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第七十六話 ベテラン兵士との戦い

「何やらおかしな話になったが、仮面さんならば問題ないだろう。

 お前さんの実力、見せてやれ」


 イスに座っているビスタリオは顔だけこちらに向けると俺にそう言ってきた。


「まあ、そうでもせんとあのマッキンリー卿は納得しないだろうからな」


 俺がマッキンリーに顔を向けると彼は視線を受け取ったのか、人を舐めたような目で笑い始める。


「フハハ!随分な自信があるようだな、どれ程の力があるのか、見物だな」


 俺がおかしなことを言っていると思っているようで、バカにした態度を崩さない。

 見てろ、ビックリさせてやるから。

 人と戦うのは好きではないが、人をバカにしている視線だったので面白くなかった。

 マッキンリーは腕組みを解きキセルを片手にもう片方の片腕を上げて、水平に降ろしキセルを咥えて再び腕組みをして、また喫煙を始める。


 誰か戦ってやれという合図なのだろう。

 後ろにいた兵士達はそれぞれ顔を見合せ、じゃあ俺がと、一人出てきた。


「ところで聞くんだが、ここにいる兵士は将軍達との繋がりはないよな?」


 ビスタリオが鋭い視線でマッキンリーを見る。


「それは俺に何のメリットがあるというのだ。

 わざわざ嫌いな将軍共に情報を流すなど、虫酸が走る。

 安心しろ、ここ連れてきた者達は俺の指揮下の兵士たちの中でも俺が信頼している人間だ」


 マッキンリーは心底嫌そうな顔をして喫煙の速度を少し早める。

 余程将軍達が嫌いなんだろうな。

 というか、将軍達の爵位とかはやっぱり公爵とかなんだろうか。

 話を聞く限りマッキンリーは中間管理職に近い立ち位置なのかもしれない。


「ならば、大丈夫か」


 ビスタリオはマッキンリーの言葉を真実だと見抜いたらしく、出てきた一人の兵士と俺を見る。

 外で戦うとビスタリオと内通していることがすぐにバレるそうなので酒場の内部で戦うとのことだ。

 この酒場は閉店してそれなりの時が経つらしい、なぜ分かるのかと言うとカウンターとかは埃を被っていたからだ。

 まだ閉店していないのなら埃を被ることなどあり得ないはずだしな。


「かなり若いようだが、大丈夫なのかな?」


 出てきた兵士は中年に近い姿の人物だった。


「問題ない。ではよろしく頼む」


 俺は右に付けているロングソードを抜く。

 中年の兵士は刃が長いレイピアのような細剣のような剣と細剣の半分の長さの両刃のダガーのような剣をそれぞれ両手に持つ。

 二刀流か、二刀流と戦うのは初めてだな。


「ほう、左の剣はなぜ使わないのかな?それとも暗器の類いか?

 まあいい、ではこちらから行くぞ!」


 この過去世界に暗器なんて攻撃方法があったのか。

 いや、ビスタリオが似たことを魔法でやっていたしあるのかもしれない。

 しかし、暗器にしては目立ちすぎだろう。

 俺の服は軽装もいいところで、剣なんかの鞘を付けているとむしろ剣の方が目立つからな。


 レイピアが俺を貫こうと迫ってきた。

 俺はロングソードでそれを弾く、しかし、弾かれることは予想通りだったようで、左のダガーが脇から迫ってくる。

 俺はダガーを後ろに飛んで回避するが、すかさずレイピアの突きがやってくる。

 それをまたロングソードで弾くがまたダガーの斬撃が飛んでくる。

 これを交互に何回も繰り返された。


「やるな!」


 こうしていても防戦するしかないのでレイピアの突きを回避して、懐に入りロングソードを左から横薙ぎに振る。

 相手の男性はダガーでロングソードの軌道を逸らして紙一重で回避する。


 二刀流をやり始めて長いのか、熟練された動きで攻防両面とも全く隙がない。

 正直ここまで戦えるなんて予想してなかった。

 俺は一旦酒場の壁ギリギリに距離を取る。


「どうした、お前の実力はそんなものかな?」


「さすが熟練の人間だ。ここまでは間合いを見ているだけだ。

 では、今度はこちらから行くぞ!」


 俺は相手の攻撃を回避しながら並外れた動体視力で攻撃の動きをしっかり記憶していた。

 隙はないが、まだ対応できる。

 俺は光速で動き始める。


「なに?!」


 慌てて対応に回る兵士。

 俺は兵士の左から攻撃すると見せかけて、光速で右に移動して片足で飛び蹴りをする。

 右側に動いたことは見えていなかったようで反応が遅れている。

 兵士は左方面を防御しようとしていたのか、俺の目論見通りレイピアとダガーは左側に向けられていた。

 なので俺の飛び蹴りは兵士の脇腹に鋭くぶつかる。


「グハッ、フェイントか!」


 兵士は反対側の酒場の壁にマッキンリー達がいる場所にあるテーブルを巻き込みながら吹き飛んで激突する。

 マッキンリーは飛んでくる前にテーブルにいつの間にか置いていたキセルを慌てて手に取り、その光景を目を見開いて見ていた。

 ビスタリオは楽しそうに拍手をしている。

 マッキンリーの背後にいた兵士達は声を上げて驚いていた。


「まさか、あんな速度で人間が動けるわけがないだろう、その仮面の人間は本当に人間なのか?!」


 マッキンリーはイスから立ち上がりながらビスタリオの方を向いてそう言う。


「それは俺様には分からんなぁ。だが言葉が通じる以上人ではあるだろう」


 見てるだけなら間違いなく化け物に見えるんだろうな!

 先程戦った兵士はやれやれと立ち上がる。

 あの程度では気絶しないらしい、さすがだな。


「不意を突かれたな。君は城の将軍など相手にならないくらいの力を持っているようだ。

 まだ本気ですらないのだろうが」


 少し手合わせしただけで俺の力を知ってしまったらしい。

 公国の兵士達はかなり優秀なんだろうな。

 俺が知っている限りではアルデイト王国の国境警備隊くらいの練度はあると思う。


「公国の兵士は皆、それくらい強さなのだろうか?旅人としては少し気になる」


 この公国の軍隊の練度はいか程の実力があるのか、俺はマッキンリーに聞く。

 ビスタリオは変わり者の貴族だから砕けた口調でもいいが、マッキンリーはかなり高い爵位なのでこんな話し方でいいのか分からないが、俺は仮面のおかげで年齢不詳なのでただの旅人として話す。


「お前は旅人なのだな。いいだろう、教えてやる。

 バカ叔父は無能だが、この国の騎士は俺が司令官の地位になった辺りから完全実力主義に俺が変えた。

 各国の軍勢など軽くあしらえる」


 マッキンリーはやはり有能な司令官なんだろう。

 この公国で簡単には軍隊の構造改革なんてできるとは思えないからな。


「そうなると、やはり将軍直属の私兵達が問題であろうなぁ」


 マッキンリーの背後に立っていた兵士達は吹き飛んだテーブルを元の場所に戻す。


「だろうな。俺はこの国が滅べば……いや、バカ叔父さえ殺せるなら他はどうでもいい。

 俺の配下の公国兵達は動かさないことを約束してやろう、貴様と約束するなど癪だがな」


「そうしてもらえるなら、こちらとしてはこれ以上の収穫はない」


「ふん、あとは勝手にやれ、他の貴族共はどうするか知らんがな」


 話は終わりだというように、またキセルで喫煙を始める。

 そうは言うが、マッキンリーは本当に軍を動かさないつもりなのだろうか?


「分かった、その言葉信用しよう」


 ビスタリオはマッキンリーの言葉が真実なのかどうか分かっているのだろうから、俺が心配する必要はないか。


「その仮面の実力ならば一騎当千の力はあるだろう。恐らく単独で城に乗り込んでも問題なかろう」


「だそうだ、仮面さんは自分の目的を果たすといい。他のことは俺様に任せてくれ」


「うむ、武運を祈ろう」


 こうして、俺はあの世界で聞いた話とは違う革命の真実を体感する。



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