第八十二話 公国革命 その三
ライデンリッヒ丘陵で革命軍が姿を現したのを公国軍が確認すると、レンドラー王は突撃命令を下したようでやる気のない騎士団を先頭にこちらを数で押しきろうと迫ってくる。
「来たな。さて、仮面さん。人と戦うのは好きじゃないそうだが、王と将軍達を制圧してくれるか?」
ビスタリオは先程の俺の力を直接見たため、もはや俺は戦略兵器に近い存在だと思っているらしい。
いや確かに、戦略兵器なんだろうけどね!
「簡単に言ってくれる。騎士団の方は戦意はあまり高くないようだから、レンドラー王がいる場所へはすぐにたどり着けるだろう。
こちらからもなるべくやってもらいたいことがあるが、聞くか?」
「仮面さんが言うなら聞いておこうではないか、なんだ?」
「騎士団とは死者を出さないように戦ってくれ。あいつらは王のために動きたくないうえに、本来であれば革命軍側の人間だ。
戦えないように無力化する方向性で頼めるか?」
あの酒場でマッキンリーが話していたとき、ビスタリオにそんなことを言っていたはずなので、騎士団は本意ではない戦いをしている。
なら、死者は出したくない。
「厳しい要求だが、仮面さんの援護もあることだし、戦う気のない兵に負けるようなことはなかろう。
いいぞ、できる限りそうするように通達しよう。
俺様も公国の騎士団と真面目に戦いたくはないからなぁ」
ビスタリオは厳しいと言いながらも楽しそうに俺の要求を受け入れた。
本気で革命を起こそうと考えているなんて外見から見ると全然分からないけど、交流するうちにそれは表面上で内心はかなりの情熱を持って行動していることは知っている。
「戦いでこのような要求をするのは間違っていると思うが、頼む。
王と将軍は俺が何とかしよう」
そう言って行動を起こそうと思っていたら、レンドラー王が脇に置いている剣を鞘から抜くのが遠くに見えた。
その剣は真っ黒なオーラを纏い、どう見ても魔剣の類いだと判断できる。
それに邪悪な気配も。
サフィーネの言った通り、あれは魔神が汚染したアーティファクトなのだろう。
戦場全体におぞましい波動が放たれる。
空気がピリピリしている。
「っ!なんだ!」
異変を感じた俺は公国軍を見てみる。
先程まで戦意のなかった騎士団の兵士の目が炎のように真っ赤に染まって、声をあげながら突撃してきていた。
「これは、なんだろうか?先程までの公国軍とまるで動きが違うぞ?」
ビスタリオは焦っていた。
それもそのはず、あの騎士団は本気で戦う気配へと変わっていた。
とても手加減をしていられるような状況にはならないだろう。
「すまんなぁ、前言撤回だ。あれは余裕で戦えるような軍ではない」
「いや、これは仕方ないだろう。俺も驚いているのだから」
手加減なんて半端なことをしていたらこちらが殺される、そんな戦場へと激変している。
「恐らくレンドラー王が持っているあの剣のせいだ。あれに闘争心を支配されているのかもしれない」
「俺様には見えなかったが、仮面さんがそういうのであればそうなのだろうなぁ。
では、レンドラー王のことは仮面さんに任せよう。
その剣さえ止められればこの戦いの風向きは変わる。
元々仮面さんはその剣に用事があるだろう?」
「そうだが、戦線維持はできるのか?」
俺がそう聞くとビスタリオはこの状況になっても楽しそうに答える。
「舐められては困るなぁ。それくらいできなければ革命を起こそうなど考えていない」
別に舐めているわけではなかったんだけど、そう言うなら大丈夫だろう。
早急にレンドラー王の元へ向かわないと。
俺は頷くと光速でレンドラー王のいる場所へ走った。
公国軍の兵士を吹き飛ばしながら俺は一直線に王の元へとたどり着いた。
突然目の前に現れた俺を見て御輿の上にいるレンドラー王は驚く。
「き、貴様どこから現れた!」
レンドラー王は精神を支配されている訳ではないようで、事前にみたあの性格のままだった。
「それは関係ないな。その剣、渡してもらおうか」
俺はその場からジャンプして御輿に乗る。
この御輿、結構な大きさがあって、六畳くらいの広さがあったので、俺はレンドラー王と対面する形になる。
「こ、これは渡さん!ワシは神の加護を得た神聖なる王なのだぞ!」
その神、魔神ですよ。
神の加護というのは間違いではないけれども、それは負の加護だ。
「それはどうかな。お前は王になるべき男ではない。民を苦しめ、人を道具のように扱うお前にその資格はない」
「ぶ、無礼な!この国はワシの所有物だ!所有物をどうしようとワシの勝手ではないか!
貴様のような怪しい人物に何がわかる!」
「国とは国民一人一人のための物だ。決して個人の所有する物ではない。
それが分からないからこうして革命を起こされているんだ、きっとお前には一生分からないだろうが」
するとレンドラー王はみるみる赤くなり、俺にいきなり切りかかってくる。
「知ったような口を聞くな!この国に住むものはみなワシの奴隷だ!ワシの温情で住まわせてやっているのだ!
生活させてやっているのに逃げようとする愚か者は全て血祭りにするのだ!
恩を忘れて逃げようなどと恩知らずも甚だしい、大罪人だ!」
こんなやつに王を名乗る資格はない。
大罪人はどっちだ、あんたの方が余程大罪人じゃないか!
レンドラー王は心の底から暴君なのだと理解した。
「お前は狂っている。そりゃあ革命も起こされるよな!」
俺はレンドラー王の剣を自分の魔剣で受ける。
やはり魔剣で切れないものはなかった。
レンドラー王の持っていた剣は中程からスッパリ切れる。
「バ、バカな!この剣は並みの剣では切れないはずだ」
「王よ!援護します!」
偵察の最中に聞いた会話をしていた将軍が俺の背後から切りかかってくる。
その剣を俺は片手の中指と人差し指で止める。
怪力なので、これくらいは簡単にできる。
「な、なんだと!?クッ、離せ離すのだ!」
背後の将軍は剣を引こうとするが、ピクリとも動かない。
「邪魔をするな。ちょっと寝ていろ」
俺は回し蹴りを将軍に食らわせ、遠方にぶっ飛ばす。
それを見ていた王はガクガク震え始める。
「ま、待て、話をしよう!ゴールドや女はありったけ与えてやる。だからワシに仕えないか?」
悪党の常套句だな。
そんな気は全くないし、レンドラー王を視界に入れることすら嫌な感じがする。
「そんな提案に乗るとでも?どこまでも暴君だな、お前は」
俺はレンドラー王の方へ魔剣を脇に下げ歩きながら近づく。
「クッ……フ、フハハ!」
何がおかしいのかレンドラー王は笑い始める。
そして天に両手を掲げる。
何をしているんだ?おかしくなったのか?
「か、神よ!このレンドラーの身をお使いください!あの者を討ち滅ぼす力を!」
次の瞬間、戦場を渦巻く空気がまた変わった。
戦場を取り巻いていたピリピリとした空気はレンドラー王の身に全て集まってくる。
同時に騎士団の洗脳も解けたようで、戦闘が止まる。
空気が集まった方向をこの戦場にいる全ての人間がみる。
「ガフッ、フハハ!ハァーハッハッハ!分かる、分かるぞ!力が、力が溢れてくる!」
レンドラー王は口から数滴の血を流しながら大声で笑い出す。
そうしているうちにレンドラー王は元の身長から倍近くある大きさへと姿を変え、重さに耐えられなかったのか、御輿はギシギシと音を立てながら崩れる。
俺は地面に着地する。
「我はレンドラー王、あらゆる敵を討ち滅ぼす神の加護を受けし者」
もはやレンドラー王の面影はなく、別の人格でもあるような威圧感のある口調へと変わっていた。
あれはなんだ?魔王なのか?
レンドラー王の頭の両脇からは禍々しい角二本生え、下半身は鱗で覆われた蛇になっている。
しっぽの先はかなりの鋭さがありそうだ。
両腕にはあの黒いオーラを纏う魔剣が二つ。
さらに背中から真っ黒な翼が生える。
戦場の兵士達は本能が危険を告げているようで、革命軍がいる方向へと各自が剣や鎧を脱ぎ捨て逃げていく。
「あれは一体なんなんだ?!」
「わ、私の知るレンドラー王ではない!に、逃げるんだ!」
「この世の終わりだ!あんな存在に勝てるわけがない!」
等々、革命軍や将軍、さらには騎士団の人間の声だ。
サフィーネが慌てて姿を現す。
「僕は分かっていたことだけど、あれは魔神の力の一部を受けて魔王へと進化した姿だ。
僕達天使はあれとの決戦をしなければならなかったんだ」
「知っていたのかよ?!てっきり人間の軍と戦うものだと思っていたよ!」
周りの人間は全て後方へと下がり、俺は素の口調を隠せる状況じゃなかったのでそう言う。
「ごめん!君はどんな存在とも戦えるはずだから無用な心配はさせたくなかったのさ」
「いいけどさ、あの両手に持っている魔剣、両方ともアーティファクトなのか?」
「あれは模造品で、本体の剣はあの体の中央部で魔力生成炉の役割をしている。
それさえ取り返せればあの姿は維持できなくなるから、君に任せるよ」
なるほど。
な、なんとかなるといいなー。
レンドラー王改め魔王と戦うことになった。
勝てんのかな?




