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第九十五話 世界最強の戦闘狂

 戦場はイスターリンに支配されていた。


「なんだぁ?お前ら、そんな恐怖の顔をして。俺を楽しませてくれよ!」


 イスターリンは口角を吊り上げ、戦場全体を見てそう言う。

 イスターリンは近くでなんとか殺気に耐えていたベルネットの前に歩いていく。

 ベルネットはガクガク震え、今にも倒れそうだ。

 顔は青白い。


「あ……う、く」


 言葉をなくしたかのようにただ力ない声を出すベルネット。


「お前と戦っても楽しくなさそうだ。気絶でもしていろ」


 イスターリンは目から鋭い殺気をベルネット個人に全放出し、ベルネットを気絶させた。

 戦ってないのに眼光だけで気絶させるだと!?

 倒れたベルネットをおかしそうに笑いながら見て、こちらにゆっくり歩いてくる。


「なあ、教皇サンよぉ、こいつら壊滅させたらお前の言う神は喜ぶのか?」


 教皇の方に顔を向け、大声でそう言う。


「よ、喜ぶだろうが、貴様は一体何者なんだ?」


「俺か?俺はイスターリン・アドブラガだ。しがない戦闘狂だとも」


 彼は片手のバスタードソードを肩に担ぎながらまたおかしそうに言う。


 今度は空から背中に真っ黒い羽を持った女性が降りてくる。

 誰だ、あれは。


「ちょっとイスターリン!勝手に動かないでってさっきも言ったわよね!何勝手に戦場に来ているのよ!」


「ああ?うるせー奴だな。俺は誰の指図も受けんぞ、戦闘が楽しそうな所に勝手にいって何が悪い」


「どうしてそう勝手なのよ!」


 女性は頭をワシャワシャしてそう言う。

 どうやらイスターリンの仲間らしい。

 そんな光景を眺めていると変な匂いが鼻に入ってきた。

 今度はなんなんだよもう。

 周りを見てみると、辛うじて耐えていた警備隊の人間が地面に倒れて寝てしまっているのが目に入った。

 これは眠くなる匂いか。

 俺の体はあらゆる耐性があるようで、これくらいは問題ないが、もう教国との戦いってことにはならないか。


 ブラボーの言っていたことは本当らしい。

 第三の勢力ってやつなのか?


「イスターリン。先行しすぎ、私のミストの範囲に入ったらどうするつもりなの?」


 空間を裂いて、ビーカーのようなものを持った女性が現れる。

 空間魔法だって?!

 神級ランクの魔法じゃなかったか、あの魔法は。


「ミスト?残念ながら俺には効かん。帝国時代に耐性訓練を散々して異常状態なぞ、俺にはなんの意味もないからな」


「イスターリンが勝手なのはいつものことだからもう何も言わないけど、その武器の使用感どうなの?手に馴染む?ダグルドが開発したらしいけど」


 黒い羽の生えた女性はイスターリンにそんなことを聞くと、彼はバスタードソードを軽々振り回して答える。


「最っ高だぜ!ここまで扱いやすい武器なんざそうそうない」


 そう言うと、バスタードソードは白い光に包まれアサルトライフルの形に形状が変わる。


 なんだ、あの武器。


 形状が変わる武器なんてこの世界にあるのか!?

 それよりもこの状況かなりマズイのではないか。

 警備隊と魔物のほとんどが無力化され、リコリスやシルキー、ゴブレは既に気絶してた。

 ゼダルフは唸りながら耐えていたがそのうちに気絶してしまった。

 カイは、あれはもう死んでいる。

 とても生きているとは思えない。


 俺はいつものように動けず、戦力が落ちまくっている。

 今、あのイスターリンと戦うことになったら完全に100%負ける。

 今、この戦場でまだ意識があって立っているのはセブルスとセレスティ、俺だけだった。

 教国側では辛うじて教皇ともう一人の神官だけしか意識を保ってなかった。

 セレスティは黒い羽が生えた女性を見て何か思ったらしく、その女性に大声をかける。


「お、お前はシルヴィア!堕天した天使じゃないか!」


 さっき頭をワシャワシャしていたその女性はセレスティの方を向くなり、驚く。


「あら?あなた、セレスティじゃない。あなたも堕天したの?」


「僕は違うよ」


「ふーん、隣の少年でも気に入っているのかしら?」


 そう言って彼女は俺の方を見てニヤニヤしている。

 二人は知り合いらしい。

 というかサフィーネが言っていた堕天した天使ってあのシルヴィアとかいう奴なんだろうか。


「だったらなんだよ。お前には関係ないだろ」


 その会話を聞いていたイスターリンが俺の方を見て楽しそうに笑い出す。


「そいつ、俺が最後に取っておいたデザートじゃないか。殺してもいいんだろう?」


「ええ、構わないけど」


 どうやらイスターリンは最初から俺と戦うつもりだったようだ。

 あいつと戦って勝てる気がしない。


「じゃあ、そこの奴、俺と戦いな!」


 イスターリンはアサルトライフルを撃ち始める。

 魔力で作られた弾丸が数多く飛んできた。

 俺はそれを避ける。

 が、予測射撃をしたようで避けた先にも弾丸が飛んできていて、俺は数多くの弾丸を全身に受ける。


「グハッ!」


 アサルトライフルの掃射が止むと俺は魔剣を地面に突き刺し、両手でなんとか倒れるのを阻止しようとする。

 イスターリンは面白くなさそうな顔をして舌打ちをする。


「チッ、やってられねぇ、なんだあいつ。事前情報ではもっと強いって聞いていたが」


 セレスティが慌てて駆け寄ってくる。

 俺は柄から片手を離し、セレスティを制止する。


「こっちに来るな、セレスティ!大丈夫だから」


「で、でもこのままじゃダーリンが!」


 セレスティが泣きそうになりながらそう言う。

 その光景をみたイスターリンはまた舌打ちをしてアサルトライフルを再びバスタードソードに戻す。


「チッ、とんだ茶番劇だ。おいシルヴィア。俺は帰るぞ」


 そう言うと踵を返してイスターリンはここから去ろうとする。

 それを見たシルヴィアがイスターリンを追いかける。


「ちょっ、予定と違うじゃない!待ちなさいよ!」


「あん?予定だぁ?そんなもん知らねーよ!おい、そこの雑魚、てめぇはもっと強くなるはずだ。

 ここで殺すのは容易いが俺は戦闘を楽しみたいんだ。

 それまでその首は預けてやる、俺を楽しませてくれよ!」


 顔だけをこちらに向け、片目で俺を見ながらそう言う。

 相手にされていないみたいだ。


「待てよ……まだ戦える」


 傷口が完全に治るなり俺は地面から魔剣を抜き、構える。

 引き留めなかったら戦闘は終わっていたはずだが意識がある以上は抵抗させてもらう。

 戦力差が全然違うのはどうやっても分かりきっているが、ここで怯えてなにもしないのはできない相談だ。

 そんなことをしたらこの先俺は俺自身の行動に胸を張れない。


「今のお前じゃどうやっても俺には届かねぇよ。分かってんのか?ここで戦ったら間違いなくお前を殺せるんだぜ、俺は」


「そんなこと、知るか。国を守るためなら俺はどうなろうと戦う」


 我ながら変なことを言っている気はした。

 死にたくないとか散々言っておきながら勝てない戦いをしようとしていることとか、自分に矛盾していて笑ってしまう。

 あいつは人を殺すことをなんとも思っていない。

 血まみれで地面に倒れているカイを見る。

 どうやらまだ息はしているらしい。

 さすが主人公、しぶといな。


 戦ったらどうなるかなんて俺がよく分かっているが、ここで引くのはダメだ。

 気絶していなかった神官の一人がどこかへと走っていった。

 戦闘放棄か?

 それには誰も気づかなかったようで見ていたのは俺だけだ。


「ふん、早死にしたいのか、お前は。

 いいだろう、戦ってやる」


 イスターリンは体をこちらに再び向けてバスタードソードを構える。


「だが、俺は本気は出さねぇ、片手の武器だけで戦ってやる。

 もし俺に傷をつけることができたなら俺はさっさと撤退する。

 お前はまだ収穫の時期じゃない」


 舐められたものだな、手加減されるらしい。

 イスターリンは片手のバスタードソードを地面に突き刺し、もう片方のバスタードソードをロングソードへと変化させて構える。


「イスターリンの遊びが始まっちゃった」


 ビーカーを持った女性が気だるそうに言う。

 さらに地面に座ってしまった。

 観戦するらしい。


「つくづく思い通りにならない男ね、まあイスターリンに勝てるような人間なんてこの世界には存在していないでしょうけど」


 シルヴィアは自分の空間袋から葉巻を取り出すとそれに火魔法で火をつけて息を吸って煙を吐く。

 それを見ていた教皇は慌てて二人に声をかける。


「き、貴様ら、アトスを倒すのが目的ではないのか!アトスなど本気を出せば殺せるだろう!」


 その教皇の喉元にシルヴィアが腕を変形させたレイピアを突き立てる。

 天使とは体を変形させることのできる力でもあるのか?


「うるさいわね、少し黙りなさい。傀儡のくせに生意気よ」


「き、貴様!ワシを傀儡といったか!許せん」


 教皇は腰から剣を抜く。

 しかし、シルヴィアはダルそうにそれを見ている。


「許すかどうかの問題じゃないの。自分が操られていることにも気づかない人間ごときに何かできると思っているの?」


「なんだと。操られている?ワシが?」


 よろよろと後退りしながら教皇はそう言う。

 そして、なにか思い出したのか突然頭を抱え出した。


「クッ、なんだ?ワシはこんなことをするような人間では、なかった?」


 そのうちに体内に合体していたらしい黒いアーティファクトが外に出てきて浄化される。


「あらら、マズイことやっちゃったわね。まあ別にどうなろうと関係ないし、いいか」


「私達ならこれくらい大丈夫」


 葉巻を吸いながら髪をいじってそう言うシルヴィアにもう一人の女性がなだめるように答える。

 教皇は白くなった水晶を握りしめ地面に倒れる。


「どれくらいできるのか、試させてやろう。手を抜くんじゃねーぞ」


 イスターリンはバカにしたようにこちらを見てニヤニヤする。

 自分が負けるなんて微塵も考えてないようだ。


 イスターリンがどれ程強いのかはさっきの攻撃でよくわかった。

 彼はここで俺を殺そうなんて全く考えてないようで余裕の構えをしている。

 なのに全然隙が見当たらない。

 厳しい戦いになりそうだ。




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