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第九十六話 戦闘神・赤龍レッドバスターズ

 イスターリンとの戦闘はやはりこちらが劣勢で、対してイスターリンはいまだに傷を受けていない。


「おらっ、そんな攻撃じゃ一生俺には届かねーぞ!」


 俺と同じ光速に近い速さで戦場を駆け回る。

 俺は何度もイスターリンに攻撃を仕掛けるが、魔剣の力がまるで存在しないようにロングソードで受け止められてしまう。

 しかもあの奇妙な感覚と共にだ。

 数回も同じことが続くと慣れてしまうもので案外驚かなかった。

 あれは俺の持つ運命を操る力と同等の力が付与された武器なんだと思う。


 魔神は別の世界線を歩いた俺であろうことは過去での魔王らしき者とサフィーネの反応だけでわかる。

 奇妙な感覚は元々自分の力だったような、別の力のようなそんな感覚だった。

 でも、性質的には俺の使っている力と同じものだと感じた。

 俺以外にそんな力を持つ人物が存在するとは思えないし、思いたくはない。


 まあ、元が小説家だって言うなら誰でも持てる力なのかもしれないが、これはあくまで俺の想像だ。


「動きが鈍いな!お前、アトスという名だったよなぁ!それで本気なのか?

 つまんねぇぞ!」


 イスターリンが俺の脇腹に鋭い膝蹴りを放つ。

 あれほどの速度で俺と同じような、いやそれ以上の完成された動きをするので防戦すらままならない。

 その膝蹴りがクリティカルヒットして、俺は平原に吹っ飛ぶ。

 転がりながら魔剣を地面に突き刺し、ブレーキにする。

 地面に深い亀裂を作りながら勢いのままに後ろに下がっていく。

 ようやく勢いが収まると俺は片膝立ちで剣を支えに倒れる一歩手前で耐える。


「そんなに死にたいのか?隙だらけだぞ」


 落ち着いている暇もなくイスターリンがこちらに迫ってくる。

 地面から魔剣を抜くと俺はイスターリンのロングソードを受け止める。


「お?さすがにこれは受けるか、いいぜ、もっと楽しませろ!」


 イスターリンは戦闘をしていること自体が楽しいらしく、笑いながら容赦のない攻撃を加えてくる。


「クッ、強い」


「今更戦闘止めるなんて退屈なこと言うんじゃねーぞ!もしそんなことを言ったらうっかり殺してしまうかもしれねぇからな!フハハハ!」


 戦闘技術、武装、それを交えながらそれを可能とする肉体。

 間違いなくこの世界で本当に最強の人間だ。

 どこにも付け入る隙がない。

 完璧な戦闘人間だった。

 防戦すらまともにできていないのに、イスターリンは全然本気じゃないのだ。


 こんな次元の違う強さの人間に勝てるのか?

 論外だ。

 勝てはしない。

 イスターリンはこれだけの攻撃を加えながらも手加減をしている。

 しかも本来二個の武器を使う人間が一個の武器でしか戦っていない。

 そのおかげで辛うじて俺が耐えていられるだけだ。

 本気を出されたら瞬殺されるのだろう。


「面白くねぇなぁ、おままごとに付き合うような趣味はないんだが。

 ふぁーあ、眠くなってきちまった」


 ついにイスターリンは暇すぎるのかあくびをし始める。

 イスターリンからすれば動いているという感覚もないのかもしれない。

 言ってしまえば赤子を相手にしているようなものだろうしな。


 腹立たしいが、これが今の俺とイスターリンの明確な差だ。

 俺から攻撃を加えても蚊を追い払うように軽く受け流されてしまう。


「お前、勝てない戦いしていて楽しいのか?俺にはよくわからんぞ」


 さらにそんな挑発を言ってくる。


「ここまで相手にされていないと、ムカつくな」


 俺はイスターリンを睨みながらそう言う。

 俺自身にムカつく。

 なんであんな奴に苦戦しているのか。

 本調子じゃないにしてももっと俺は戦い方があったんじゃないのか?

 相手が強敵なのは間違いないが、一矢報いることくらいはできるはずだ。


「いいな、その顔、その目。勝てない戦いと分かっていても心は折れていない奴の目だ。

 そう言う奴はたまに奇跡のような功績を残すからな、俺の目に狂いはねぇな!

 ここで討ち取るのは俺の美学に反する」


 イスターリンの美学が何なのかは知らないが、彼はここで俺を殺そうとは全く考えていない。


「だから、ちょっとだけ、俺の本気を見せてやるぜ」


 イスターリンはロングソードを持っている手とは反対の何も持っていない手を出し、アーティファクトを使った。


 ――そういえば、イスターリン達もアーティファクトを持っているんだったな。


 アーティファクトは白い水晶なのだが、魔力を通したのかイスターリンの髪の色と同じような真っ赤な光を放ち、イスターリンのメガネに反射してメガネの片方が光で白く光る。

 アーティファクトを持った手を顔の近くに寄せて俺の方を見るなりニヤッとする。


 真っ赤な光がイスターリンを包み、空気の温度が上がった。

 アーティファクトの澄んだ声が聞こえてくる。


「戦闘能力、完全解放。主神級ランク、完全解放。守護神、赤龍レッドバスターズ」


 主神級?守護神?

 なんなんだ、それは!?

 今まで聞いたことのないランクや守護神という存在をアーティファクトの澄んだ声が言う。


 この世界の魔法ランクは神級が最高ランクじゃないのか?!


 澄んでいる声が似合わない場面だった。

 それを聞いたセレスティが目を見開く。


「そんな、そんなことって!……時空神アトロパテネス様の配下の六天神の中で戦闘を司る伝説の龍、こんな所に顕現するのか!?」


 戦場の空気がおかしくなった。

 これまでもイスターリンのとんでもない殺気を感じていたが、ギアをいきなり何段も上げたような息苦しく、重たい空気が戦場に広がる。


 なんだ?これだけで人を殺せるんじゃないか?!


 辛うじて意識を保っていたセブルスが泡を吹いて地面に崩れ落ちる。

 セレスティも次元の違う殺気に顔を青白くして両腕で体を抱き締める。


「そん、な。あれは、あの殺気はなんなんだ。こんな殺気を浴びたら人間は正気を保てなくなるじゃないか」


 セレスティは息をするのも苦しそうに息を矢継ぎ早に吸い込んでは吐き出す。

 死神すら恐怖に陥れるのか、あれは。

 光が収まるとイスターリンの服装は紅蓮の炎を纏う服装へと変わり、背後にはイスターリンの何倍もの天まで届きそうなほどの大きさの、赤い、真っ赤な巨龍が浮いていた。

 呼吸だけで肺を焼き切りそうな熱気が戦場全体に広がる。


「ハハハハハ!最高だな!これが俺の本気って奴さ、使うのはこれが初めてだが、神にも勝てそうな力を感じる!」


「なん、だ、あれは。なんだと言うんだ!」


 一矢報いるなんて言っていたがあれは、


 ――無理だ。


 俺も立っているだけで精一杯で頬には冷や汗が伝う。

 動けない。

 体が動かなかった。

 体の身体機能が全て支配されているような錯覚に陥った。


 観戦していたはずの二人の女性も硬直して一言もしゃべらない。

 組織の仲間ですらも恐怖で動けなくなっているようだ。


「なんだぁ?みんなして動かないなんて、そんなにおかしい力なのか?」


 この殺気を放つ張本人は周りの景色を見るや否やアゴに手を添えて首を傾げる。

 イスターリンには事の重大さが分からないらしく、この局面にも関わらず頭に疑問符でも浮かんでいそうな表情で言う。


「あー、こりゃあやりすぎって奴だな。おい、お前も動けないのか?」


 アゴに添えていた手を今度は頭にやり、頭をかきながら俺を見て問いかける。


「き、聞くな。それは見れば分かるだろ!」


 なんとか言葉を紡ぎ出して問いに答える。

 この状況下にありながらなんかアホな会話をしている気がしているが、次元が違いすぎてそんな会話しかできない。


「やれやれ、こうなっちまったらただの虐殺だな、それは実に楽しくねぇな、ああ、楽しくねぇ、どれ、少し待っていろ」


 そもそもこの戦場に来てから殺気だけで虐殺もどきをしていたような気もするが。

 イスターリンはそう言うと何の躊躇いもなくアーティファクトの使用を解除してしまった。

 背後の龍や服装が元に戻る。

 元がおかしすぎたので殺気を感じながらも圧力が数段落ちているので一気に楽になった。


「んで?どうすんだ?それでもまだ俺と戦うのか?」


 イスターリンはもはや興味を失ったかのようにさらに殺気を引っ込める。


 その時、俺の頭の霧が晴れていくのを感じた。

 どうやら俺の力を封印するアーティファクトの効果が無くなったらしい。

 多分、あの時どこかに走っていったあの神官が止めてくれたんだろう。


「ん?雰囲気変わったな。調子戻ってきたみたいじゃねぇか。

 まだ楽しめそうだな!」


 引っ込めた殺気をまた放出してイスターリンはまた戦闘態勢を取る。

 調子が戻ったとして勝てる気はしないがイスターリンはやる気満々のようで撤退するつもりはないらしい。

 アーティファクトを使ったイスターリンには勝てる気がしないが、これで少しはまともに戦えるだろうか?




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