第十話 勇者の面影
少女の目の前にいる存在は魔神大戦時の英雄『魔道王』セイだった。
「魔道王様は300年前に死んだはずじゃ」
セイは、歴史的には300年前病気で死んだとされている。それはセイ自身が望んだことでありティファたちがそれを叶えてくれたということだ。
(申し訳ないことしたな)
誰にも相談せず独断で行ってしまったことを少しだけ悔いる。
「訳あって300年前に魔法で姿を消したんだ」
本当の事は話さない。
「本物、ですか」
「そうさ。鑑定で見ただろ。僕でもさすがに鑑定結果の改ざんはできないんだよ」
リーゼは、未だに理解が追いついていない。自分が『勇者』に選ばれたことも信じられなかったが目の前にいる青年が『魔道王』だなんていきなり言われても混乱するだけだ。
「まぁ、まだ信じなくてもいいよ。信じられるようになったらそうすればいいさ」
「いえ、信じます」
さっきまで混乱していた少女があっさり納得してしまいセイは、ちょっと驚く。
「どうしてだい」
「セイが、悪い人に見えないからです」
「……ぷっ、あはは、ははは」
セイはいきなり声を噴いて笑い出した。
「な、なんで笑うんですか」
リーゼは、顔を赤くしながら文句を言う。
「はは、はぁ、ごめんごめん、ついね。リーゼがあいつと重なっちゃって」
セイは、笑った時に出た涙をふく。
(まさかライルと同じことを言うとは思わなかったよ。勇者ってそういうものなのかな)
新しい勇者の共通点を見つけた。それは自分の直感を信じるということだ。
「あいつ?」
「僕の親友であり恩人『勇者』ライル・フォン・ベイルダル。彼とリーゼは少し似てるよ」
セイは、どこか寂しげな表情でそう言った。
「じゃあ、最終確認だ。勇者の力を使えるようになれば君は過酷な運命に身を投じることになる。それでも力を使いたいかい」
「使いたいです」
即答だった。だがセイの予想通り
「分かったよ。明日から勇者のスキルの使い方を教えよう。さぁ早く戻ろう」
セイは、村人たちのいる場所へと戻ろうとする。
「…あの、ライルさんってどういう人でしたか」
英雄の一人『勇者』ライルは魔王との戦いで命を落としたことは世界中の人が知っている常識だ。セイにとってつらい過去でも聞いておきたかったのだ。
「ライルはね。誰よりも優しくて誇り高かった、いいやつだったよ」
「私もそんな勇者になれますか」
「なれるさ。きっとね」
それは、確信染みた言葉ではない、願いにも似た言葉だった
~~~~~~
次の日、村人たちは宴のせいでまともに動ける者が少なかった。ゲイルは二日酔いで朝からふらふらしていた。
「うぷ、セイ、魔法で二日酔いを治す魔法ってないか」
「ありますよ」
「頼むかけてくれ。辛すぎる」
ゲイルのあれがもうそこまで来ていた。
「セイさん。魔法は使わないでね。飲みすぎは反省してもらわないと」
「な⁉サリナ、嘘だろ」
唐突の妻の裏切りによりダッシュでトイレに向かうことになった。
「おぇぇぇ」
「サリナさんも結構飲まれてましたよね」
「私はお酒強いから」
セイが苦笑いをする。お酒強いなんてレベルじゃない。もはやブラックホールだった。セイとリーゼが戻るとサリナは、お酒の入った瓶を10本ほど空にしていた。
「セイ、早く教えてください」
「ああ、ちょっと待ってて」
セイは急いで外へと出た。そこには水色髪の少女が練習用の剣を持ち立っていた。
「さぁ、教えてください」
リーゼはやる気十分と言った様子だったがまだスキルを教えるわけにはいかない。
「まずは、剣術のレベルを上げようか」
「勇者のスキルを教えてくれるんじゃないんですか」
話が違うと頬を膨らませて怒るリーゼ。
「教えてもいいんだけど今のリーゼだと使いこなせないんだよね」
「どういうことですか」
「勇者が持つスキル<神剣>はねその名の通り神によって作り出された剣を操ることなんだよ。だけど使い手がその力に見合わなければ剣に振り回されてまともに使えないんだ」
神剣は、創造神エンネシアが作り上げた剣でありその性能はこの世のすべての剣の中で最も強い。そのため使い手が未成熟だとまともに使うことができない。
「だから剣術のレベルを上げるということですね」
「その通り、とりあえず僕に打ち込んできてください」
セイは練習用の剣を取り出す。
「いきます!」
リーゼは踏み込みセイへと切りかかろうとするがそれは失敗する。
「え?」
リーゼは、セイを通り越し虚無を切っていた。
「うん。まずは自分の能力を確認しようね。『勇者』になったことで能力が一段階ずつ上がってるからいつも通りやったらダメだよ」
「どうすればいいんですか」
「まず踏み込みの感覚をつかむしかないね。とりあえず剣は置いてやってみよう」
リーゼは剣を置き前へと踏み込む。一気に前へと飛びセイの懐へと飛び込んでしまう。
「おっと、大丈夫?」
「⁉はい!大丈夫です!」
顔を真っ赤にしながらさっと急いで離れる。
その後も何度も踏み込みの練習をし、感覚を掴んでいく。
「そろそろ剣を持っていいと思うよ」
セイは剣を構える。
剣を持ちセイへと切りかかる。今度はちゃんとセイが持っている剣へと当たる。
「そのまま自由に攻撃してきて」
「は!」
そのまま突き、突きと二連撃。だが二回とも簡単にセイに防がれる。横なぎに一閃。しかしそれもまた簡単に防がれる。
これはリーゼの剣術の練習のためセイは一切攻撃をしない。
(いつもより軽い、けどセイにはとどかない)
動きは以前より良くなっていたが一切の攻撃がセイに通用しない。
「まだ速さに振り回されてるよ」
「⁉」
自分では気づいていなかったが、太刀筋が速さによって限定されているのに気づかされた。
今度は、速さに注意して攻撃を繰り出す。
「重さが弱くなったよ」
速さを抑えたことにより剣に速さが乗らなくなり威力が落ちてしまう。
その後も微調整を繰り返しながら何度も攻撃を仕掛ける。だが一回もセイに当たることなく終わってしまった。
「はぁはぁはぁ」
「うん、最後の方はよかったよ。能力にはだいぶ慣れてきたんじゃないかな」
リーゼが息を切らせているのに対しあれだけの攻撃を受け止めていたセイは汗一つかいていない。
「セイは、強すぎます」
「まず僕に一撃を入れられるようになったらそれこそ教えることが無くなるよ」
勇者になったばかりとは言え相手は『魔道王』魔法が専門の彼に負けるのは少し悔しい。
「もう一回お願いします」
「だめだ。疲れてるんだから休みなよ」
「まだできます」
「はぁ、分かったよ。パーフェクトヒール」
リーゼの体を温かい光が包んでいく。するとみるみるうちに疲れが無くなっていく。
「これで疲れが取れたと思うよ」
「ありがとうございます。それじゃ、いきます!」
回復したとたんにセイへの連撃。確実にさっきより鋭くなっている。だがそんなことセイにとってはたいしたことが無い。同じようにすべての攻撃を防ぐ。
それから3時間が経った。
「そろそろ終わりにしないかい」
「まだ、やれます」
回復魔法を使っているとはいえ回復するのは体力の身で精神的な疲れは一切取れることはない。
「無理は禁物だよ。それにリーゼには剣以外で覚えてもらわないといけないことがあるからね」
「?」
リーゼは剣以外教わる物が思いつかない。
「それはね<鑑定>だよ」
「<鑑定>?なんでですか」
「<鑑定>はね相手の実力を測るために必要なんだよ」
「だけど、もう使えますよ」
そう、リーゼは一度セイの能力を視ている。それなのに覚えることがあるかと言われると思いつかない。
「僕の能力で見えなかったところあったでしょ?」
「あ!はい、ありました」
「そんな風にね、格上の相手だと<鑑定>が正しく表示されないことがあるんだ」
<鑑定>は万能ではない。レベルが足りないと見えない部分が多くなり相手の能力を正確に測ることができない。
セイの能力だって本当は一切見ることができないのだ。あの時はセイが許可していたので一部分だが見ることができた。
「剣を置いて。<鑑定>のレベルを上げるにはとにかく鑑定を使うしかない。というわけで村の人たち全員を鑑定しようか」




