表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/40

違いがあり過ぎる

 本来ならば、伯爵令嬢がわざと熱いお茶をかけて「私の婚約者にちょっかいをかけるからよ」的なセリフを言うはず。しかし、婚約者ではないのでそんなイベントは起きるはずもない。しかも怒鳴っているのはヒロイン本人。なんだ、これ?


瞬時に周りを見るが、運の悪い事にカプアート嬢の護衛はアルセニオではなかった。今いるあいつでは止められないだろう。


カプアート嬢が怒りに任せてソーサーを持ち上げた。周りから悲鳴が上がる。


ガツッ。私の後頭部に直撃したソーサーはそのまま芝生の上を転がった。間一髪、二人の間に入り、伯爵令嬢を庇う事が出来た。


「どうした!?」

騒ぎが聞こえたのか、アルセニオも走ってきた。

「アルセニオ様!聞いてください!この子が私に紅茶をかけたの。淹れたてじゃなかったから火傷にはならなかったけど、酷いでしょ!?」


アルセニオに抱きついて訴えている。だが、アルセニオは彼女を引き離しこちらに向かってきた。

「エルダ、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。これくらいでなんとかなるほど弱くない」


抱きしめていた令嬢をそっと離す。

「レディ、大丈夫ですか?申し訳ありません。咄嗟の事とはいえ抱きしめてしまいました」

「あの、いえ。庇っていただいて。ありがとうございます。私は大丈夫ですがあなたが……」

「ああ、私は大丈夫ですよ。これでも騎士団副団長を務めている身ですので」

ニッコリと笑ってやれば、ほっとしたように息を吐く令嬢。心なしか頬が赤らんでいる。熱でもあるのだろうか。


「エルダ!」

ウルウルと涙を溜めたヴィヴィアーナ殿下が、私の元へと走り寄ってきた。

「泣いてはダメですよ。殿下はホストなのです。気をしっかり持ってください。私は大丈夫ですから」

浮かんだ涙を親指でそっと拭ってやると、軽く頷き姿勢を正した。


「エルシー、良かったわ。ケガがなくて」

殿下は彼女を立たせるために手を貸した。

「殿下、ありがとうございます。せっかくの楽しいお茶会に水を差すような事を」

殿下がフルフルと首を振る。

「エルシー、あなたは謝るような事は何もしていないわ」


もう一人、エルシーという令嬢の隣に座っていた令嬢も怒ったように言う。

「そうです。エルシー様は何も悪くありません。だって、あの方がわざとエルシー様にぶつかったのだもの」

一斉にカプアート嬢に視線が向いた。本人はいつの間にか再び、アルセニオにくっついていた。


「は?何を言ってるの?私がぶつかる訳ないじゃない。アルセニオ様、この人たち揃って私を陥れようとしているのよ。きっと私が光魔法を使えるようになったのが気に食わないんだわ」

腕に絡まって泣いている。本当に泣いているのかはわからないが。


「事の発端をお話しいただけますか?」

とりあえず、令嬢たちに話を聞くことにした。


 結局、見ていた数人の令嬢の意見は一致した。エルシー嬢がカップを持ち上げて飲もうとしたところで、カプアート嬢がぶつかったらしい。人に寄ってはタイミングを見計らっていたと言っていたが、こればかりはわからない。


そして、エルシー嬢の持っていたカップから、お茶が零れ出しカプアート嬢の胸元にかかってしまった。それが真実だった。近くにいた侍女も概ね同じ事を言っていた。


「カプアート嬢。エルシー嬢は決してわざと零したわけでも、あなたにかけた訳でもなかった。これは了承いただけますね」

「絶対にワザとなのに……わかったわ」

なんだ、その言い草は?流石にイラッとした。おまえは危うく傷害事件を起こす所だったんだぞ。ヒロインならヒロインらしく健気にしろ!


「わざとではなかったと。了承いただけますか?」

少し語気を強めて言えば、渋々ではあったが了承した。

「気分が悪いわ。もう帰る。行きましょう、アルセニオ様」

ずっと絡めていた腕に更に力を込めて、アルセニオを引っ張って行ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ