第九十三話 怪盗伝説と暗黒組織
ついに始まった教国の侵攻。
俺は思うように体が動かせなくて変な感じが続いている。
現在、教国の本隊と思われる者達はまだ確認できていない。
諜報部のクロノはまだ帰ってきてないので偵察部隊を派遣するしかなかった。
警備隊の偵察に向いているというセブルス推薦の数名にそれを頼み、今はその情報を待っていた。
相手はアーティファクトを持っている組織なので、くれぐれも見つからないようにと言ったが大丈夫なのだろうか?
俺は町のはずれの東、家が少ない辺りに立って遠くを眺めていた。
クロノの情報から推測するに教国は南に位置するサウスビース獣王国から、アルデイト王国のヴァレッタを通ってここへとやって来るはずだ。
そういえば俺は教国がどこにあるのかはまだ知らない。
前にヴァレッタ村で聞いたリコリスの話ではこの大陸の四大国の話を聞いたが教国の名前は聞かなかった。
ということはアトロパテネス教国はさらに南に存在する国のはずだ。
大陸の南はシルキー曰く獣王国の港が存在するらしいので、海を挟んで別の大陸なのだろうか?
俺は隣で一緒に平原を見ているカイに聞いた。
「なあ、カイ。アトロパテネス教国ってのは別の大陸にある国なのか?」
「アトスは知らないよな、そういえば。
お前の言う通りだぜ。
アトロパテネス教国はこの大陸から見て真南の別の大陸の国だ。
教国はその大陸全てが教国の国土で、あちこちにアトロパテネス教の神殿とか神像がある教徒にとっては聖地だ」
さすが世界宗教なだけある。
いろいろ気になるが、いつか神殿とか神像とか見てみたいな。
今はそれどころじゃないけど。
「そうなのか。教国の大陸ってどれくらい広いんだろう?」
「そうだなー、メクリエンス帝国よりは小さいと思うぜ。それどころかこの大陸よりは小さいな、確実に」
「意外に狭いのかな?」
地理を知ったところで戦況が有利になるわけじゃないけど、気になるから仕方ない。
世界地図みたいなものはこの世界にはあるんだろうか?
もしあるなら見てみたいものだ。
「っと、帰ってきたようだぜ?」
カイの向いている方向に視線を移すと偵察に出した警備隊の人がこちらに来ていた。
近くまで来るなり敬礼して報告をし始める。
「報告します!この先の森での偵察結果ですが、教国の人間と思われる16名の存在を確認しました!」
偵察に向いていると言われただけあってみんな小柄で身を隠しやすそうな体格だった。
「ありがとう。セブルスにも報告したら一旦休んでくれ」
「ハッ!了解です」
そう言ってその報告をしてくれた人は後方で戦闘態勢の指揮をしているセブルスの方へと歩いていった。
いきなり偵察部隊を作ったからよく見ていなかったが、どうやらベルネットも偵察部隊に居たらしく、他の兵士がセブルスの元へ向かう途中でこちらに来た。
「ベルネット、偵察ありがとう。隊長の所へ行かなくても良いのか?」
「はい、他の人が報告するそうなので。
アトスさんは今回は力が上手く使えないと聞きましたけど、参戦しても大丈夫なんですか?」
「まあ、自分で言うのもアレだけど、力が使えなくてもそこそこ戦えるはずだからな」
「無理しないでくださいね!この国の柱なんですから、倒れられたら僕達が困ります」
「気を付けるよ。それで報告は聞いたけど、ベルネットは教国の人間をみて他に何か気づいたこととかあったか?」
ベルネットは少し考える。
「そういえば、みんな首に白い水晶のペンダントをつけていましたね。
もしかして例のアーティファクトですか?」
「ああ、恐らくそうだろう。聞きたいんだが、教国の中に不本意そうな顔をした人物とかいただろうか?」
するとベルネットはまた記憶を探り始めた。
ブラボーが言うにはそんな人物がいるそうなのだが、本当なのかどうか。
信頼できるような人物ではなかったのでもしかしたら俺を惑わそうとする嘘だったりするかもしれないが。
「不本意そうな顔かどうかは分からなかったですけど、16人の中で1人だけ仲間外れにされているような人間が居ましたね。
別に他の人が意図的にやっている訳じゃないと思うんですけど、その人だけ他の人とは距離を置いているというか自分から輪に入ろうとしてないのか。
ともかく、ちょっと変わった行動をしている人が居ましたよ。
でも、なんでそんなことを聞くんです?」
「いや、ただの興味だ。ベルネットも少し休んでくれ、参考になったよ」
「なんだかよくわからないですけど、お役に立てたのなら嬉しいです!」
ベルネットは嬉しそうにそう言って去っていった。
ふむ、本当のところは実際に見てみないことにはなんとも言えないが、ブラボーの言う教国をよく思っていない“彼”かもしれない。
問題はどうやって接触するかだな。
戦争だと思うが、何しろ相手が少数なのでそんな気がしない。
アーティファクトを持っているからどっかの国の軍隊くらいの強さはあるんだろうけど。
とはいえそこで個人と接触しようとするのは結構難しいような気がする。
戦場ではそんな暇はないはずだし。
「アトス、難しい顔してどうしたんだ?」
俺は難しい顔をしていたらしい。
カイに顔を覗き込まれ不思議そうに聞かれた。
「何でもないよ。ところでブラボー・ナイトって人物の名前とか聞いたことあるか?」
「ブラボー・ナイト?んー、ちょっと待て少し記憶を思い出してみる」
俺にそう言われたカイは目を瞑り、腕を組んで頬杖をする。
あんなに不思議な人物と出会っていたら記憶に残りそうなものだし、少し待ってみるか。
少しの時が過ぎてカイは何か思い出したようで、目を開ける。
「アトスの言う人物と合っているかは分からないが、各国で富豪やら国やらに盗みに入って金品を奪って貧しい人物に分け与える人間が居て、そいつが自己紹介した時にブラボー・ナイトとか言ったらしいぜ。
まあ、いわゆる義賊ってやつかな?
国民とか、貧民からかなり人気の人間だそうだが、素の正体を見た人間はいないって聞いたぜ」
いかにもな話を聞いた。
あの人絶対そういう系の人間みたいな雰囲気あったし!
そもそも蝶になって逃亡とか追われるような立場じゃなければ使わないと思う。
でもカイがあまり信じて無さそうな感じで言っていたので俺はさらに付け足す。
「ということは、都市伝説みたいな扱いなのか?」
「近いとは思う。
しかし、実際に目撃した人間もいて、その姿は白いシルクハットに白銀のタキシード、背中にはマントがついていて、顔には仮面が装着されていたとか。
なにより盗みに入られた富豪とかから冒険者ギルドを通して全世界指名手配犯になっているらしいから、実在はするんだろう。
俺は会ったことはないけどな」
全世界指名手配犯とか、世界を股にかける大盗賊みたいな人間かよ。
どこかの天才泥棒みたいな人間なんだろうか。
楽しい生活をしていそうだ。
俺は世界中から追われるような立場でそんな生活したくないけどね。
平和に生きていたいです、はい。
「おかしな人物もいたもんだな」
「だが、なんでアトスがその名前を知っているんだ?」
あの仮面野郎と出会ったのは早朝も良いところなのでみんなはあの人間を見てはいない。
だけど、なんでそんな人物がわざわざ俺に助言をしに来たんだろう。
謎は深まるばかりだ。
「いやまあ、なんとなく?」
曖昧に答えるとそれを変に思ったカイが突っ込む。
「なんとなくでブラボー・ナイトの名前が出てくるわけないだろ!」
「そうなんだけど、今日の朝にそんな人物が訪ねてきていたからどんな人物なのかなーと思って」
「た、訪ねてきていただって?!」
そりゃあ驚くよね。
全世界指名手配されている人間がここに来ていたなんて知ったら。
「よくわからないんだけど、教国との戦いにアドバイスみたいなのを送ってきたんだよ」
「そうなのか、なんでそんなことを」
「それは俺が聞きたいよ。
そのブラボー曰くなんだけど、教国とは別の勢力が介入してくることと、教国の本隊の人間の中で鍵になる人物の話を聞いたんだよ。
本当かどうかはわからないからみんなには伏せていたけど。
混乱するかもしれないしな、第三の勢力の話とかは」
本当は話した方がいいんだけど、信憑性が疑わしいので余計な話をしなくなかった。
第三の勢力、確かダークディメンションとか言っていたけど、本当に介入してくるんだろうか?
「第三の勢力、か。
一応俺は覚えておくが、伏せておこうぜ」
「いつもありがとうな、カイ。
その勢力の名前はダークディメンション、通称DDだって言っていたけど、カイは聞いたことあるか?」
「いいってことよ!それよりもその名前は聞いたことないぜ?名前からしてかなり不穏だが」
カイも知らないってことはつい最近できたばかりの組織なんだと思う。
ブラボーの話によれば世界滅亡の種を撒く組織だというのだが、ここまでそんなことなかったはずだ。
これまで体感したアーティファクトの事件はそれぞれ個人の問題だったし、裏に存在するのは魔神や邪神だった。
魔神の配下の組織だということは邪神とはまた別の実働部隊として存在するということになる。
もし本当にダークディメンションが存在するならば世界滅亡を達成させるため、今後アーティファクト関係じゃない問題を起こすだろう。
俺としてはアーティファクトが絡んでない分、損した気になるがきっと問題を起こす手っ取り早い方法はアーティファクトを使うことだ。
全損する訳ではない、と思いたい。




