第八十七話 聖女様の話を聞こう
外で立ち話をするのも嫌なのでルシェルとアルシェ、執事を連れて俺の家に案内する。
ゼダルフは家の前で待機してもらうように指示をした。
家に入って、地面にいつものように車座になって話す。
「詳しく話を聞きたいな。
教国の話は俺の配下の人から既に聞いて知っているんだけど、ルシェルさんは教国から来たんですよね?」
「アトス様、普通に話していただいて構いませんよ。
救世主様に敬語を使われると変な感じがしますから」
俺はルシェルの聖なるオーラの影響で、こちらこそ敬語を使わないといつか罰が当たるのではとか思ってしまうので、少し困惑しながら救世主様と呼ぶルシェルを見る。
「いや、ルシェルさんってこう聖なるオーラ半端ないから思わずこんな話し方に」
俺がそう照れているとアルシェがおかしそうに笑いだす。
「フフフ、アトスさん、おかしいですわ。帝国の皇女のワタクシには普通にお話しになるのに」
「全くですな」
つられて脇に控えている執事にも笑われてしまった。
確かにアルシェには普通に話していたけど、あの時はまさかこの世界に空を飛ぶ飛行艇があるなんて思いもしなかったから、動揺してそんな余裕はなかっただけだ。
「なんとなくついてきてしまいましたけど、そちらのルシェルさん、全身真っ白なその姿はアトロパテネス教で有名な大聖女様と思うのですけど、一体どうしてこちらに来たんですの?」
大聖女?!
アルシェの言葉に納得してしまった。
確かに最初見たときに聖女なのかとか思っていたけど、本当に聖女らしい。
だとすれば俺のことを救世主とか言うのもなんとなくわかりそうだけど、そもそもなんで救世主とか言い出したんだろう。
「全身炎のように赤いあなたはメクリエンス帝国の第一皇女様なのでは?
私はアトロパテネス教国で兄さんからアトス様の力を封印するアーティファクトが作られたとことと、この国に侵攻を始めたという話を聞いてこうしてやって来たのです」
「あら?それはワタクシはまだ聞いていませんでしたけど、アトスさん、その話は本当なんですの?」
「これから話そうと思っていたんだけど、そうなんだ。
アルシェには関係ない話だから帝国に帰ってもらっても構わないぞ?むしろその方がいいと思う。
第一皇女ってことはその体は一人のものではないと思うし」
しかも内政にもある程度関わっているから、この戦いにもし巻き込まれたら帝国に少なからず影響が出るはずだ。
今回は俺の能力が使えなくなるアーティファクトがあるという危険な戦いのはずなので余計に危ない。
「ワタクシはそうしても構わないのですけど、アトスさんがどのように戦うのか興味がありますわ!」
アルシェは帰る気はないらしい、困った。
脇に控えている執事は頭でも痛そうに両手で両方のこめかみを押しながら話を聞いている。
珍しい困り方だな。
こめかみってあんまり押すような場所じゃないと思うけど。
「アトス様、教国の話を既にご存知なのですね!さすが、救世主様ですね」
いやいや、どこまで底無しの信頼を寄せているんだよ。
初対面でここまで積極的に来るとかやはり変態なのでは?
「それよりも、ルシェルさんはなんでそこまで俺のことを救世主って呼ぶんです?
しかも俺の名前とかは噂で知ったのかもしれませんけど、見たこともない人間をそこまで信頼するのは危険じゃないですか?」
するとルシェルはいきなり頬を赤くして両手で頬を挟み、くねくねする。
なんなんだよもう。
「あっ、その、私、アーティファクトの力で時空神様からあなたがこの世界の希望だと聞きましたので、聖女としてはその方を全力で信頼しないと!と思いました」
「てことは、胸のペンダントはやっぱりアーティファクトですか?
というか神の声が聞こえるって本当なんですか」
本当にそんな事ができるなら間違いなく聖女なんだけども、あのアーティファクトどうやって入手したんだろう。
欠片じゃなくて水晶の形だから浄化済みなのはわかるけど、俺以外にもそれができる人物が存在しているんだろうか?
「ええ、そうです。これは私が浄化したアーティファクトで、使うとアトロパテネス様と相互交信できるようになるんです」
「浄化したってルシェルさんはそんなことできるんですか?!」
衝撃の話だったので俺は驚いた。
「はい、教国の神殿で洗礼を受けた神官なら程度の違いはあれ誰でも可能ですよ?」
アトロパテネス教国、思った以上に教国している。
ルシェルの話を整理すると浄化できる人間はそれなりにいるってことか。
神に近い国なだけある。
もしかしたら俺以上に時空神やアーティファクトに詳しいかもしれない。
「私が浄化したこのアーティファクトはアトロパテネス様曰く、アトス様が浄化したのと同じくらいの純度だそうですけど」
「教国の神官ってみんなこれくらいの純度の浄化ができるのか?」
「いいえ、私と同じくらいの力があるのは教国でも私の兄さん位ですね。
でも神官が浄化したアーティファクトは、仮にも浄化したアーティファクトなので噂で聞いた他の国のような事故は起こりませんけど」
ルシェルの兄さんって神官の中でもかなり有能な人物なんだろうか。
別にそれはいいけど、話を聞く限り教国はそれなりのアーティファクトを所持しているはずだ。
前に他の国も集めているかもとか考えていたけど、どうやら本当に集めているらしい。
まあ、考え方を変えるとアーティファクトって力の塊だもんな、集めようとするのもわからなくはない。
「教国はアーティファクトを集めて何をしようとしているんですか?」
「少し前なら時空神様を復活させようってみんなで言っていましたけど、今の教国はアーティファクトを自分のために使うようになってしまいました。
私がそれに異議を唱えると教皇庁から追われるようになってしまって、各地を転々とする生活をしていました。
兄さんは変わってしまった教国を元に戻すために本音を隠しながら教皇庁の教皇の元で仕事をしています」
何が原因かは分からないが、教国は当初の目的からずいぶんと離れてしまっているらしい。
ルシェルもどうやら大変な生活をしてきたようだ。
それにルシェルの兄さんの本音って言われても俺には分からないけど、きっと元に戻すというなら大変な苦労をしているんだろう。
「だ、大聖女になんてことをしているのでしょう!
ワタクシの国もアーティファクトを集めていますけど、アーティファクトとは伝説の神の体の一部なのですか?」
あれ?
帝国もアーティファクト集めているのか?
そんな話、俺は聞いてないのだが。
「アルシェ、聞いてなかったけどメクリエンス帝国ってアーティファクト持っているのか?」
「アトスさんには言いませんでしたわね。
そうですわ。もっとも帝国はエネルギー源として活用していますけど、もしルシェルさんが言うように神の体だとしたらワタクシ達も考えを改めなければなりませんわね」
マジか、思った以上にアーティファクトは数があるらしい。
全部集めきれるのかな?
何個あるのか分からないのが困る。
しかし国が所持しているということは一つや二つではないはずだ。
「でも暴走したとか聞かないけど、俺が聞いてないだけなのか?」
「いえ、実はなぜかお兄様はアーティファクトを浄化する力があるのですわ。
帝国領でアーティファクトを見つけるとお兄様自ら現地に赴いて浄化したりしていますから、恐らくルシェルさんやルシェルさんのお兄様に近い力を持っているはずです」
皇帝は転生者だろうから、天使のサフィーネに転生させられた人間かもしれないので、そんな力があるのは俺にとっては不思議なことでもないけど。
そもそもこの世界に転生するってことは少なくとも世界を救うという壮大な目標があるはずなので、やはり不思議ではない。
言い換えればアトロパテネスを復活させることだからな、世界を救うってのは。
ともかく、クロノの情報は正確なのがよくわかった。
別に疑った訳じゃないんだけど、初めての情報がその話だったので面食らっただけだ。
そういえば、先遣隊を壊滅させてとか言っていたけど、どんな戦いをしたんだろうか?




