ろにいるティファたちだけは守ろうと

 

「最後だ。お前にも名前を付けてやろう。だが名無しは名無しで良かった気もするからな……無銘、それがお前の銘だ」


 スラは最後に自分の愛剣へ名前を付ける。

 

「さぁ、最後の仕事だ。やろうじゃないか無銘!」


 スラの叫びに呼応するかのように無銘が銀色の輝きを放ち始める。

 スラは無銘を掲げる。

 巨大な闇がスラたちへ迫るがスラは不敵な笑みを浮かべるだけで一歩も動かない。

 やがて闇がスラたちの目前に迫ったとき


——アブソーブマナ


 無銘の銀色の輝きが広がり巨大な闇を受け止めた。

 受け止めることはできたが巨大な闇は消えることなく今もじりじりと銀色の光をじりじりと押していく。


「悪あがきですか、でもそれもいいでしょ」

「何勝った気でいるんだ、小僧」

「は?」


 スラの余裕の表情は崩れない。

 

「最後に見せてやる。この無銘の真の力を」

「何を言って⁉」


 ディンフィーは自ら振るった刃の異変に気が付いた。

 

「なんで魔力が離れてるんだ」


 支配していたはずの魔力が知らないうちに徐々に制御下から離れていた。

 すぐにもう一度魔力を支配するが意味をなさず制御ができない。そしてディンフィーはとある可能性にたどり着く。

 

「……まさか魔力の吸収」

「やっと気づいたかい」


 無銘の能力、その一つは魔力の吸収

 

「く、だがこれだけの魔力をそんなただの魔剣で受け止めきれるはずはない」


 ディンフィーが苦し紛れにそう言うがその言葉は的を射ていた。実際ミスリルなどの魔力との親和性の高い素材を使おうとも許容上限は必ず存在する。

 しかしそれは無銘がただの魔剣だった場合に限る。

 

「誰がただの魔剣って言った」

「どういうことです」

「無銘はな。私がウンディーネに勝って作ってもらった魔剣で、白霊と同様、精霊たちに作ってもらったこの世でたったひと振りの特殊な魔剣だ」


 無銘はスラが千年前、白霊を使えないと知ったときに自分だけの剣を求め作ってもらった魔剣だ。そのため秘めている力は白霊と同等、もしくはそれ以上の可能性を秘めている。

 

「ま、あんたの言ってることは当たってるさ。無銘だって無限に魔力を吸収できるわけじゃない」

「負け惜しみですか」

「そう思うなら勝手に思ってな」


 無銘は今もなお邪悪な魔力を吸収し続け自身の銀色の光へと変えていく。


 ピキッ


 限界が迫ってきたのか無銘にひびがはいる。

 

「もう終わりのようですね」


 ディンフィーは勝利を確信し白霊を押し込む力を強める。銀色の光に触れる闇の面積が多くなり一気に吸収するスピードが加速する。ディンフィーはこのまま許容上限まで魔力を吸収させ無銘を破壊するつもりだ。

 しかしこれがディンフィーにとってあだとなる。

 

「感謝するよ」

「ついに状況も把握できなくなりましたか。今はスラさんがピンチなんですよ」

「あぁ、そうさ。つまりは私の思惑通りということだ」


 スラは無銘の魔力吸収スピードを一気に跳ね上げた。

 

「血迷いましたか」


 ピキピキッと次々に無銘の刀身にひびがはいる。もうあと少しで無銘は壊れてしまう。スラもそれは百も承知、無策にもこんな無謀なことはしない。

 

「吸収できなきゃ纏わせればいい」


 スラはその絶技ともいえる魔力操作で吸収した魔力を自身の体に纏わせていく。

 

「やめて!」


 それを見たティファがスラを止めようと前へ出る。

 魔力を体に纏わせるということはそれだけで体に負荷をかける。それをこれだけ膨大な量を纏うとなると体への負荷は馬鹿にならないだろう

 

「来るんじゃないよ!」

「っ」


 スラに初めて怒鳴られティファは足を止めてしまう。

 

「言ったはずだ。これが私の最後の仕事だって、それに孫を守って死ねるんだ本望ってもんだよ」


 スラは優しい笑みをティファに見せるとすぐにディンフィーへと向き直った。

 

「さぁ、踏ん張り時だ無銘!」


 銀色の輝きが凄まじい勢いで広がっていき巨大な闇を覆いつくす。

 するとみるみるうちに闇は全て銀色の輝きへと変わっていきスラの体にまとわり始める。

 防ぎ切った。

 エルフたちは安堵の声を漏らす。

 

「さすがに、キツイね」


 スラは表情を歪ませる。今にも魔力圧で内臓や骨が潰れそうになるのを持ち前の頑丈さで何とかこらえてる状況だった。

 

「やはりあなたは素晴らしい。ですがもうここまでのようですね」

「まだ死なないよ」

「そうですね。だけどあなたはもう満身創痍、俺に反撃する手段はない。俺の勝ちだ」


 ディンフィーの言葉にまたしてもエルフたちから希望が失われていく。

 

「いや、あんたは一つ見誤ってるよ」

「俺が?それはないですよ。しいて言うならスラさんの頑丈さですかね」


 ディンフィーが煽るようにそんなことを言った。

 

「いつ私が無銘の能力がこれだけって言った」


 スラは狙いを定めるように今にも崩れそうな無銘の切っ先をディンフィーへと向けた。

 

「私が何のために魔力を集めたと思う」


 スラは未だに尋常じゃない銀色の魔力を身に纏っている。

 この魔力は霧散せずにずっと周りへと圧を放っている。

 

「集めた?防いだの間違いでは……⁉」


 ディンフィーはスラの狙いと無銘の能力に気づきすぐに白霊へと魔力を集める。

 

「もう遅い」


 無銘の能力は魔力の吸収し己の魔力へと変換、そして放出

 スラの狙いはこのため込んだ尋常でない魔力を放出することにあった。

 銀色の魔力が無銘の切っ先へと集中していく。

 

「これが生涯最後の一撃」


 それはスラの想いのこもった一撃、生涯最後にして最高の一撃

 

「裁きを受けろ」


————銀の断罪


 悪魔を断罪する銀色の光が叫ぶ暇すら与えずにディンフィーを飲み込んだ。


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