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第八十六話 帰還早々、事件の予感

 フォクトリア北西部遺跡前。

 

 クロノからの連絡を受けた俺は落ち着く暇もなく、仲間達にアトロパテネス教国がフォクトライト自由連合国へ戦争を仕掛けてきたらしいことを話す。


「アトロパテネス教国って世界中で信仰されているアトロパテネス教の本拠地じゃない!」


 一番最初に声を出したのはシャーリーだった。

 サフィーネから聞いてはいたがこの世界では知らない人がいないくらい浸透している宗教らしい。

 ということは、だ。

 前に嫌われるのを恐れて一人称を変えていたハーシェルに向かって、アトロパテネスに誓ってとか言ったと思うけど、かなり真面目に答えたってことになるのかな?


「クロノからの連絡だから間違いじゃない。

 急いで町に帰らないと」


「頭領、急ぐようならば町まで全速力で向かうが、どうする?」


 俺達の話を聞いていたゼダルフは事がかなり重要な話なのを理解して提案してきた。

 ゼダルフの全速力ってここに来たときより速いんだろうか?

 俺は問題ないと思うけど、来るとき他の仲間は結構大変そうだったのを思い出す。


「そうだな、じゃあこうしよう。俺とゼダルフは全速力で町に戻るけど、みんなはゆっくり帰ってくるというのは?」


「オイラは問題ないのだ!他の魔物達とゆっくり戻るのだ!」


「アトスがそう言うならそれでもいいが」


「私、も……ちょっと具合悪いからゆっくり、帰りたい」


「オイラはセイントウルフの全速力に耐えられるッスからアトスさんと一緒に帰るッス!」


 となると、俺とゴブレが全速力で町にこの情報を伝えることになるかな?


 カイはアーティファクトを使えば最強に近い能力があるから二人を守ってくれるだろう、それにアーティファクトを使ってないと激しく動けないし。

 ノルンは多分乗り物酔い何だろうからゆっくり帰ってほしいな、性格的にもその方が合いそうだしな。

 シルキーは魔物の動物とそれなりにコミュニケーションができると思うから、セイントウルフとは別のペガサスやユニコーン、グレートディアーを上手くまとめてくれるはずだ。

 


「私は魔法のおかげで風圧はなんともないから、アトスと一緒に行くわ!こうなったら魔道国の方に一回戻らないといけないと思うから」


 まあ、シャーリーは国主だし、今回の戦いには関係ないからそれでいいだろう。

 シャーリーは仲良くしてくれるけど、自由連合国と魔道国は別に同盟結んだわけじゃないからな。


「分かった、じゃあ俺とゴブレとシャーリーは急いで戻ろう。カイ、すまんが魔物と二人のこと任せるよ」


「おう、任せとけ!」


 ガッツポーズをしてカイは答えた。

 カイに任せておけば問題ないはずだ。

 そもそもこの自由連合国で帰る道中戦闘が起きるとは考えたくないが、用心はしておきたい。


「じゃあ、また後で会おう。ゼダルフ、頼んだよ」


「承知!国の危機とあれば配下の私が協力しない理由はない。

 これから住もうと思っている国なのでな、できることは何でもしよう」


「うん、ありがとう。

 じゃあゴブレ、シャーリー、行こうか?」


 二人にそう声をかけるとそれぞれ頷き、来るときに乗ったセイントウルフの背中に乗る。

 俺もゼダルフの背中に乗る。


「では行こう」


 そう言うとゼダルフは同時に来るときに出したスピードよりも遥かに速い速度で走り始める。


 マジで速いな!

 暴風みたいな速度だ。

 この速度は俺の光速より少しだけ遅いくらいで、この世界の人には出せないんじゃないだろうかってレベルだった。

 俺は魔法障壁のお陰もあって風圧は全く感じない。

 シャーリーも俺と似たような魔法を使えるので問題ない。

 問題はゴブレで、風圧を防ぐような物が顔の前にないので、すごい顔になっている。


 耐えているってレベルじゃねーぞ!?


 というか、その顔を見て俺は不覚にもつい笑ってしまった。

 変顔大会なんてのがあった断トツ一位じゃないだろうか。


 風圧のせいでゴブレは俺の顔を見ている暇はないみたいで気づきはしなかった。


          ☆


 町へはすぐについた。

 シャーリーは町に滞在していたマジェス魔道国へ行くドラゴン輸送に乗って浮遊大陸へと戻り、ゴブレは仲間のゴブリン達にさっきの俺の話を知らせに行った。

 ゴブリン達は今日も変わらず警備隊の手伝いをしているので多分セブルスにも伝わるだろう。


 ……それは良いのだけど、この国ではあまり見ないマジェス魔道国のドラゴン輸送とは別の、ドラゴン輸送の人が来ていた。

 何だろうと思ってゼダルフに乗りながら近づくと、ドラゴン輸送のドラゴンのライダーの背後に真っ白な修道服を着た女性がいて、俺を見つけるなりドラゴンから降りる。

 彼女は一体誰だろう?

 見たことのない顔だった。


 というか、白い。

 修道服だけじゃなくて、髪と瞳が真っ白だったんだ。

 心なしか肌も白いような。

 頭に帽子を被っていて髪はロングだが、後頭部は両脇から三つ編みっぽい物が伸びていて中途半端なポニーテールみたいな髪型をしていた。

 あの髪型って名前何だろう?

 俺は王女がしているよくありがちな髪型だなーとか思ったわけなんだけど。


 髪型はどうでもいいんだ、それよりも全身真っ白で、生前聞いたアルビノってやつなのかなって方が重要だ。

 まるで別の世界の住人を見ているような聖なる雰囲気をこれでもかと感じる人間だった。


 その白い妖精のような女性は俺をまじまじと眺めるといきなり顔を赤くしたのだった。


 ……なんで?

 熱でもあるだろうか。


「あ、あの、あなた様は噂のアトス様で合っていますでしょうか?」


 様だって?!

 なんだっていきなりご主人様みたいな呼び方をしているんだろう。


「え、えっとはい、そうですけど、なんで様なんです?俺はあなたのことは何も知らないのですけど」


 なんか近づくことすらも憚られるくらいの清いオーラを感じたため、つい敬語になってしまった。

 どこの聖女様なんだよ。

 聖なるオーラ半端ないよ、あの人。

 聖女という存在がこの世界にいるのかは全然わからないけど。


「ああ、やはりあなた様が救世主様なのですね!時空神アトロパテネス様に最大の感謝を!」


 その真っ白い人は胸の前で両手を組んで目を瞑りながら神に祈るようにそう言う。

 ヤベー奴じゃん!

 なんなのこの人?!

 いきなり救世主とな?何を言っているんだあの白い人は。


「え?はい?なんですって?」


 俺は聞き間違いかと思って聞き直す。

 突然、救世主とか言われても!

 その人の胸にあるペンダントをふと見ると白いペンダントだった。

 先についている白い塊の形もあって、もしかしてアーティファクトなのでは?と思った。

 形は完全に白い水晶で浄化済みの形になっていたから余計に驚いたけど。


「まあ!アトス様は謙虚なのですね!」


 キラキラ輝く瞳、というかもはやピカピカ光る瞳で俺を嬉しそうに見てくる。

 なんなのこの人、変態なの?


「いや、その、だからなんなんです、あなた。

 確かに俺はアトス・ライトニングと言いますけど。

 あなたの名前は?それとここに来た理由は?」


 すると一転して今度は慌てて咳払いをしたあと赤い頬のまま、一礼をして挙動不審になりオロオロしはじめる。

 なんだこの人、メンヘラなのか?


 そして、自分の頬を両手でバシッと叩いて挨拶を始めた。

 この人、わけわからんぞ。

 見た目が美しすぎてギャップが激しい。


「コホン、ええっとすみません、ちょっと舞い上がりすぎてしまいました。

 アトス様からすれば不審な女性でしたよね?ごめんなさい。

 私はルシェル・セイグリフと申します。

 教国からアトス様に危機が迫っていることと、アトス様のお手伝いを近くでしたいと思ってこの場所にやって来た者です」


 よくわからないけど、教国から来た人間らしい。

 危機といえば恐らくクロノからの話の通りのことなんだろうけど。


「頭領、この者は知り合いか?……むむ、よく見ると昔どこかで見たことがあるような」


 ゼダルフは俺の隣に立って並んでいるんだけど、ルシェルをみるなり考え込んでしまった。


「いや、俺は初対面だ。心当たりはない」


 そこに町を視察していたアルシェが執事を伴ってこちらにやって来た。

 アルシェ達と顔を会わせるのも久しぶりだな。

 俺を見つけるなり怪訝な顔でこっちに来た。

 近くに来るとアルシェは俺の前後を見て変な顔をした。


「アトスさん、その格好どうしたんですの?すごく血まみれなうえに、前後破れていて筋肉見えていますけど」


 しまった。

 そういえば、帰ってきてそのままの格好だからかなりすごいことになっている。

 上半身の背中と胸、腹辺りまでほとんど半裸である。

 突っ込まなかったあのルシェルとかいう人間はそんなことを気にしている暇はなかったのだろう。


「まあ、いろいろあってな。それよりもちょっとマズいことになった」


 俺がアルシェに話をしようとしたその時ゼダルフが声を上げる。


「思い出したぞ!」


 ビックリした、突然声を出すんじゃないぜ。

 思い出したって、どこかで見たことあるってやつのことかな。


「な、なんなんですの、その大きな狼は?すごく真っ白なのですけど」


 動揺するアルシェの言葉には反応せず、ゼダルフはその内容を話し出す。


「あのルシェルという人間。

 前に我々がダイアウルフだったときに、傷を治して行った人間だ」


「マジかよ」


 だとしたらルシェルって魔物を助けたってことになるよな。

 それを聞いたルシェルはゼダルフの方をジーッとしばらく見たあと、左手を下に右手をグーにしてポンッと左手の手のひらにくっつけて離す。


「色が変わってますけど、きっと雨風のせいで色が落ちたんですね!真っ白です!

 あなたはもしかして教国の方で傷だらけになっていた狼さんですか?」


 なんだろう、どこかズレた発言をしているような気もするけど、気にしないでおこう。


「やはりあの時の人の子なのだな。間違いなくそれは私だ」


 ゼダルフがそう言うと、ルシェルは近づいてきてゼダルフの顔の横、頬を触る。


「うわぁ!大きくなりましたねー、人の言葉を話すなんて、そこまで年月が過ぎていたんですね。

 私と同じ真っ白い色で親近感湧いちゃいます」


 気にしないでおこうとか言ったけど、もしかして本物の天然なのか、ルシェルって。

 魔物が年月をかけて人語を話すようになるのはあり得ることなんだけど、時期を考えると絶対にそんな年月経ってないよね。

 色とか人語、体の大きさとかは確実にアーティファクトのせいなんだけど。


 帰ってきて早々、また事件に巻き込まれるとは俺の平穏はしばらく訪れそうにない。




ここから四章開始です!

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