第八十三話 歴史の真実 その一
もはや、革命などという次元の話ではなくなっていた。
俺の目の前には俺よりも二倍近い大きさのある魔王らしい存在がいる。
禍々しい波動を隠さず、いかにも強そうである。
巨大化は死亡フラグとか言われているのをどこかで聞いたが本当にそうなのだろうか?
「そりゃあ、乾坤一擲の作戦にもなるよな」
「うん、一部とはいえ魔神自身の力を預けられているからね、僕達では負ける可能性が高い。
それでも時空神アトロパテネス様の世界を存続させるために戦おうって言っていたから」
前に世界を救おうとか考えてなさそうとか思ったことあったけど、違うんだろうな。
俺が転生したのは自分の意思とはいえ、サフィーネ達からすれば世界を救える一筋の希望なのは確かだろう。
そもそも世界を救おうとか考えていないと適正者を探そうとか考えないもんな。
表面上は分からなかったが、俺が転生を断ったり、時空神復活を拒んだりしたら、かなり困ったことになっていたことは確実だ。
「やっと天使の本音を聞いた気分だよ。
さすが、時空神直属の天使だな。
しっかり世界の存続のことを考えているじゃないか」
「君といると調子狂っちゃうなー。僕達がやりたいようにやっているだけだからね」
サフィーネはこの状況にも関わらず恥ずかしそうに照れていた。
こんな神や天使だったら信じてもいいのかもな。
「それじゃあ、剣を取り出しさえすれば解決なんだな?」
「うん、そうだね。剣はあの体の真ん中、ちょうど下半身から上辺りにある」
俺はなんとなく気配が分かるくらいで詳細な情報は分からないので助かる。
サフィーネがいなかったら俺は手当たり次第戦闘していただろうな。
俺は魔王となったレンドラーの背後に何もないことを確認して、剣を引き左側に構え、居合の形を取る。
「一撃で決められるといいな!」
そして左から右に思いっきり振る。
トレントと戦ったときに行った剣閃だ。
空気を裂いて真空の刃が魔王へと迫る。
当たるかと思われた瞬間、驚愕の光景を目の当たりにした。
なんでも切れるはずの魔剣の剣閃が防がれたのだ。
「なん、だと!」
魔王は両手の剣をクロスさせ剣閃を止める。
若干後方に押されているが、剣閃は完全に防がれて消えた。
どうなっている!?
あの剣閃は山を簡単に切り崩せるくらいの威力なので簡単に防げる攻撃ではないはずだ。
なのにあの魔王は見事に受け止めて、無傷なのだ。
魔神の力の一部の影響なんだろうか?
だとしたら、魔神とはかなり強大な存在ということになりそうだ。
「……やっぱり防がれちゃったか」
「何か知っているのか?」
サフィーネがやっぱりというなら防がれることは想定済みの出来事だったのだろう。
何でその事を知っているんだ?
「……君にはまだ教えたくないな。ひとまずこの戦闘を終わらせることに集中して。
話はそれからでもいいと思う」
サフィーネが申し訳なさそうな悲しそうな顔をしながら言うので、教えたくない理由があると察した。
何が引っ掛かっているのか俺には分からないが、無理に聞くものでもないか。
「話したくないなら話せるまで待ってやる。
だからあんまり難しい顔をするな、サフィーネは楽しそうな顔が一番だ。
無理には聞かない」
サフィーネはちょっと驚いた顔をしたがジトーっとこちらを見てくる。
「君、自分で恥ずかしいこと言っているの自覚している?」
「恥ずかしいのか俺!?」
今のセリフのどこが恥ずかしいんだよ!
アトスさんには分からないね!
内心ではそうなんだろうなって納得している自分もいるが、もう気にしない。
戦闘に集中することにした。
「剣閃が防がれるってことは直接切り込むしかないかな」
「そうだね。剣閃は魔剣の力を薄めて出しているから直接ならまだ効果はあるんじゃないかな」
「りょーかい。んじゃやるか!」
そう言って攻撃を仕掛けて来ようと剣を振り下ろしてきたのを回避し、光速で動く。
サフィーネは姿を消す。
直接なら効果があるということらしいので避けた剣を魔剣で直接切ってみる。
すると若干の抵抗を感じたが剣は切れた。
「なんか変な感覚だな」
今の抵抗、俺の力と反発している別の力を感じた。
別の力ではあるはずなのだが、どうも別の力って感じじゃない。
俺と似たような、そんなよく分からない感想を感じた。
なんなんだろう、この感覚。
魔神ってのは俺と同じような力を持っているのか?
分からないが、剣は切れたので少し安堵した。
魔剣で簡単には切れない物体が存在していることに驚いたが、そうとなればなんとかなると思う。
もし魔神の力が未来のあの世界でも付与される可能性があるとするなら今後魔剣で切れない物体が出てくるかもしれないので、注意しなければ。
「なんかよくわからんが、切れるなら問題ない!」
俺はサフィーネに言われた下半身の上辺りを切ろうとするが、魔王も簡単にはそれを許さず、腹だけを後ろに引っ込め斬撃は空気を切った。
柔軟性半端ないだろ、あの体!
そうしているうちに下半身の先の鋭いしっぽが俺を突き刺そうと飛んできた。
「あぶね!」
俺は先端の尖ったしっぽを回避する。
回避ミスったら串刺しになるぞ、あれ。
しかもかなりの速度でしっぽが飛んできたので一瞬判断が遅れたらやられる。
それだけでもかなり大変だが、悪いことは続く。
切ったはずの剣は泥のようになって、魔王の腕にある剣へと吸い込まれていく。
すると剣が元に戻ったのだった。
「また再生能力かよ!もう飽きたわ!」
口ではそう言うが、内心少し焦る。
何回も再生するなら剣を切っても意味がない。
やはり本体の内部にある剣を取り出さないとこれが永遠に続くのだろう。
光速で胴体に移動し、魔剣を突き刺す。
これはちゃんと当たって胴体には深々と魔剣が突き刺さる。
「届いた!」
だが、魔剣を動かそうとすると固定されたように動かない。
怪力でも抜けないだと!
魔剣の周りには粘着テープのような皮膚が魔剣を囲むように纏わりつき動かない。
「魔法で魔剣強化するか」
魔剣に貫通魔法ペネトレートを付与する。
剣を動かしてみると少しは動くがやはりあまり動かない。
そんなことをしているうちに背後からしっぽが飛んでくる。
「くそ、一旦離れないとダメか!」
剣から手を離し、しっぽを回避。
そして、魔剣が手元に戻ってくるように命じる。
「来い!ステラ・マグナ!」
胴に刺さっている剣は姿を消し、問題なく戻ってきた。
焦った。
これで戻らなかったらどうしようかと思った。
単に胴体に突き刺しただけだと危ないな。
安心したのも束の間、魔王の蛇のようなしっぽが二本に分裂する。
「おいおい、勘弁してくれよ。戦ってる最中に進化しているのか、あれは」
二本になったと思ったら四本に分裂した。
マジかよ!なんだあれ!
これまで戦ったどんな敵よりも間違いなく強い。
「ファイアーボール!」
俺はイメージして、火魔法を飛ばすが、魔王には効かないようだ。
これは多分、魔法耐性も高いな。
「厄介だな」
次に貫通魔法を土魔法のアーススピアに付与した複合魔法を飛ばしてみる。
多少は効果があるようだが致命傷にはどれも程遠い。
「どう倒すか」
様子を見ていると、魔王となったレンドラー王の声が聞こえてくる。
「グハッ、か、神よ!何をするのです!」
魔王の胴体からレンドラー王が飛び出してきた。
気を失ったようで地面に落ちるなり何も言わなくなった。
「なんだ?」
魔王の姿は変わらないが、突然凄まじい速度で動き始める。
バカな、あれは俺と同じ速度じゃないか!
俺はしっぽが四本迫ってきているのを何とか視界に収めて回避するが、ギリギリで回避していたため所々かすり傷を負ってしまう。
幸い驚異の回復力で傷は瞬時に治るが、攻略法が思い浮かばないので防戦するしかなかった。
だが、地面がなぜかぬかるんでいる場所に足を取られ、こけそうになる。
こんな場所なかったはずだ。
これはもしかして妨害魔法の類いか!
そこに運の悪いことに直撃コースのしっぽが一本飛んできていていた。
あれは回避できない。
「マ、マズ――」
そのしっぽは魔法障壁すら貫通して俺に直撃し、胸に深く突き刺さる。
そこに次々と残りの三本が突き刺さる。
それぞれ、下腹部、両腕に刺さる。
「ゴフッ、あ、当たってしまった」
俺は食道から逆流してきた血を吐き出す。
多分内臓も持っていかれたな、これ。
しっぽが引き抜かれると同時に俺は地面に倒れ込む。
一瞬俺の意識の中で数えきれないくらいある何かの物の中から一つだけ消え去った感覚があった。
普通の人間なら即死なんだが、俺はなぜかそこまでの危機感がなかった。
「すっごく痛いけど、死ぬ気が全然しないんだが、どうなっているんだ?」
しかも普通にしゃべれる。
ここまで来ると予想以上に化け物なんだろうなって気がしてくる。
なんでこんな状態で生きてんの、俺。
仕留めたと思ったのか、魔王は後ろを向き、俺に背を向ける。
「待てよ……残念ながら戦いはまだ終わってないぜ」
すると声に気づいた魔王が恐ろしいものを見るような目をしてこちらを見る。
俺の体は一秒もたたないうちに完全に元通りに回復してしまった。
あれって完全に致命傷だったと思うんだけど、一瞬感じたあの感覚は一体なんだったんだろう。
「第二試合といこうか?」
自分の血が破れた服に張り付いて気持ち悪いけど、体は全く問題ないので戦闘はできる。
革命から始まったはずの戦いはまだ終わらないらしい。




