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第七十一話 辺境伯の屋敷

 大きい。


 何がって、ビスタリオの屋敷だ。

 洋館の形の二階建てでありながら、アルデイト王国のあの魔法学校よりは小さいが、どう見ても大きすぎる建物だった。

 俺の想像する貴族の屋敷よりも一回り大きい。

 洋館の近くには洋館よりは小さいものの、三階建てのそれなりに大きな建物があった。

 見た目完全にマンションだが、窓の数が多すぎる。

 一階だけで軽く五十くらいある。

 あんなに窓必要なのか?

 あの建物はなんなんだろう。


 ビスタリオの屋敷は港町ナフスブルクからの道を中央部の首都ライデンリッヒの方向に歩き、ナフスブルクに来るときにみたあの森を抜けてすぐの右側にあった。


 ちなみに歩きながらビスタリオが軽く教えてくれた情報だ。

 ビスタリオは俺が海を渡ってこのバイゼルハーツ公国に来たと思っているらしく、意外にも丁寧に話してくれた。


「というわけなんだが、ここが俺様の屋敷だ」


「お、大きいな」


「まあ、お前さんの言う通りだな。

 側にある建物は俺様の私兵が住んでいる」


 ということは結構兵士がいるんだな。

 あの建物、窓の数がめちゃくちゃ多いので、あれ一つ一つが個室になっているとすれば、三階まであるから150人くらいはいるよな。

 それで私兵ってことは、正規軍作ろうとしたらかなりの数になるのでは?


 革命を起こした貴族連合は確か3000人程らしいのでこれくらいの私兵くらいいるか、貴族だもんな。


「そうなんだな、だが、やはり貴族だ」


「驚いたなら俺様は嬉しい。バイゼルハーツ公国にようこそ、仮面さん」


 ビスタリオは来る前に言った通りに仮面さんと呼ぶことにしたらしい。

 名前くらい聞かないと怪しくないか?

 だが、ビスタリオは言動や体の動きでいろいろ見抜けるようなので、名前を聞かなくても問題ないんだろう。


 案内されるまま、大きな洋館の中に入る。

 すると、屈強そうな槍を持った騎士みたいな人物や、サーニャとは別の何人かのメイドがビスタリオを見つけるなり一礼する。


「おかえりなさいませ、ご主人様、そちらの方は?」


 メイド長らしき人物が仮面をしている俺を怪しそうに見ている。

 やっぱり不審者に見えるんだろうなー。


「この仮面さんは俺様の客だ。丁重にもてなせ、頼むぞ。

 名は名乗りたくはないそうだから、お前達も仮面様と呼んでやれ」


「!これは失礼を致しました。仮面様。ビスタリオ様のお客様ならば宴会の準備を致しましょうか?」


 この反応を見る限り、ビスタリオは気に入った人物を見つけるとこの屋敷に招待しているんだろう。


「うむ、よきにはからえ。今夜は宴会としようじゃないか!」


 いきなり宴会とか、ホントに?


         ☆


 俺はメイドの一人をビスタリオにつけられ、身の回りの世話を焼かれていた。

 今は客室らしき部屋に案内されて、そこそこ広い部屋に置いてある豪華なベッドに腰かけている。


「仮面様、何かご用がありましたら私、サグナをお呼びください。扉の外で待機しておりますので気軽に声をお掛けくださいね。

 何でもやらせて頂きます。ビスタリオ様のお客様ですから」


 サグナと名乗ったメイドは緑色の髪をポニーテールにしている女性だった。

 何でもと言われると変なことを考えてしまうが、過去の世界なので俺が何かに関わることは避ける。

 アーティファクトは回収するけど。


 サグナは一礼をして、外に出ていった。

 俺以外居なくなったところでサフィーネが話しかけてくる。


「君、トラブルにわざと巻き込まれたい人?」


「んなわけないだろ。何でか俺の周りでよくトラブル起きるけどさ」


 転生してから事件ばかりに巻き込まれているような気がする。

 小説家ならば主人公の周りに何かトラブルを起こさないと話が進まないからいろんなトラブル考えて書くけどさ。

 今の俺は小説家じゃないし。

 カイという人物の周りにはよくトラブルが起こる。

 しかも多分俺の小説の主人公じゃなくても、あの人はいろいろ巻き込まれていると思う。

 だから、もしかしたらその影響なのかもしれない。

 カイってトラブルメーカーみたいなところあったから。


「またまたー、死王国のときも魔法学校の時も君はノリノリで事件に首を突っ込んでいたよね?」


「……言われてみれば確かに。そう考えると俺は自分からトラブルに巻き込まれている、のか?」


 死王国の時とかは国の存亡がかかっていたから思わず協力しちゃったけど、魔法学校の時は俺が自分であの場所に向かっていたよね!


「僕は見ていて飽きないから楽しいけどね!」


「楽しそうだな、ちくしょう!

 ところで、俺がこの過去の世界で何かしたらマズくないのか?」


 現代世界においてはいろいろな解釈があるが、基本的に過去を変えるということはご法度とされることが多い。


「いや、全然?君が動いたからあの世界があるんだよ」


「変な感じだな。つまり俺が過去の世界でアーティファクト回収をしたからあの世界があるってことか?」


 まだ動いてすらいないので実感が湧かない。

 というか、俺が転生してきたあの世界はこの過去の世界で、俺の手によってすでに過去が改変された後にできた世界なんだろうな。


 意味が分からない。


 転生する前に過去が改変されてるとか理解できん。

 なので深く考えることはしないことにした。


「そう言うことだよ。僕は天使としてあらゆる世界線を見ているけど、君が混乱するのもよくわかる」


 え?それってパラレルワールド的な要素?

 もうなんでもありだな!この世界。


「もういいよ、深く考えても答えなんて出ないし。

 何より俺が考えたくない」


「君がそう言うならこれ以上は言わないけど、アーティファクトが回収されなかった世界線何てのも存在している」


「そりゃ、複数の世界線があるならそんな世界もあるんだろうけど。

 でも、その複数の世界線にも俺がいるんだよな?」


 するとサフィーネは少しだけ悲しそうな顔をしていたが、それは一瞬で俺の質問に答える。

 あの表情、一体何の意味があるんだろう。


「そういうことになるね。いろいろな道を歩いている君が存在しているよ」


 サフィーネはあまり話したそうにしていないので、深くは聞かないことにした。


「いろいろな世界があるんだな」


「そうだね。でも、気にならないのかい?」


「俺が歩いている道は俺しか知らないし、選ばなかった選択肢の方の世界は俺にとってはなかったようなものだしな。

 聞いたところでって気はする」


 生前の世界で誰かが言っていたが、選ばなかった道など初めから存在していないのと同義だと聞いたことがある。

 この言葉には俺も納得している。


「君は不思議な人だね。普通は気になりそうだけど」


「だってサフィーネ、話したくなさそうな顔をしているからな」


 サフィーネはさっきの表情を見られていたことを思い出して、キョトンとしていた。

 そして、笑い出す。


「ハハハ。君はホントに変な人だね。天使に対しても普通の人間に接するのと変わらないなんて」


「変か?」


 そもそも天使と話したことなんてなかったから普通の人間と同じような対応をしているだけなんだけどな。


「いや、そう言う人間だから人が集まってくるんだろうね」


 なんかよくわからんが、誉められているのだろうか?

 そんな話をしているうちに、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 俺が許可するか、呼んだ時にしか入ることはできないようなので、許可代わりにドアに向かって声をかける。


「入っていいぞ」


 そう言うとドアを開けて中に入ってきたのはサグナだった。

 サフィーネの姿は見えないみたいなので、サフィーネは浮いたままだ。


「仮面様。宴会の準備ができましたので私がご案内させていただきます」


「わかった、よろしく頼む」


「僕もこっそりついていくからよろしくね!」


 サグナには聞こえないので、俺はそれを聞き流しながらサグナの後についていった。



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