第八十四話 歴史の真実 その二
おかしい現象を体験してしまった。
あの一瞬感じた感覚のこと分からないが、負けたわけではないらしい。
「今度はこっちのターンだ」
俺は光速と風魔法を使い、上下左右から全面攻撃を仕掛ける。
あの巨体では完全に回避はできまい。
魔王はなす術もなく攻撃を受けていた。
正直こうでもして足止めしながら戦わないとまともに攻勢に出られない。
何しろあの魔王はあの巨体で俺と同じ動きをするのだから、一旦攻撃の手を緩めたら必ずまたあちらが攻撃を始めることだろう。
そうなったらさっきの二の舞になってしまうので意味のない攻撃を繰り返すしかない。
「どうした、反撃しないのか?」
できるわけもないんだけど、俺は挑発をしてみる。
魔王が今度は防戦一方になる。
魔剣を使って攻撃しているので思ったよりも効果があるようで、魔王の体は徐々に切り傷が増えていく。
隙をみて、腹を狙って縦方向から切ると、内部にあの黒いオーラを纏う魔剣があるのを見つけた。
しかし、魔王の体も普通ではないので切り傷や切られた場所は治っていく。
俺は上空から力いっぱい兜割りをするため、重力魔法を地面の方向に超重力が上から下に俺の体が引っ張られるように使う。
「ここまでしたらなんとかなってほしいな!」
ものすごい力で地面に引っ張られるのを感じる。
俺は魔剣を上段に構え、さらに風魔法を重力魔法と融合させる。
それに逆らわず、地面に一直線に落ちる。
魔剣を魔王の頭の近くから水平に降ろす。
そして、頭から下半身まで一刀両断する。
剣先から斬撃の余波が発生し、魔王の背後にある地面が渓谷のように裂ける。
魔王は声もあげる暇もなく沈黙した。
動かないのを確認すると回復する前に黒いオーラの剣を回収する。
回収を終えると同時に威圧感がある声が聞こえてきた。
「そこまでの力があるとは予想外だった。これは失敗したな。
お前のせいで過去世界から世界を破壊する計画は丸潰れだ。
俺は必ず全次元を消滅させ、俺達だけの世界を新たに作る。
邪魔をするな、口にするのも忌々しいアトス・ライトニング、いや、西坂悟!」
「なぜ俺の本当の名前を知っている!」
「教えるわけないだろう、せいぜい甘い夢を見続けるのだな、ハッピーエンド主義の偽善者が」
言い終えると気配が消えた。
あれは魔神だ。
これまで去り際にセリフを残していった邪神とは存在感が全然違う。
邪神とは本質的に何かが違う。
それよりも、なんで魔神が俺の生前の名前を知っているのだろう?
それに、ハッピーエンド主義の偽善者など、まるで見てきたみたいにそう言った。
何より、あの声はなぜかカイの声に似ているような感じの声だった。
俺は混乱しながら今話した魔神と思われる者のことを考える。
魔神とは別の分岐を辿ったカイだったりするのだろうか?
それとも、経緯は分からないが俺自身という可能性もあるのか?
だとしたら、なぜあんなに世界を憎むような言動をして、次元を滅ぼそうとしているのか。
思い当たる節は多い。
サフィーネが話したがらないのは、暗黒面に落ちた俺を知っているからなんだろうか?
もしそうなら、悲しそうなあの顔の説明もつくし、納得するんだけど、どうなんだろう。
あまり考えたくはない、もし魔神が暗黒化した俺だったならハッピーエンド主義の人間がなんでそんな状況になったのか。
「分からないことが増えたな」
そこにサフィーネが現れる。
「お疲れ様。しっぽの直撃を受けた時はアトスでもダメなのかと思ったよ」
「……聞いてもいいか?」
「なんだい?僕が君に話すことなんて、ないよ」
サフィーネはプイッと顔を背けて言葉を濁す。
やはり聞かれたくはないようだ。
その態度で俺の考えは間違ってないと確信してしまった。
「魔神の居場所が分からないって本当なのか?それにもしかしたら俺が魔神となった姿を知っていたりするのか?」
「……話すことはないと言ったはずだよ」
「答えてくれないか?話したくないならそう言ってくれ。
今のサフィーネは嫌いだ」
答えを言うことをためらう姿は初めてみるし、何よりその原因が俺にあるとすれば俺も黙ってはいられない。
「嫌ってくれていいよ。ともかく君にはあまり深く考えずに時空神様の復活をやってもらいたいんだ。
この世界を守るために」
サフィーネは少し弱々しくそう言う。
きっと魔神となった俺はここにいる俺とは別の歴史を歩いた結果出来上がった魔神なんだろう。
そしてサフィーネはそれを知っている。
それは俺が想像するような明るい世界ではなく、暗く絶望しかない世界だったのかもしれない。
だからサフィーネは恐らくそれを聞いて俺が世界を救うことに嫌気が差すことを心配している。
本当の気持ちは分からないし、俺の深読みだがそう思っている可能性はあった。
なんだかんだ言ってもサフィーネは優しさを持っている。
まあ、アトロパテネス自体が優しさの塊みたいな存在なのはクロノの時に少しだけ感じたから、直属の天使はその優しさを受け継いでいるんだろう。
全次元を維持するのは優しさを持ってないとやってられないと思うし。
「話したくないんだな。分かった。じゃあ今は聞かない。
話したくなったら話してくれ。
大丈夫、俺は大丈夫だから」
それを聞いてサフィーネは泣き出してしまった。
天使も泣くんだなとかこの場に似合わない考えをしてしまった。
「君、は本当に、優しいんだね」
「優しいのはどっちなんだか。ともかくアーティファクト回収完了だ」
俺はサフィーネが泣いていることを知らないフリをしてサフィーネに背を向けてそう言う。
魔王から回収して手に取った瞬間に黒いオーラを纏う魔剣は既に浄化されていて三つの白い水晶へと姿を変えていた。
戦闘が終わったのを感じたビスタリオやデオグレスがこちらに来るのが見えた。
近くまで来るとビスタリオが話しかけてくる。
「お前さん、よくあんな存在を相手にして勝つなぁ。俺様もビックリだ」
「私も遠くから見ていましたが、仮面様は本当に凄い方なのですね!」
こっちは絶賛取り込み中だってのに、サフィーネの姿は他の人には見えないので二人は普通に話しかけてくる。
タイミング悪いぞ、全く。
「まあ、途中かなり苦戦したがな」
「仮面さんは人間ではないのかな?遠くから見ていたが、一時致命傷を受けたように見えたが、その回復力もドラゴンと吸血鬼の力であるのだろうなぁ」
ビスタリオは俺の血が破れた服に張り付いているのを見ながらおもちゃでも見るかのように楽しそうに言う。
「ああ、確かに俺は普通の人間とは違っているからな、これくらいでは死なんさ」
感覚としては一回死んだけどね!
「俺様は化け物と戦ったということか、通りで勝てないわけだ!」
参った参ったと言いながらうんうん頷く。
「だが、これで王と将軍も拘束できた。革命は成功ということになるであろう。
助力感謝するぞ、仮面さん」
恐らく革命軍の方へ逃げてきた将軍とかは既に拘束されているのだろう。
王が地面に落ちた場所をみると革命軍の兵士が王を縄で縛っている光景が目に入った。
「レンドラー王と将軍は処刑されるのだろうか?」
「普通ならそうなのだがなぁ。今回の革命は恐らく仮面さんの力がなければ失敗していたのでなぁ。
隠し球もあったようだから、なお俺様達に勝ち目はなかっただろう。
そこでだ。処遇は仮面さんが決めてくれるか?皆も納得すると思うのだが」
「え?俺がか?」
困った。
俺はひどい暴君だったのをこの目で見たがやはり俺は人を処刑するなんて性格上できない。
だからビスタリオ達に処遇を決めてもらうようにと言ったが、一転して俺が決めなくてはならないらしい。
「処刑した方がいいのは俺様も分かっているのだが、この戦いは仮面さんに頼りきりで俺様達に処遇を決める権利はないに等しい。
どのような処遇でもいいぞ」
少し考えた後に俺は答えを出す。
「では、国外追放でどうだ?今後一切公国には足を運ばないこと、もしまた国内で姿を見かけた場合、今度は容赦なく処刑すると」
一度だけ許すが、その後は容赦しない。
こうすれば俺が去った後に処刑が起こったとしても俺はそれを見ることはない。
国民からしたらふざけるなと言われそうだけど、人が死ぬような光景はあまりみたくない俺のわがままだ。
「構わんが、仮面さんは甘いのだなぁ」
「それは俺もよくわかっているさ。ただ許すのは一度きりだ。次に出会うことがあれば容赦せずにやってくれ」
「うむ、委細承知した。あとは俺様達の仕事だ。
デオグレス、この国を任せたぞ」
ビスタリオは頷きながら、デオグレスに目配せをして彼にこの国を託すという意思を表した。
デオグレスは一礼する。
「わかりました。善き国になるように全力で人生をかけます」
こうして、バイゼルハーツ公国の革命は幕を閉じた。
この先のことはデオグレスやビスタリオに任せるしかない。
復讐を遂げさせられなかったマッキンリーには申し訳ないが、デオグレスやビスタリオが何とかしてくれるはずだ。
他の地方にいる貴族との関係がどうなるかは俺の知る所ではない。
しかし、未来の世界の公国の話を聞く限り、間違った方向へは進みはしないだろう。
後の問題は俺がちゃんとあの世界へ戻れるかどうかだけだ。




