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彼女の処遇と殿下の想い

 結局、あの後殿下は丸一日眠ったらしい。執務室に書類が溜まると、兄が盛大な溜息を吐いていた。


「それで、あの女性はどうなったのです?」

殿下が起きた翌日、執務室へ呼ばれた私はあの事件の詳細を聞いた。


「地下牢にいるぞ。会うか?」

「いや、会わない」

兄に言われるが、あまり会いに行きたいとは思わない。


「処分は決まったのですか?」

「ああ、処刑は免れなかった。まあ仕方がないだろう。王族、しかも王太子を殺害しようとしたのだからな。エルダの件もあるし。日程はまだ決まっていないが、ひっそりと実行する事になる。今回の件はあまり大事にはしないつもりだ」


「それではやはり?」

「ああ、暗殺集団を雇ったのは彼女だった」

答えたのは殿下だった。


「俺のせいだ……すまなかったな」

頭を下げられる。

「いえ、正直、あのレベルの者たちを何人寄越されても、勝てますから」

わざとニヤリとして見せた。


ふっと笑う殿下が話を続ける。

「あの女性は伯爵夫人だったのだが、随分歳の離れた夫婦だったそうで、夫が早くに亡くなった。子供もいなかったから未亡人として、結構遊んでいたんだ。それを知っていたからこちらも軽い遊び感覚だったのだ。


それが、何が気に入ったのか俺に執着をし始めてな。一時は俺と言葉を交わしただけの令嬢さえ目の敵にする始末だった。俺に愛されているのは自分だと、茶会や夜会で言いふらしていた。流石に看過できない行動に、俺自身が怒鳴りつけて大人しくなったのだが……噂を耳にしたのをきっかけに、またつき纏い始めたのだ」


「噂、とは?」

「俺に本命が出来たらしいと」

ギュッと胸が痛んだ。ん?一体どうしたんだろう?まだ体調が万全ではなかったか?


「それからだ。城に来ては俺に会わせろと騒いでいたらしい。勿論、会う事は絶対にしなかったが。すると、今度は大きなアメジストの指輪を薬指につけて、俺から貰ったなどと吹聴して、周りの令嬢に牽制をかけていたらしい。まあ、信じる者の方が少なかったらしいがな」

「凄いな……」

その執念と言うか、粘着が恐ろしい気がした。


「あのベニートの所の夜会の時に、久々俺を見た彼女は、俺の視線の先にいる令嬢が本命だと見破ってしまった」

「……」

またもや痛む胸。なんなのだ?


「そのすぐ後だったからな、あの襲撃は。すぐに疑ったさ。だから自分が餌になって彼女を誘導した。見事にかかってくれた……だが……俺のせいでエルダに傷を付けてしまった。すまない」


「いえ。私で良かったです。殿下の本命の方に向けられていたら大変でした」

「……え?」

「何言ってんだ?」

殿下と兄がポカンとしてしまった。何か変な事を言っただろうか?


「エルダ」

兄に改まって呼ばれてしまう。

「はい」

「おまえが私と、殿下たちの動向を窺っていた時の話は覚えているか?」

「え?」

そう言えば……あの時の事を思い出す。


「……私か?」

あははと、誤魔化すように笑った。兄は呆れたように溜息を吐き、殿下には胡乱気な目で見られる。


「それで?俺の気持ちに答えてくれるつもりはあるのか?」

「それは……わかりません」

「どうして?」

「だって、別に直接想いを伝えられた訳でもありませんし。殿下の気持ちが本物なのか判断がつきません」


「……わかった」

殿下の顔が魔王に戻った。

「もう、ここからは容赦はしない。いつでもどこでも口説くからな。覚悟しておけよ」

覚悟はしたくない。どうしてなのか、逃げ出したい気持ちになる。


「ヴァレンティーノ殿下」

魔王に戻った殿下に対して、兄の声がめちゃめちゃ低い。

「口説くのは認めます。が、手を出そうとしたら……わかっていますよね」

魔王がもう一人いる。魔王VS魔王って、需要あるのか?


「わかっている。だが、エルダが望んだその時は」

「絶対にない!!」

「ぶっ殺す!!」


執務室が二人の怒号で揺れた。


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