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第七十七話 メイドと話そう!

 マッキンリーと話した次の日。

 ビスタリオは朝から忙しそうで、そのうちにメイドのサーニャを伴ってどこかへと行ってしまった。

 朝食を取り終えた後、部屋に戻った俺はベッドに腰掛けて一息ついていたのだが、暇になったのでサグナを呼び話すことにした。


「何かご用でしょうか?仮面様」


「少し暇なのでな、ビスタリオについてとか、君自身のことが知りたい。

 隣に座るといい」


「わ、わかりました。よろしくお願いいたします」


 何を思ったのか、サグナはいきなり顔を真っ赤にしてうつむきながら隣に座る。

 言葉選びミスったな……

 背後にいるサフィーネが返答できないことをいいことに俺をからかってくる。


「君、天然なの?それとも意図的にサグナを落とそうとしているの?

 この光景を見たらあの世界の女の子達は何て言うだろうねー」


 クッ、言い返せないのが腹立たしい。

 しかし、俺が言葉選びをミスしたのは事実なので、俺は慌てて訂正する。


「いや、悪い。深い意味はない。勘違いさせてすまない」


「い、いえ、うっかり変なことを想像した私が悪いのです!仮面様は何も悪くはないです」


 サグナは可愛らしく緑色のポニーテールを揺らしながら首を振る。

 その顔は変なことを想像してしまったのか、赤い。


「それでなんだが、今日はビスタ卿はどこへいったのだ?

 姿が見えないようだが」


 朝から忙しそうにしていたのは知っているけど、どこにいったのかはまるでわからない。


「私も詳しくは知らないのですが、今日は屋敷には帰ってこられないと仰っていました。

 屋敷に留まっている他のメイドの話では中央部や他の地方の貴族様の中で、革命に裏から協力している貴族様の所を巡るのではないかと言っていましたけど」


 中央部や公国の他の地方にも裏から支援している人間がいるらしい。

 そう考えると誰がやらなくても革命自体はいつか必ず起きることになるんだろうな。

 ビスタリオのやっていることはその時計の針を早く進めたということなのかもしれない。


 もっとも、俺としてはそうしてくれないと未来の世界に繋がらないから困るのだけど。


「そうなのだな。しかしビスタ卿が動かずともいずれこうなっていたのだろうな」


 するとサグナは首を振る。

 違うんだろうか?


「仮面様が言うことは間違いではないです。

 でも、ビスタリオ様が動かなかったらここまで革命が現実味を帯びることはなかったかもしれません。

 首都ライデンリッヒにいた頃にビスタリオ様はすでに内部から、いずれ起こす革命のために方々で火種を作っていたとか。

 私はまだここに来て間もないのですが、サーニャさんからそのような話を聞きました」


「そうなのか。

 そういえばサーニャはメイド長みたいなものなのか?」


 いつもビスタリオの近くにいるあのメイドはそんな立場なのかと少し気になっていた。

 サグナは俺の言葉を聞くと人差し指をアゴに当て、少し上を向いて考える。


「メイド長と言えばそうだと思いますけど、少し私達とは違います。

 メイド長自体はこの屋敷で他に存在していますけど、そのメイド長様もサーニャさんよりあとにここにお仕えするようになったとか。

 だから、ビスタリオ様が最初に助けた奴隷はもしかしたらサーニャさんなのかもしれないです」


 ということは、ビスタリオとサーニャは誰も知らない秘密の関係なのかもしれない。

 それこそ恋人みたいな。

 貴族とメイドは身分の違いもあるから中々恋愛結婚はできないはずだ。

 駆け落ちでもしないと無理だと思う。

 そもそも貴族は子供の頃から既に許嫁が存在しているはずなのでなおさら難しい。


 俺の深読みだが、もしかしたら革命を起こす理由のひとつでもあるのかもれない。

 ビスタリオは革命を終えたら一般人になると言っていたし、あり得ない話ではないはずだ。


「なるほど、じゃあビスタ卿とサーニャの出会いは誰にも分からないのだな」


「ええ、そうですね。私達メイドの噂話では恋人なんじゃないかと時々話していますけど。

 あっ、ちなみにサーニャさんは普段はクールに見えるかもしれないですけど、この噂を聞いて顔を赤くしてそんなわけないでしょうと否定しているとか」


 なにそれ可愛い。

 サーニャって端から見たらかなりクールに見えるんだけど、ちゃんと女の子している。

 というか、そんな反応するってことは少なくともサーニャはビスタリオのことが気になっているんだろうな。


「へぇ、意外だな」


「ですよね!やっぱりそう思いますか?

 その反応をみて他のメイド達はサーニャさんは絶対ビスタリオ様のこと好きだよねって言っていますよ」


 楽しそうに話すサグナを見ているとこっちまで笑ってしまう。


「随分楽しそうだな、サグナも恋バナとか好きなのだな」


「あっ……す、すすす、すみません、メイドごときが軽口を叩いてしまって」


 慌てて頭を下げるサグナ。

 俺は楽しいから構わないんだけど、確かに客人にする態度ではないんだろうな。


「俺は構わんぞ、仮面で表情は見えんだろうが、これでも楽しんでいるのでな」


「ほっ、よかったです。私、メイドになってまだ半年くらいしか立ってないのでまだまだ半人前なんです」


 頭を上げて少し恥ずかしそうにそんなことを言う。

 ほっ、とか口に出してわざわざ言う人始めてみたぞ。

 前に温泉でセレスティにからかわれたのはセレスティ曰くわざとだからノーカウントにしよう。


「半年なのか、それにしては元気なのだな。少し前まで奴隷だったなど信じられんが」


 目の前にいるサグナは昔奴隷だったことなんて全く感じないほどに明るい人間だった。


「ビスタリオ様とこの屋敷の人達が本当に良くしてくれて、解放される前は絶望しかなかったのですけど。

 他のメイドさんも優しい方が多くて、私思ったんです。

 あっ、ここでなら絶望する必要はないんだって。

 それから私はメイドの仕事を一生懸命勉強して今、こうして初めてのお客様のお世話を任されるまでになりました」


「君は頑張り屋なんだな。俺が初めて担当する客人でよかったな」


 俺は思わずサグナの頭を撫でてしまった。


「あぅぅ、仮面様恥ずかしいです」


「おっと、すまんな、無意識に手が伸びてしまった」


 俺はサグナの頭から手を離す。

 若干寂しそうな顔をしたサグナだったが気にしないことにした。

 近くに浮いているサフィーネにジトーっとした視線を向けられる。


「全く君って奴は。女の子をみると落としたくなる人物なのかな?」


 そんなつもりは全くなかったんだけどな!

 しかも反論したら変な人になってしまうのでサフィーネに反論できないのが悔しい。

 あとで覚えておけ。


「いえ、私は別に気にしません。メイドなので体を差し出すことも仕事の範囲ですので」


 そうは言うがサグナは真っ赤な顔をしてこちらを見ている。


「いや、俺はそんなこと全然考えてなかったから、楽にしてくれていいぞ。

 俺はただの旅人だからな」


 ただの旅人にここまでもてなしをする辺りビスタリオはやはり変わり者なんだろうが、目をつけられてしまった以上は流れに乗るしかない。

 まあ、貴重な一人旅なので俺はそれも楽しんでいるけどね!


「仮面様はどこか不思議な雰囲気をお持ちなのですね。

 こう言ってしまうと失礼かもしれませんがビスタリオ様に似ている部分があります」


 ビスタリオは俺と同じような現代世界の考え方を持っているはずなのでサグナの言うことは間違ってはいないんだろうな。


「それは言い過ぎだ。ビスタ卿は天才に近い才能を持っている、俺とは似ても似つかんよ」


「そうでしょうか?」


「うむ、そうだろう。さて、話は変わるがサグナは革命が終わったあとは何をするつもりなんだ?」


「私ですか?ビスタリオ様にいろいろこの先の仕事の話を聞かされましたけど、まだ決まってないです。

 ビスタリオ様は革命が終わればローゼンシュタイン家の領地を公国に渡すそうですけど、私達からすると困ってしまうんですよね。

 私達はみんなビスタリオ様に助けて頂いた人間なので、離れようとか考えていませんでしたから」


 助けられたならその人に忠誠を誓うとかはおかしい話ではないし、その助けた人から離れないといけないとか考えると確かに大変なのかもしれない。


「私がお世話させていただいた仮面様が最初で最後のお客様になるかもしれませんね」


「確かに、俺は革命が終わるまでここにいるつもりだし、そうなるかもしれないな」


「仮面様は革命が終わればどこかへと旅立ったしまうんでしたよね?

 またいつか会えれば、その時は素顔を見せてくださいね!」


 その“いつか”は絶対やってこない。

 それを知っている俺は少し寂しくなったし、サグナもなぜか少し寂しそうな顔をしていたが過去の世界なのでこれ以上サグナに関わる訳にもいかない。


「暇潰しに付き合ってもらったので礼は言おう。その時はまた楽しく話そうではないか、素顔でな」


 ――嘘をついた。

 俺がサグナに素顔を見せることはないだろう。

 ここは過去の世界なのだから。




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