第九十二話 怪しい仮面さん登場
昨日一日国を歩き回っていろいろ考えたが何の収穫も作戦もないまま、次の日を迎えてしまった。
二日くらいでいい作戦が思い浮かぶ訳はないんだけど。
俺は一般人だったので、いい作戦を考えられるようなスーパーマンではない。
小説を書いていた時は伏線や、冴えた作戦を考えるまでいくらでも時間はある、だって作ってるのは俺なのだから。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
時間は待ってくれないというのがのしかかってくる。
あの過去の世界で出会ったあの辺境伯ならばこの状況でもいろいろ動くのだろうが、俺は辺境伯とは違う。
「どうすっかなー。このままだと絶対マズイのは分かっているんだけど」
俺は朝、目を覚ますなり家から出ると思わずそう呟いてしまった。
近くでおすわりしていたゼダルフに聞かれてしまった。
「頭領よ、随分悩んでいるようだな?」
「ああ、うん。教国が侵攻してくる予定日は今日だけど何にも思い浮かばなくてな」
帰ってきて早々にこれが起きるなんて俺は知らなかったし、過去世界で大きなイベントを終えたばかりで疲れているのか、何か頭がスッキリしない。
「私が何か考えられれば問題ないのだが、私は思い浮かばない」
「いや、ゼダルフはいろいろもうやってくれているし、十分だよ」
昨日、ゼダルフはこの国に来た他の魔獣達に狩りを命令して動物の肉等を入手してくれたり、町の人達の手伝いを命令したりしていた。
肉を食べるのは何気に久しぶりで俺達はそれをありがたく思いながら食べていた。
「私としてはもっと役に立ちたいものだが。
無論、教国との戦いは我々も参戦するが」
魔獣も一緒に戦ってくれるなら戦力はかなりあると思いたい。
だが、相手もアーティファクトを使う。
並みの戦闘力じゃないのは間違いない。
ゼダルフの言葉をありがたく思いながら、俺は町を歩く。
こっちだってアーティファクトを持っているからどうやっても耐えられないということはないはずだ。
しばらく歩いて、いつもの広場に来ると見慣れない人物がいた。
白銀で縦長のシルクハットに白く輝くタキシード、背中には腰にまで届く白いマント。
その人物は俺に背を向けている。
なんだろう、あの怪しい人物は。
不審者ならば対応しなければと思って俺はその人物に話しかける。
「あの、誰なんですか?」
俺に話しかけられた人物が振り返ると、目を隠すためなのか仮面が付けられていた。
仮面をつけた人物か。
「おお!あなたはアトス様ですね!私、ブラボー・ナイトと申します」
丁寧に片腕を折り曲げてこちらに挨拶する。
物腰が優雅だ。
しかし怪しい人物なのは間違いない。
というか、名前絶対偽名だよな。
ブラボー・ナイトとかどう考えても本名じゃないし。
「だから、なんなんです?あなたは」
「これは失礼!アトロパテネス教国との戦いになると聞き及びましたもので、もう一つあなたにお知らせしておこうかと思ったしがない吟遊詩人ですとも!ハッハッハ!」
絶対嘘だ。
吟遊詩人と言われればなんとなく分かるけども、格好が派手すぎるし、仮面を付けることなんてないはずだ。
仮面とは正体を知られたくない時に使われるもののはずだ。
「なんです?」
「教国の他に別の勢力が加わると言ったら信じますか?」
「べ、別の勢力?」
教国の侵攻を知っていることにも驚いたが、別の勢力だって?
本当にそうならば教国との戦いというだけではすまなくなる。
詳しく聞きたい話だな。
「これはここだけの話ですが、国を持たない第三の勢力が必ず介入してきます。
その勢力は教国に味方することでしょう、お気をつけてください。
その勢力は魔神と呼ばれる存在を信仰し、独自にアーティファクトを集めています。
そして、世界中に世界滅亡の種を撒く組織です。
――その名はダークディメンション、通称DD」
「なぜ、その話を俺に?」
俺の変な顔を見たらしいブラボー・ナイトはおかしそうに笑う。
魔神を信仰する組織だって?
俺の本来の目的を知っているのか、あの人物は。
いや、知るわけはないだろう。
だが魔神が絡むというなら俺の一番の目的とは対立する組織だ。
「フフフ、私の気まぐれです。ともかく何があっても驚かないことです。
この世界は近く暗雲が立ち込める世界へと様変わりすることでしょう。
あなたならば暗雲を消し去ることができる。
私はそう信じています」
「お前は一体、何者なんだ」
「それは秘密としておきましょう。
一つ、助言を。
教国の本隊には現在の教国をよく思っていない人物が存在します。
彼はそれを表に出さないようにしていますが、この戦いのキーポイントは彼をどう動かすかになるでしょう。
彼を動かすことができれば教国に負けることはないはずです。
それでは、ごきげんよう、アトス様」
仮面のその人物は挨拶したときのように片腕を折り曲げて一礼する。
一礼が終わると全身が白く光始める。
「待ってく――」
俺が言い終わる前に、全身を数多くの蝶へと変化させ姿を消してしまった。
蝶は空高くへ消えていき、俺は広場でそれをただただ眺めて立ち尽くすしかなかった。
仮面の人物が消え去った広場を眺めて俺は目を擦る。
幻影だったり、しないよなぁ、多分。
「第三の勢力……」
あのブラボー・ナイトを名乗る不審人物の話が本当ならば、教国との戦いだけでは収まらなくなる。
あの仮面の人物はなんでその話を俺に?
疑問だらけだったが、侵攻に備えなくてはならない。
ブラボーの言う“彼”が誰なのかは知らない。
だが、ブラボーの言葉を解釈すると彼を動かすことができなければ負けると言っているようなものだ。
どう対策をしようか悩んでいたが、一つの道筋が見えた。
不審なあのブラボーの言葉を鵜呑みにはしないが、なにもないよりはやりやすい。
今回俺は絶対に活躍できないので、そっちに集中した方が良いかもしれない。
教国が侵攻してくるのは今日だが、いつ姿が見えるのか。
今はそれが気になる。
そう考えたところで、俺の体が動かしづらいことに気づいた。
「?なんだ?」
空は問題なく青いし、異変はなにも起こってないはずだ。
なのに体が重い。
もしかしてと思って複合魔法を使ってみようとするが、頭に霧がかかったような感じで上手くイメージができない。
やはりか。
ついに教国の侵攻が始まったらしい。
もしかして朝起きて外に出たときに感じたスッキリしない感覚はこれのせいだろうか?
俺は広場で大声でそれを叫ぶ。
「みんな!アトロパテネス教国の侵攻が始まったようだ!」
広場から大声で叫ぶと家からこの国の人達が出てくる。
日が出て間もないのでまだ家にいた人もいるらしい。
カイがこっちに来た。
「ついに来たか。ん?なんか体調悪そうだな、アトス。
大丈夫か?」
どうやら俺の顔色は悪いらしい。
来るなりカイにそんなことを言われてしまった。
「体に力が入らん。これまでこんなことはなかったから少し驚いている。
どうやら複合魔法は使えないらしい。
イメージが上手く出来ない」
「ということは例のアーティファクトの影響か」
「多分、そうだと思う」
ここから教国の姿が見えないのでこんな広範囲に影響を出せるアーティファクトが存在することに少し恐怖する。
きっと遠方から使ってもここまで効果範囲が広がるような物なんだろう。
「今回は休んでいろよ?」
「そうも行かないだろ、戦力はかなり落ちているが戦闘はできる」
「頑張りすぎるなよ。本調子じゃないときは他の奴に任せて休んだ方が良いぜ?」
カイにかなり心配な顔をされてしまった。
この国を作った人物としては戦場に出ないなんてことはしたくない。
本調子じゃないとしてもカイの本来の力は使えるので足手まといにはならないはずだ。
こうして、この国が存続するか否かの戦いが始まった。




