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第七十話 風変わりな辺境伯様

「おたく、マジで言ってんのか?」


 奴隷の荷車を運転していた御者は全ての奴隷を買うと言った青年を睨みながら言う。

 その視線をヘラヘラ笑いながら受け止める青年。


「嘘は言わんよ。お前さん達も毎度ご苦労なこって。

 それで売ってくれるのか?売らないのか?」


「おたくどっかの貴族様の息子か?ここにいる奴隷全て買うならそれなりの値段するぜ?」


 御者は鴨が来たと思ったらしく、揉み手をしながら商談の格好になる。


「二度は言わん。全てだな。お前さんも得するし、俺様も得するし、いいじゃないか」


 物腰が柔らかそうで軽いノリで言っているけど、全体的にひょうきん者みたいなイメージを受けた。


「では、六人全員で360万ゴールドになるが、本当に大丈夫なのか?」


 ボッタクリじゃないのか、その値段。

 俺は奴隷の値段なんて知らないけど。

 遠くで見ているが俺は視力と聴力はいいのでその話を聞いている。


「360万ゴールドって明らかにボッタクリじゃないか」


 思わずサフィーネが驚きながらそう言う。

 周りに人がいないのを確認して、俺は小さな声でサフィーネに聞く。


「どれくらいボッタクリなんだ?」


「奴隷制度が存在していた時期の話によると、この世界では奴隷一人、大体平均で30万ゴールドらしいよ。

 有能な奴隷は一人で100万ゴールド以上することもあったらしいけど」


 平均に合わせると本来の価格は六人全員で180万ゴールドくらいだろう。

 俺の個人的な感覚で言えばあの荷車の檻に入れられている奴隷達は連れてこられたばかりっぽいので失礼だけど、有能な奴隷だとは思えない。

 ということは相場の二倍以上の値段で取引をさせようとしているらしい、あの御者は。

 さて、ターバンの青年はどう出る?


「そうか、俺様の手持ちにそれくらいのゴールドはあったか?」


 脇に控えているメイドは探す素振りをするが、そもそもゴールドを持っていないらしく、両腕を伸ばしてひらひらさせる。

 それを見た青年は奴隷商人であるらしい御者に向き直る。


「ふむ、どうやら悪党に払うゴールドはないらしい」


 ちょっと、なに挑発してんだよ、あの人!

 御者はバカにされたと思ったらしく腰に付けていた鞘から剣を抜く。

 短気すぎるだろ、あの御者。


「下手に出てりゃ付け上がりやがって!バカにするんじゃねー!」


「おっと、怖い怖い。よくそんな短気で商人ができるもんだ、驚いた!」


 微塵も怖くなさそうな顔をしてさらに火に油を注ぐ発言をする。

 バカなのか、あのターバンの青年は!?

 見た感じ何の武装もないし、鎧を来ている訳でもないので、剣の直撃を受けたら即死じゃん。

 と思っていたら御者の剣が青年に迫る。

 何を考えているか分からなかったが、危なそうなそうなので俺はロングソードの方を抜いて、青年を助けようと動く。


 光速でその場所に行き、御者の剣を受け流す。


「な、なんだ貴様は!?」


 御者はいきなり目の前に現れた俺を見て狼狽える。

 その御者の首に手刀を入れる。


 やってしまった。

 大丈夫かな?

 御者は気絶してしまった。


「あんた、大丈夫か?」


 俺は後ろにいた青年に話しかける。

 青年は少し驚きながら答える。


「大丈夫だが、お前さんどこから来た?」


「ああ、あそこだよ」


 俺はロングソードを鞘にしまうとさっきまでいた場所を指差す。


「ほほう。お前さん、面白いな」


「なにを言っているか分からんが、あのままだったらどうするつもりだったんだ」


 俺は地面に倒れた御者を見ながら青年にそう言う。


「その時はその時。俺様の命運が尽きたなら剣は直撃していただろうなぁ」


 この青年と話してるとなんか調子が狂う。

 全然危ないって実感はないみたいだ。


「だが、助けてもらったのなら礼はしようではないか。俺様の屋敷に来ないか?」


「それはいいんだが、あの奴隷達はどうする?」


 檻に入れられている奴隷達は今の光景を見たが、そもそも抵抗する気力はないようで、どこか別の世界を見ているような無気力な顔をしていた。

 連れてこられた時にいろいろ諦めたんだろうな、可哀想に。


「ん?あいつらか?無論、俺様が引き取る」


「いや、この国のルールを無視してもいいのか?」


 するとその青年はおかしそうに笑い出す。

 なんでだよ、ルールなんだろ?!


「ハハハ。お前さんは中央部の貴族達と同じことを言うのだなぁ。

 もっとも本心ではないようだが?」


 この青年は俺の何を知っているというのだろうか?

 確かに本心ではないが、青年にはバレているらしい。


「ああ、サーニャ。あの者達を解放して俺様の屋敷で世話をしてやれ」


「かしこまりました、ではいつものように」


 脇にいる眼鏡をかけたメイド、サーニャというらしいが、サーニャは丁寧に一礼をして、檻の方に歩いていくと、檻の鍵を火の魔法で溶かす。

 いつもってことは、こんなことよくやってるんだろうな。

 なんか、俺が助けなくてもなんとかなったんじゃね?

 だって、あのサーニャというメイド、修羅場を潜り抜けてきた目をしていたから。

 青年のいざこざに毎回付き合っていたらあんな顔になりそうなものだ。

 あの青年、恐らくかなり頭が回る部類の人物なんだと思うし。


「さて!あとはサーニャに任せて俺様達は先に屋敷に行くとしようじゃないか!」


 断る前に俺の背中をグイグイ押しながら歩き出してしまった。


「それはいいけどさ、お前の名前は?」


「おお、そういえば!まだ俺様の名前を言っていなかったな!

 俺様はビスタリオ・ローゼンシュタイン。

 長いからビスタ卿と呼んでくれよ?

 この一帯を治めているしがない没落貴族だ」


 え、ちょ、ビスタリオ・ローゼンシュタインってさっきサフィーネから聞いたばかりの辺境伯じゃん!

 なんでこんな場所に来ているんだよ!


「ビスタリオ・ローゼンシュタインって辺境伯様じゃないか」


「フフフ、様など、俺様とお前さんの仲じゃないか!

 そう言うお前さんは、素性を隠したいから仮面をつけているのかな?

 ならば名前などいい。仮面さんと呼んでやろう」


 何かを察したビスタリオはそんなことを言い出す。

 俺としてはありがたいんだけど、相当怪しい人物に見えるんだろうな。

 ビスタリオは何を考えているんだろう。


「か、仮面さん。確かにちょっと理由があって顔を隠しているが、ホントにいいのだろうか?」


「構わん構わん。このバイゼルハーツ公国には怪しい人物が多いんでなぁ。

 その点、お前さんはまだ信用できそうだ。

 理由は聞かん。

 俺様も暇ではないのでなぁ」


 ところで、ビスタリオってかなり若いけど、ホントに辺境伯という爵位なんだろうか?

 イメージ的にはもっと年取ってるイメージだったんだけど。


「ずいぶんいい加減なのだな。自分で言っておいて悲しくなるが、普通怪しい人物だと思わないのか?」


「俺様は人を無償で助けるようなお人好しみたいな奴はある程度信用しているのでなぁ」


「お人好しは余計だ。あの光景みたら助けようと思うだろう?」


 まあ、生前の俺なら見て見ぬフリをしていたかもしれないが、できそうなことがあるならやっておきたいしな。

 転生していろいろやってるうちにどうやら俺は、生前の俺とは生き方が違ってきているんだろう。


「まさか!普通の人ならトラブルにわざわざ首を突っ込むことなんてしないだろう?」


 ビスタリオの言うことは間違いではない。

 さっき考えていた生前の俺は間違いなく一般人だったからビスタリオの言うようにトラブルは避けていきたい方だったもんな。


「確かに、そうだろうな」


「だろう?そんな中で自分からトラブルに首を突っ込んだり、巻き込まれたりする人物に悪い奴はそういない。

 と言っても信用を得るためにわざと首を突っ込む奴もいるがなぁ」


「どうやって見分けているんだ?」


「ん?話す声の音程や、体の動きだなぁ」


 えー、ビスタリオって天才みたいなやつなのか?!

 俺は、と言うかほとんどの人物ができないことだと思うんだけどな!


「お前さんは悪意があって俺様を助けたわけではないみたいだからな。

 それどころかどこか別の世界を見ている。

 この世界ではないどこかを」


 怖いよ、この辺境伯。

 俺が未来から来たこと、知っているんだろうか。

 そんなわけはないが、あまりに物事の本質を見抜くのでそんなことを考えてしまった。


 同時に、物事が見えすぎると言うことはドロドロした貴族社会からは嫌われるということになりそうだ。

 つまり、それが理由で左遷みたいなことをさせられたんだろうな。


 ともかく、ビスタリオというおかしな辺境伯と屋敷に向かうことになったのだった。



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