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プロローグ 僕はこの時代から消える

どうも、MTUです。この物語はファンタジー世界で希望を失った青年が主人公です。

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 魔神大戦。それは、約100年もの間続き神々をも巻き込んだ魔王と人の争い。その戦いでは、魔王側、人側両方に甚大な被害を及ぼし続けた。そんな中、人側に現れた『十英雄』と呼ばれる英雄たちの手によって魔王は倒され人側の勝利で長き戦いに終止符が打たれた。

 『十英雄』たちは、それぞれ自分の国へ戻り凱旋を行っていた。


 ベイルダル王国王都ゼノフ、そこでは十英雄の二人が戻ってくることになり勝利のパレードが行われている真最中だ。民衆は我よ我よと十英雄の姿を一目見ようと王城まで続く道が人でごった返しになっている。

 

「来たぞ!」


 誰かが叫び人でごった返していた道がすぐに中央で分かれた。

 馬に跨った煌びやかな鎧姿の騎士たちが先導しその後ろにお目当ての『十英雄』たちが豪華な戦車に乗り集まった人々に向けて手を振っていた。


「妖精姫様よ!」


 民衆の誰かが叫んだ。

 一人は、美しい銀色の長い髪に翡翠色の瞳、それに加え先のとがった耳に整った容姿。エルフの少女だ。その美しさにある者は魅了され、ある者は嫉妬した。周りからは妖精姫という異名で呼ばれている。

 しかし気になるのはその隣に立つもう一人の英雄。


「魔道王さまだ」


 短く切り揃えられた黒髪に、暗い黒い瞳。ローブを纏った青年だ。魔法を極めこの世界最強の魔法使いとうたわれる少年だ。しかし現在は魔王に勝利した英雄とは思えないほど雰囲気がとても暗い。長きにわたって繰り広げられてきた魔神大戦が終わった興奮により民衆たちはそんなこと少しの違和感としか捉えずすぐに称賛を送る。


 そしてそのまま滞りなく英雄たちは王城へと辿り着いた。

 英雄たちは、騎士たちに連れられ王の間へと向かった。騎士が扉を開けると英雄二人が仲へと入る。中には国の大臣たちや一番奥には煌びやかなドレスに身を包んだ若い女性が立っていた。二人は中央へ行くとその場で跪く。


「面を上げよ」

 

 二人は、顔を上げ玉座にいる女性へと頭を上げる。


「魔王討伐大義であった。それで、彼は」

「……僕を庇って死にました」

「……そう…ですか。覚悟はしていました」


 女性は一気に表情が沈んだ。

 彼とは、この国のもう一人の英雄『勇者』だ。『勇者』はこの国の国王だった。

 

 そして『勇者』は死んだ。 


「彼の最後は」

「ライルは、魔王と勇敢に戦いました。そして勝利した。最後に魔王が発動した呪いが僕へと牙をむきました。しかし、その前にライルが僕を庇って呪いを受け死にました。…ライルは、僕の事を庇わなければ生きていました。僕が死ねば―」

「ちょ―」


 隣で今まで黙っていた、エルフの少女が叱責しようとしたとき女性の優しい声が王の間に響いた。


「セイ、それ以上自分を責めるのはやめなさい。それでは死んでいった彼に報いられないでしょ」

「だけど!……」


 セイは言い返そうとしたがそれ以上言葉が出てこなかった。セイは勇者が死んでからずっと自分の事を責め続けた。

 自分の不注意のせいなのにもっとちゃんとしてれば、もっと強い力を持っていれば、と

 セイは血がにじむくらい唇をかみしめる。

 その姿を見て女性は優しく微笑みかける。


「彼とあなたは、とても仲が良かった。私が嫉妬するほどに、結婚してからも子供ができてもずっとあなたのことを気にかけていた。彼があなたのことを自ら庇ったのならそれで彼は本望なのでしょう。だからこれ以上自分を責めないで」


 『勇者』とセイは、兄弟のように仲が良かった。戦場でも二人での戦功は数知れず、二人の友情はとても素晴らしかった。

 セイは、歯切れが悪そうにするが、この場ではもう黙る。女性は、表情を戻す。


「あなたたち二人には、褒美を授けます。しかし、今は二人とも疲れてるでしょう後ほど要望を聞くので休みなさい。私も少し疲れました。後は任せましたよ」

「はっ」


 女性が、部屋を退出しようとすると部屋にいる全員が跪く。

 その後、大臣たちが英雄二人に群がり始める。


「その若さで魔王を倒すとは素晴らしいですな。ところでいい話があるのですが―」

「財務大臣殿、抜け駆けとは良くないですぞ。それよりも魔法大学へとぜひ」

「いえいえ、そんなことより宮廷魔法使いにぜひ」

「すいません。僕は、今はそういうのは結構です」


 大臣たちに勧誘されるがセイはすべて断る。大臣たちは、少しがっかりしながら妖精姫の方を狙おうとするが


「私もまだ興味ないわ」


 大臣たちの好意的な態度はすぐに変わり全員部屋から出て行ってしまった。


「全くあの大臣たち自分の事しか考えてないのね」

「そうだね」


 セイは、まだ暗い顔をしている。


「ほら、しっかりしなさい。ライルが死んでしまったのは残念だけどあなたに元気がないとライルも悲しむと思うわ」

「励ましてくれてありがとうティファ」

「別にいいのよ」


 ティファは、そっけなく答える。


「僕は、先に部屋に戻ってるね」


 セイは、自室へと戻っていく。ティファは、その後姿を心配するような目で見ているのだった。

 セイは、自室へと入る。中には、壁際に本棚がありそこにはぎっしりと本が敷き詰められている。中央には、アンティーク調の机といすが置かれており、その上には魔法に関する資料が置かれていた。

 セイは、椅子へと座ると頭を抱える。

 

(どうしてどうして、死んだんだ!ライル、君には、家族がいただろう。僕を庇わなければ君は、君は)


 セイの頭には、あの兄弟のような勇者の顔が思い浮かぶ。やるせない気持ちが沸き上がってきて歯ぎしりをし、涙を流す。

 だが自分を生かしてくれた勇者に報いるため自分は生きなければならない。それはいいとしよう。しかし、生かしてもらったのにもかかわらず自分に称賛の言葉ばかりが浴びせられそのたびに胸が痛む。

 唯一自分の事を責めてもらえそうだった女王は自分の事を優しく励ましてくれた。

 もはやこの気持ちが晴れることはないだろう。

 

(それに君が……希望がなければ、僕は)


 もうここにいることはできない。

 

(この時代から消えよう)


 死ぬことは許されない。そのためセイは誰も自分を知らない時代、未来へ向かうことを決意した。


 セイは、本棚にしまってあったある本を手に取った。表紙には、『禁忌魔法全書』と書かれている。それを机へ置き開いてくとあるページで手を止める。

 そこには『円環魔法』と書かれていた。

 『円環魔法』それは使用者の体を魔力へと変換し時代を経て元の形へと戻す魔法。転生よりはタイムスリップに似ている。


 セイは、近くにあった紙を使い置手紙を書く。そこには、仲間への感謝と謝罪、そしてこれから行われることについて書いた。

 

「僕は、この時代から消えるよ」


 セイは魔法を発動させる。大気を震わせるほどの魔力が集まる。


「円環魔法トランス・マナ」


 セイの体が魔力へと変わっていく。そして光に包まれ消えるのだった。

 その数秒後、部屋のドアが勢いよく開かれた。

 

「セイ!」


 焦った様子で入ってきたのは、ティファだ。突然発生した膨大な魔力に気が付いたティファは急いでこの部屋へと来たのだ。しかし、それは一歩遅かった。

 机の上に置かれていた手紙に気づくと読み始める。

 

「なんでよ…」


 半分ほど読み終えると手紙の文字が涙に濡れ滲み出す。

 この日、魔王を倒した英雄の一人がこの時代から姿を消したのだ。


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