第九話 勇者と魔道王
「勇者」
告げられたのは神に選ばれし称号『勇者』
「私が、勇者?」
戦闘系の称号を欲しがっていた本人すら唖然としてしまう。
『勇者』それは、魔王に対抗するべく創造神エンネシアによって生み出された称号。その称号の持ち主は人間の域を逸脱した力を得ることができる。
「勇者、勇者ってあの勇者か!」
ゲイルがオルドの肩を揺らしながら聞く。
「私も初めて見ましたが本物です」
『おぉぉぉぉぉぉ!』
一瞬の静寂の後村人たちから歓喜の声が響き渡った。
「勇者様の誕生だ!」
「うちの娘が勇者だぞ!」
村人たちがはしゃぐはしゃぐ。リーゼも段々と自覚がわいてきた。
「やったー!」
リーゼもはしゃぐ。神からもらえる称号の中で最も強い勇者の称号を得られ嬉しくないわけがない。
「セイ、勇者ですよ。私勇者になりました」
「そうだね。おめでとう」
セイは素直に喜ぶことができない。この時代でも奇しくもまた『勇者』と出会ってしまった。これは運命としか言えないだろう。
(また勇者と出会ったか)
勇者は壮絶な運命をたどることになる。セイが知っている二人の勇者は二人とも悲惨な死を遂げた。歴代の勇者の中には寿命によって死んでいった者もいるがたいていは悲惨な死を遂げる。
だが悲惨な死を迎えた者も寿命で死んだ者も最後はリーゼのような純粋な笑顔だった。
その最後の笑顔をセイは今でも忘れられない。
「さぁ宴だ!」
村人たちが自分の家に行き食べ物や酒を持ってくる。
新たな勇者の誕生を村をあげて祝う。
その後は、みんな昼間っから酒を飲みつまみを食べる。女性たちは料理を作っていく。
「おい、セイお前も飲め」
「いやまだ飲める年じゃないだろ」
この国では酒は20歳になるまで飲んではいけない決まりがある。
「僕は、22なので飲めますよ」
『わか!』
ガイとゲイルの声が被る。二人にはとてもセイが22には見えなかった。セイは自分の成長を時魔法で止めていたので実年齢より若く見えるのだ。
それに聞き耳をたてていたのはリーゼだ。
サリナがその後ろから少女の耳元に近づく。
「7歳差ね。充分いける歳の差じゃない」
「わ⁉お母さん、何言ってるの⁉」
「ふふ、今お父さんたちの会話に聞いてたでしょ」
「そ、そんなことないよ」
明らかに動揺する。主役であるリーゼは村の女性たちに囲まれて話をしていた。
「セイさん」
「なんですか」
ゲイルに酒を注がれてるセイが振り向いた。
「セイさんって独身ですよね」
「そうですけど、どうかされましたか」
「いいえ、何でもないわ。楽しんでね」
セイは不思議そうにサリナを見た。
「良かったわね。独身だって」
「そんなんじゃないって」
「耳真っ赤よ」
「う~」
真っ赤になった耳を抑え唸る。
「おう、セイ勝負だ」
「ゲイルさん酔ってませんか」
「俺のどこが酔ってるっていうんだ」
ゲイルの頬は真っ赤になっており、その横にはもう空になっている瓶が置かれたあった。
「それもう飲んだんですか」
「おうよ。これは宴だ。たくさん飲んでなんぼだろ」
完全に出来上がってしまっている。
「それで何の勝負をするんですか」
「そんなもんこれに決まってるだろ」
酒の入った瓶を取り出した。
「お!飲み勝負か」
「待ってました!」
「剣では負けたがこれなら勝てる!」
ゲイルは自信満々だ。周りの雰囲気からして断れそうにない。セイは仕方なく受けることにする。
「分かりましたよ」
「よし、早く飲むぞ」
二人のコップにお酒が注がれていく。ゲイルはそれを急いで飲んでいく。セイはというと味わいながら飲む。
「美味しいですね」
「それは王都から仕入れたものだからね」
セイの後ろに来たのは商人のアンナだ。セイは、嫌な予感がした。
「…まさかお金取りませんよね」
「ああ、安心してください値引きはしますので」
「お金取るんですね」
セイの手が止まる。ほとんどお金が無いのに飲んでしまったら借りを作ることになってしまう。300年前、一度商人に借りを作ってしまった時にもの凄いことを借りで返せと要求された。
(あれは面倒くさかった)
セイの中で一、二を争うほど面倒だった。
「お金の事なら安心しろ。俺らが払ってやる」
「そうだ。お金の事は気にするな」
「では遠慮なく飲ませてもらいます」
お金のことを気にしなくなったセイは、止まることなくお酒を飲み続ける。しばらくするとゲイルの飲む速度が遅くなる。
「うぷ、まだ飲めるのか」
「はい、まだまだ飲めますよ」
「化け物かよ」
その後一杯飲んだ後ゲイルはついにその場で酔いつぶれた。
「セイの勝ちだ!」
『うぉぉぉぉぉ!!!!』
村人たちが騒ぎ出す。
(もういいのかな)
セイは魔法でアルコールを飛ばしていたのだ。そのため絶対に酔うことはない。ばれたら文句を言われるがセイが魔法を使ったことに気づく者はいないだろう。
その後他の村人たちも飲み勝負をはじめ、みんな酔いつぶれてしまった。女性陣は、そんな男たちを放置し自分たちもお酒を会話しながら飲み始める。子供たちはというと遊んで疲れたため眠ってしまった。
セイは、一人であの湖へと向かった。
「ライル、君ならどう思うのかな」
決して反応することのない亡き親友へと話しかけた。
「一人で何やってるんですか」
セイが振り返るとそこには勇者となった少女が立っていた。
「リーゼか。ちょっとこの景色を眺めたくてね」
「そうですか」
二人の間に静寂が流れる。聞こえるのは風の音。
「声は何か言ってた?」
「声?」
「そう、勇者になったときに響いた女性の声」
「あなたが今代の勇者ってだけ」
(教えてくれなかった?…すべて丸投げか。向こうも僕の存在には気づいてるってことか)
セイは、勇者とかかわってしまった。もうこの時点でかかわらないという選択肢は消えた。
しかもリーゼは神から自分の力の使い方を教わっていない。ならやるべきことはただ一つ。
「勇者が持つ力の使い方が分かるって言ったらどうする」
「え?」
質問の意図が読めなかった。だがセイの表情は真剣そのもの
「どうする」
「…教えてもらいます」
「そうかい」
セイは優しく微笑んだ。
(この子は死なせないよ)
少女の決意を無駄にしないようにセイも本当のことを話す。
「勇者のスキルに鑑定がある。それを使ってみて」
「どうやってですか」
「相手のことをじっくり見るんだ」
リーゼは、セイのことをじっと見つめる。段々と恥ずかしくなり目を背けてしまいそうになる。
「だめだよ。ちゃんと見ないと」
「あぅ…」
セイに両頬を優しく抑えられ目を背けられなくなる。だがしばらくすると文字が浮かび上がってくる。
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セイ 22歳(+300)
種族 人間(■■)
体力 S(限)
魔力 測定不能(限)
筋力 A(限)
俊敏 S(限)
称号 『魔道王』『■■■』『■■■』『十英雄』『■■■■■■■■』
スキル <全魔(限)><■■><■■><剣術lv8><槍術lv6><鑑定lv10>
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一部分の文字が黒く塗りつぶされていて読むことができない。年齢の横の数字も気になるがそれよりも注目するところがある。
「……え?まどう、おう?」
『魔道王』の称号しかも『十英雄』もはや疑いようもない今、目の前にいる存在は300年前に起きた魔神大戦での英雄
「僕は魔道王さ」




