その後3
返してくれたのはいいが、手も一緒に握られてしまった。
「はあ」
軽く溜息を吐いた隣の男の顔が、恐ろしくて見られない。
「エルダ。そうお呼びしても?」
「ええ、勿論」
「嬉しいですね。私の事はレンと」
「いや、それは。いくら家族になるとはいえ、隣国の王族の方をそのように呼ぶことは……」
強く手を握られてしまう。
「いいのです。私がそう望んでいるのですから」
「……では、レン殿下と」
「ええ、それで構いません」
部屋を出た途端、殿下に横抱きにされてしまう。
「ちょっ、おい」
止めてくれるはずの兄は、義姉上の部屋で今頃再会の喜びを分かち合っているだろう。つまり、誰も助けてくれる人はいないのだ。
そのまま恐ろしいスピードで、殿下の執務室へ放り込まれてしまった。
『寝室じゃなくて良かった』
そう思っていると、ソファで押し倒されてしまう。無駄に大きいソファは、ギシッと鳴るだけで私たちをすんなり受け入れる。
「ヴァル」
離れろと言うはずの言葉は、殿下の口で封じられてしまう。最初から深い口づけに息も絶え絶えになってしまう。口づけだけで意識が飛びかけた時、やっと唇が離れた。そしてギュッと抱きしめられる。
「どうしてお前は無駄に男を引き寄せる」
「別に引き寄せていないだろう。あれはただの挨拶だ」
「その割には、私を気にしていたじゃないか」
「うっ」
図星を突かれ、言葉を失ってしまう。
「あの男を気に入ったのか?」
「は?そんな事あるわけない。義兄になる人だぞ」
「エルダがそう思っても、あの男はそうじゃない」
随分とやさぐれているようだ。
「はあぁ」
溜息を吐くと殿下をギュッと、私から抱きしめた。
「いいか?良く聞け」
片腕を離し、殿下の頬に触れる。
「どんなに男が寄って来たとしてもだ。私が選んだのは後にも先にも、ヴァルだけだ」
上半身だけを持ち上げ、殿下の口に触れるだけのキスをする。やっと落ち着きを取り戻したのか、陰っていた紫の瞳が輝きを取り戻した。
「エルダ、愛している」
私を抱きしめた殿下……ん?手の動きが怪しい。
「おい、ヴァル」
「この際だ。少しだけ食わせろ」
結局こうなるのか。
「嫌だ」
「どうしてだ?」
止めてくれる兄がいないと、本気で危険だ。
不覚にも、いつの間にか詰まった襟元のホックを外されてしまった。変に器用な殿下は続けて2つホックを外した。
『これはマジでヤバい』
露わになった鎖骨に、キスをされてしまう。
「ヴァル!」
「なんだ?」
答えるが手の動きは止まらない。微妙な位置への口づけに、意識が朦朧としかけてしまう。
「聖剣、なんとかしてくれ」
苦し紛れに聖剣に助けを求めると、聖剣が見事に応えてくれた。
「熱っ!」
聖剣が殿下にだけ熱を放出したのだ。火傷にはならないギリギリの加減だった。
「ふう、危なかった。聖剣、ありがとう」
礼を言えば、返事をするように淡く光った。
「くっそう。聖剣に邪魔されるとは思わなかったぞ」
「当たり前だ。兄様がいないからって、いい気になって」
「今のは食っていい流れだったろう」
流れって何だ!?私だってなあ、こんな事何度もされたら身体がほてってしまうんだ。バカ野郎め。
「ヴァル」
「なんだ?」
「せめて、父から1本取れ。そうしたら晴れて婚約者の身だ。少しだけなら食わせてやる」
殿下の周りだけ時間が止まったようだ。固まっている。
「本、当か?」
「ああ、本当だ。私だって、ヴァルに襲われるたびにドキドキしてしまうんだ」
「エルダ……私に欲情してくれているのか?」
「うるさい!これ以上は何も聞くな!」
再び腕の中に囚われ、激しいキスをされてしまったのは言うまでもない。




