一件落着
去って行く学園長を見送る。
「色々と凄い方ですね」
隣に来た王太子殿下へ言うと、笑った殿下。
「ははは、彼はエルフだからな。長い年月生きているから、このくらいの事では動じないんだよ」
「ああ、なるほど」
ん?エルフの学園長?しばらく考える。
『隠れキャラじゃん。これ、イベントだったじゃん』
「ん?どうかしたか?」
考え込んでいた私の顔を覗き込んだ殿下。
「あ、いえ。どうりで美しい方だったと」
「もう100歳越えだぞ」
「そこはエルフですから、気になりませんよね」
エルフは長寿だ。100歳くらい当たり前だろう。
「惚れた訳じゃないだろうな」
そっち?
「そんな事、ある訳ないじゃないですか」
「本当か?」
「はい」
「なら、いい」
触れるだけのキスをした殿下。
『後ろ、見た方がいいぞ』
殿下の背後に、魔力を膨らませた兄が、超絶笑顔で立っている。
「さてと、ヴィヴィアーナ殿下の所へ戻ろう」
兄の手が、殿下の肩を掴んだ所で、私はこの場を後にしようとした。
「ちょっとあんた!」
去ろうとした私を呼び止めたカプアート嬢。
「何でしょう?」
「あんた、マジで誰?私はこのゲーム、何周もやったのよ。なのにあんたなんて見た事ない!一体何者なのよ!」
きっと、周囲の皆は彼女の言葉が理解できないだろう。だから私も理解出来ていないフリをする。
「何者と言われましても困りますが」
彼女の方へ向き直る。
「私はエルダ・ウルヴァリーニ。ヴィヴィアーナ・ジェルマーノ第三王女殿下の護衛騎士です」
騎士の礼を取り、そのまま彼女の元を離れようとすると、ヴィヴィアーナ殿下が走り寄ってきた。
「エルダ」
私を待っていたヴィヴィアーナ殿下が、勢いのまま私に抱きついた。
「ヴィヴィアーナ殿下、お待たせしました」
殿下が悪役令嬢になる事もなく、無事にこの時を終わらせることが出来たと実感する。そして私たちは、会場を後にした。
あれから1カ月ほど経った。
カプアート嬢は最北にある、病院に入れられている。尋問しても、彼女の言っている事が誰も理解出来なかったからだ。
極刑になってもおかしくなかったのだが、まだ未成年である事、彼女の話が支離滅裂である事から、専門の病院へ入院させられた。窓には鉄格子がはめ込まれ、一生出る事は叶わないだろう。
私が説明をしようかとも思ったが、話を理解した所で彼女の罪状は重く、牢屋で一生過ごすよりは病院の方がいいだろうと思いやめた。
ヴィヴィアーナ殿下は、しっかりミケーレ様との恋を成就させ、来月には婚約式の予定だ。私の助言通りに彼に伝えた殿下は、見事、ミケーレ様に告白してもらったのだそうだ。
ミケーレ様は、母方の公爵家を継ぐことが決まっている。しかも卒業を待たずして、騎士団に入団する予定。卒業する頃には、殿下をお任せするに値する、素晴らしい青年になるだろう。
そしてなんと、エルシー様はアルセニオに恋したらしい。卒業式のあの騒動で、自分たちを守り切った彼を見て、好きになってしまったのだそうだ。今は、絶賛アピール中だそうだ。
先日は手作りの差し入れを、騎士団の皆にと持って来てくれた。元々可愛らしく、学園でも人気のあったエルシー様は、たちまち騎士たちのマドンナ状態に。中には本気で求婚していた奴もいて、それを見ていたアルセニオの顔を見た私は、彼が落ちるのも時間の問題だろうと思っている。
アルド殿は、すっかり私の刀にご執心だ。
「エルダの事は、王太子殿下の物になっても好き。だけど、聖剣は他の誰かの物になるのは嫌」
そう言った彼は、毎日数時間、刀を持って研究室に閉じこもっている。どうして刀が魔力を宿せるのかを解明したいらしい。
今の所、これといった成果はないが、毎日充実していると嬉しそうだった。私はいつか刀が、アルド殿を選ぶのではと気が気じゃない。




