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円環の魔道王~勇者が死に僕は300年後へと消える~  作者: MTU
第五章 妖精の円舞曲
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第九十九話 大精霊

 ランティの提案で冒険をすることになった三人は里を囲むようにして存在する森の中を歩いていた。

 普段は里のエルフたちもあまり入ろうとしないため無造作に雑草が生えていたり巨木にツタが巻き付いていたりと荒れていた。

 

「本当に来てもよかったのか」

「大丈夫だって、ここら辺は妖精様が沢山いて安全だって聞いたことがあるからさ」

「ならいいけど」


 ディンフィーはランティの楽観的な考えに渋々ながら納得した。その様子を見ていたランティは少し呆れながら目の前を指さした。

 

「目の前のやつを見てみろよ」

「お兄ちゃん~、はやくはやく」


 二人の目の前ではこのうっそうとした森をものともせずその小さな体でめいいっぱいはしゃぎ回るティファの姿があった。

 

「危ないから戻ってこい」

「分かった~」


 ディンフィーは心配し叫ぶとティファはその場で少ししゃがみ何かを取ると二人の下へと戻ってきた。

 

「見てみて」


 ティファの手に握られていたのは花弁が青く、百合のような形をした花だった。

 

「この花は?」

「これは星月花だな。ここらへんじゃあんまり見かけないランティが知らなくても仕方ない」


 ディンフィーの解説にほぉと関心する。

 星月花とは珍しい花の一種で薬の材料としても使われる花だ。そしてこの花は星や月の明かりを受けて花の色を変えるという特徴を持っている。花言葉は『親愛』

 

「ちょっと貸して」

「?はい」

「ちょっと待ってな、ここをこうして……よしできたぞ」


 ディンフィーは星月花を受け取ると花飾りにしてティファの髪につけてあげた。

 

「ありがとうお兄ちゃん」


 ティファは満面の笑みを浮かべてディンフィーへと抱き着いた。そんな妹にディンフィーは優しく頭を撫でる。

 

「お前らの仲は分かったから、早く進むぞ」


 ランティはいつもの二人の仲のいいやり取りを横目に見ながら先に進んでいく。

 二人は急いでランティのことを追いかける。その際ディンフィーはティファの手を引く。

 先に進んでいくにつれ森の荒れ具合がひどくなってきた。雑草は無造作に伸び巨木の枝が空一面を埋め尽くしている。太陽の光は枝に遮られほとんど光が入ってこないため不気味さを際立たせる。挙句の果てには雑草が所々つぶされており、何者かが通ったことが分かる。

 ディンフィーとランティはそんな森を進むにつれ恐怖からか体を強ばらせながら進んでいく。そんな二人に比べティファはというと

 

「ふん、ふふん♪」


 鼻歌交じりにるんるんと歩いていた。初めて見る物を見ては興味を示しすぐに走っていこうとするためディンフィーは止めるのに苦労してしまう。

 そうやって奥へ奥へと進んでいくとやがてどこか神秘的な空間へと出た。

 その場所はさっきまでの鬱蒼とした森が嘘のように嘘のように綺麗だった。心地よい風が吹き、さっきまで太陽の光を遮っていた巨木の枝が無くなったためこの場所だけに光が射していた。

 

「なんだここ」

「さぁ、俺も初めて来たからわけ分からない」


 二人は初めて見たこの場所を慎重に観察し始める。それもそのはず、ここはとても神秘的な雰囲気が漂う場所なのだが二人にはどことなくこれ以上は踏み入ってはならない気がしてならなかった。

 

「………」

「ティファ?」


 二人の前をティファが何かに引き付けられるようにこの領域に踏み入ろうとする。

 ゆっくり、一歩ずつ小さな歩幅で歩みを進める。

 今のティファは本当に幼子であるか疑ってしまうほど、少しだけ神秘的だった。二人はただその姿を見ているしかなかった。

 

「あなたは誰?」


 中央につくと誰もそこにいないはずなのに何かに語り掛ける。

 

「喋れないの?」


 ティファが首をかしげて尋ねる。

 二人にはいったい誰と話しているのか分からなかった。

 そんな時、三人が来た道の方からガサガサと不穏な音が聞こえてきた。

 

「避けろ!」

「っ⁉」


 その存在にいち早く気付いたのはランティだった。

 ランティの叫びにディンフィーは急いで回避行動をとった。横へ転がるように飛び、ランティはその反対側へと飛んだ。その直後二人のいた場所に巨大な物体が通過した。

 物体はそのままティファをも通過し目の前の巨木へと激突した。

 その衝撃波により風が吹き荒れ、土煙がまい、巨木が倒れた。

 

「な、なんだ。あれ」


 土煙が落ち着き、やがてその物体、否、魔物の姿が見えてくる。

 イノシシのような茶色い剛毛で包まれた5mほどもある大きな体、そんな体を支えるためか発達した筋肉を持つ四つの屈強な足、その屈強な体に勝るとも劣らず角のように伸びる鋭くとがった牙が二本、口元についていた。

 

「なんであの魔物がここに居るんだ」


 ディンフィーがその姿を見て驚き固まった。

 

「知ってるのか」

「家にあった魔物図鑑に載っていたのを見たことがある。あれはストライクボア、本当ならこんな森の中じゃなくて草原とかに住んでるはず」


 イノシシ型の魔物の名はストライクボア、ストライクボアは俊敏に優れその牙を使い獲物に突進し刺し殺して狩りをするのだ。

 その物理的な強さはレッサードラゴン並みの力を有している。


 ストライクボアはゆっくりと振り返ると地面に転がる二人を睨みつけた。二人はストライクボアの威圧感に恐怖を覚える。

 ストライクボアはすぐに二人に興味を無くすと視線をそらしどこかへ行こうとすると次に目にはいった者に興味を持った。

 

「っ⁉ティファ!」


 ストライクボアの視線の先にいたのはいまだに何かと会話しているティファの姿が

 ディンフィーは慌て叫ぶがティファは反応しない。

 それどころか視線を合わせた。

 

「?」

「ブモ」

「誰?……へ~」


 ティファは何かに納得するとあろうことかストライクボアへと近づいてく。段々とストライクボアの目が血走っていき敵意をむき出しにする。

 

「ティファ!聞こえてないのかティファ!」

「おい、やめろってお前まで巻き添えになるぞ」


 ディンフィーは妹を助けるために今すぐ向かおうとするが起き上がったランティに抑えつけられる。

 

「離せよ。はやく、早くティファを助けないと」


 ディンフィーはランティを振り払おうとするがまだ子供とはいえ毎日のように剣を振るってるせいか力はランティの方が上のため振り払うことができない。

 

「ブモォォォ!!!」


 ついにストライクボアの敵意が頂点に達し雄たけびをあげティファへ向けて突進を開始する。

 

「ティファァァ!!」


 まずい、そう思ったがディンフィーは動くことが許されなかった。このままではティファが殺されてしまう。しかし当の本人はのほほんとしている。

 ストライクボアの鋭い牙がティファへと迫る。

 ディンフィーはその瞬間、妹の死を連想させてしまった。

 

「あ」


 諦めかけたその時不自然にストライクボアの動きが止まった。いや止められたというのが正しいだろう。

 ストライクボアは体中を水のツタで縛り付けられ地面に倒れ伏していた。ストライクボア自身も何が起きているのか理解できずに混乱している。

 

「ちょっと~、私は今ティファちゃんとお話ししてるんだから邪魔しないでよ」


 どこからともなく声が聞こえてきた、その声はどこか拗ねた子供のような声がした。

 

「ウンディーネちゃん?」


 ウンディーネ、二人はその名を知っている。そして怖れおののき、畏怖と信仰の感情を見せる。

 

「……水の大精霊……」


 大精霊、それは精霊の中でも最も世界に近い精霊

 周囲の魔力が凄まじい勢いで集まりだす。その魔力量は異常、そしてすがすがしいほどの純粋無垢な自然の魔力

 やがて魔力は人の形を創り出しその姿を顕現させる。

 その姿を見た者たちは例外を除いて動くことが許されない。

 

「ああ、ごめんね。今邪魔なこいつを倒すから」


 上空から水がポタリポタリと降ってきた。


 雨だ


 さっきまで燦燦とした空はどこに行ったのやら、今はもう黒い暗雲に包まれていた。

 ストライクボアのいる場所のみ雨脚が強く、逆にティファのいる場所には水滴一つなかった。

冷たい雨粒が事の成り行きを見ていることしかできない少年たちを打ち付け始める。

 


————精霊は自然


————自然は恩恵をもたらし命の息吹を与える


————自然は天災を引き起こし数多の命を奪い去る


————故にまた精霊も表裏一体



 そんな里に伝わる言葉をディンフィーは思い出していた。

 

「ふふ、天雨」


 少女の無邪気な笑い声が響き、天から槍の如き雨が降り注いだ


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